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マンションの評価が変わる!? 管理状態を明確にする「等級評価」

小川 純小川 純

2020/07/31

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イメージ/©︎123RF

ストック数は655万戸 中古マンション市場

6月、「改正マンション管理適正化法」が成立した。この法律ではマンションの管理計画を自治体などが「適切」と認定する制度の創設も盛り込まれている。この背景には1980年代からはじまったマンションブームに建てられたマンションが2020年には築40年以上を迎えるとともに、市場流通戸数も18年には中古物件が新築物件とほぼ並んだことから、マンションの管理状態に一定の基準を設けