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不動産価格の上昇はいつまで続くのか。注意すべきキーワード「立地適正化計画」と「世帯数減少」

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日本の不動産の価格=価値は、今世紀半ばにかけてしばらく上がり続けるだろう。主な要因は人口の減少だ。市場のパイは小さくなるが、その中身は濃くなっていく。一方、足もとでは注意しておきたい動きもある。それは国が進める重要政策、立地適正化計画の本格的な進行だ。(文/朝倉 継道)

日本の不動産価値は上がり続ける

結論から言おう。現状、上がり続けている日本の不動産の価値は、少なくとも今世紀半ばにかけて、さらに上がり続けるだろう。もちろん、その間、先般のコロナ禍のような紆余曲折が生じる可能性も低くはない。それでも、極端に大きな破滅的天災や、わが国が巻き込まれるような戦争が起こらない限り、マクロなベクトルとして、そのような結果になると筆者は予想している。

そのうえで、読者にぜひ知っておいてほしい直近の注意点がある。現状、施行中ながらあまり知られていないある制度の存在だ。目前に近づく日本の世帯数減少とリンクしての本格的進行が予測されるこの制度について、筆者は、個人レベルのミクロな場面での不動産価値への影響を予想している。上記に併せて触れておこうと思う。

進む利用可能地の減少

まずマクロな話題だ。前提を述べたい。不動産の価値を量る条件についてだ。不動産の価値を形成する根本は土地にある。住宅地にしても、他の用地にしても、とどのつまりその価値は立地、すなわち土地に依存する。よって、ある国における土地の価値は、国土面積こそがその定量的な限界となる。なかんずく、国土面積の中における「利用可能地」がその上限となるわけだ。

その利用可能地だが、わが国では今後どんどん減っていく。理由は人口減少だ。人口減少は、それが進む地域におけるインフラ維持の必要性を無くしていく。よって、当該地からは生活インフラ、産業用インフラが消えていく。分かりやすい例が交通機関だ。鉄道が消え、バスも消える。あるいは学校が閉鎖されたり、病院が無くなったりもする。やがては水道、電気も来なくなる。すなわち、これらは人が住んだり、産業が立地したりといったニーズに応えられる土地ではなくなっていく。無住地となり、端から森に還っていく。つまり、日本の土地は事実上“狭く”なっていくのだ。利用価値を量り、計算するうえでの母数が減っていく。土地は現にそこにあっても、それは市場に存在するという意味での利用可能地ではなくなっていくということだ。

一方、そうした波に追われるかたちで、今後、人々はますます大都市・大都会へと移動する。すると、当然ながら、それらにおいては居住ニーズ・産業ニーズが過密化し、地価も建物価格も借家賃料も上がっていく。すなわち、不動産の価値が増す。なお、このことは現状においても大いに進行していて、端的には大都市部におけるマンションの価格高騰と高層化がそれを表している。

なぜなら、マンション=集合住宅とは、要は、それが建つ土地の価値を人々が費用を分担しつつシェアするかたちをいうのだ。そのうえで、これらの価格が高騰を続け、なおかつ建物を高層化させることでシェアの担い手を増やしているということの本質はまことに単純なものとなる。足もとに広がる土地の価値こそが、まさに蒸気を上げて沸騰していることを意味している。

ちなみに、筆者は北海道で育った。わが故郷の大地の多くは、人口減少によって近代以前のウィルダネスな姿に戻っていくだろう。かつての賑わった町や集落は草にうずまり、シカやヒグマが駆ける原野となる。これらは、繰り返すが、価値がある=値が付く、という意味での土地=不動産の概念からは外れていく。観光インフラの立地需要が集中するなど一部の例外を除いて、土地の価値を量る上での計算には組み入れられない場所になる。

よって、一旦まとめよう。冒頭に示したとおり、筆者は、現状上がり続けている日本の不動産の価値は、少なくとも今世紀半ばにかけて、あるいはその先にかけてもさらに上がり続けると見ている。ただし、その前提には、わが国の土地の価値を量るにおいて、そもそも計算外にはじき出される土地が増えるとの予測がある。要は、分母が小さくなるわけだ。結果、ニーズ(分子)を割った答えは大きな数字となっていく。

ステディ・ジャパン

以上のとおり、わが国において、国土面積は今後も変わらないものの(変わらないでほしいものだ。現状のウクライナのようには)、利用可能地は確実に狭くなっていくというのが筆者の見方だ。であれば、残るそれらにおいて、利活用のニーズが多ければ、それらの価値は上昇していくことになる。そこに住みたい、そこで商売をしたい、あるいはそこに投資したいといった、実需・仮需含めてのニーズだ。

その点、日本は恵まれた環境にしばらく置かれ続けると筆者は思っている。ひとつは内的要因だ。述べたとおり、国全体における人口減少下、人が消えるからインフラが消え、インフラが消えるから人が消えるという、現状のサイクルから地方が逃れることは極めて難しい。地方からの人口流出と大都市部への集中はおそらく今後も加速度的に進み、東京を頂点に、大阪、名古屋、福岡といった各エリアの不動産価値を着実に押し上げていくはずだ。

加えて、海外からの投資が増えると筆者は予想する。大きな要因は中国にある。いわゆる鄧小平氏の南巡講話以来、ここ約30年にわたって世界経済の成長エンジンだった中国だが、この間、惜しまれることに前時代的な国の体制を刷新できなかった。そのため、同国は今後世界的な不安要因としての側面を広げていくことになる。投資は減っていくか、鈍化するか、あるいは、大方が逃げ足の速い腰の据わらないものとなっていくだろう。

対照的に、日本はこの間、着実に信頼を固めてきたといっていい。震災にも、コロナにも、原子力災害にも、何となればデフレ・低成長にさえも、日本はおよそ取り乱すことなく、世界で最もステディな投資先のひとつとして、まさにステディ=安定的であり続けている。と、同時に、安全保障上必要な国際的アライアンスも巧緻に築いている。よって、日本企業や日本の不動産への投資は選択肢として非常に手堅い。中国投資からの移転先として、ポートフォリオの重要な一角として、今後はさらに世界の投資家から意識されることになるだろう。

そのうえで、皮肉なことに、こうした“ステディ・ジャパン”に最も期待する人々こそ、実は中国人投資家にほかならない。自国の体制と経済への不安を常に抱える彼らは、資産の逃避先としてのみならず、実需の対象ともしやすい(距離的に自ら住んでもしまいやすい)日本の不動産にとりわけ魅力を感じている。彼らは、自国の政府が日本への彼らの投資を反国家的なキャピタルフライトであるとして強引に締め付ける日が来ない限り、日本の不動産価値を支える力の一端となり続けるだろう。つまり、わが国の不動産価値の維持にあっては、隣国人民という頼もしい援軍も存在する。ただし、国防上の懸念が生じる取引がそうした中に紛れ込まないかについて、われわれは常に監視を厳としておく必要がある。

以上、マクロな話を続けた。そのうえで、以下も鑑みたい。それは、日本では勤勉かつ聡明な国民が、人口を減らしながらも今後30年近くは1億人を超える市場を維持し(国立社会保障・人口問題研究所 令和5年推計)、その間、ほぼ間違いなく安定した国家体制も保ち続けるであろうことだ。この国にアメリカほどのイノベーションは期待できないが、ヨーロッパの不安定感よりはかなりマシといっていい。頼りがいある投資先だ。

チェックしておきたい「立地適正化計画」の進行

次に、ミクロな足もとの話をしたい。日本の不動産価値・価格の今後を考えるうえで、個々人レベルで影響してくる可能性が、もしかすると間もなく急速に高まるかもしれない、ある政策が進行している。一般にはあまり知られていないだろう。「立地適正化計画」というものだ。これから家を買う人や建てる人は、これをしっかりと学ぶほか、地元の自治体がどのように動いているか、こちらもしっかりと調べておくことをおすすめする。

なお、立地適正化計画という言葉は聞いたことがなくとも、コンパクトシティならば耳に挟んだことのある人は多いはずだ。この制度は、まさにこのコンパクトシティ実現のために布かれている。

立地適正化計画制度は、2014年施行の改正都市再生特別措置法において導入された。今年で10年目となる。具体的には、各市町村において、人々の居住を促し、人口密度を維持する区域=「居住誘導区域」や、商業施設や病院、福祉施設などの立地を促す区域=「都市機能誘導区域」などが設定される。そのうえで、居住誘導区域外から居住誘導区域内への人口移転を支援するための施策が講じられる。なお、都市機能誘導区域は(当たり前だが)各施設を利用する人が集まる居住誘導区域内に置かれる。要は、この制度が進むことで、一個の市町村内において、人口および生活インフラが集中する地域と、そうでない地域が色分けされていく。当然ながら、両者における不動産価値にもこれらの影響は及んでいくはずだ。よって、当制度の進捗については繰り返すが注視しておいた方がいい。


立地適正化計画制度の意義と役割
(出典 : 国土交通省ウェブサイト https://www.mlit.go.jp/en/toshi/city_plan/compactcity_network2.html を加工して作成)

ただし、この制度は、今のところ「ちゃんと機能していないのでは?」とも言われている。国土交通省によれば、同計画の作成・公表を行っている市町村は今年の3 月31 日時点で568となっている(全国の市町村数は約1,700)。しかしながら、それらの中には、人を増やしたくない居住誘導区域“外”において、逆に人口の流入が見られる例もあるらしい。これについては、単に制度が“甘い”点がたびたび指摘されている。居住誘導区域外での開発行為等に対し、市町村は抑制のための勧告ができるが、できるのはそこまでだ。都市郊外の安い地価に惹かれる市場のニーズに対し、その程度では力が及びきらないであろう以前に、そもそも地元で波風が立たないよう、勧告が見送られるケースがどうやら多々あるようだ。

それでも、注意は怠れない。立地適正化計画を定めた市町村にあっては、先ほど触れたように生活インフラの拠点集約が着実に進んでいく。よって、不便さが増す居住誘導区域外での不動産価値が右肩下がりとなる確率は高い。住むにせよ、収益物件を買うにせよ、こうした場所への投資をうかつに行ってしまうと、後悔する可能性が高いことはいうまでもない。ちなみに、立地適正化計画については、現在、人口減に反して増えているわが国の世帯数が減少に転じる頃をもって、本格的、または必然的に機能する予感を筆者は抱いている。現状の予測では、日本の世帯数の減少は2030年頃から始まるとされている(国立社会保障・人口問題研究所 令和6年推計)。よって、その時期以降は、世帯が減るに伴い、街の郊外から人や家が減っていく動きに対し、立地適正化計画制度が拍車をかける状態となる。さらには、前記したとおり、現在は規定が甘いこの制度だが、その頃には改正・強化されている可能性も低くはない。筆者は、そのため、実際に不動産を購入する予定で「不動産価格の上昇はいつまで続くのか」を尋ねてくる人に対しては、以上の注意を必ず伝えることにしている。わが国の不動産価値は、繰り返すが、マクロには今後もしばらく上昇するだろう。だが、それは市場におけるアベレージとしての話だ。個々人は、身近なミクロの波に乗ったり、呑み込まれたりにもちろん注意しなければならない。そうしたなか、ひとつのポイントとして、筆者はあまり世の中に知られていない立地適正化計画の存在を挙げておく。

世間の話題にならず、世論を騒がさない制度は、内容が厳しいままでも粛々と実行されていくものだ。あとで不都合を叫んでも間に合わない。読者はそのことをぜひ知っておいてほしい。

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この記事を書いた人

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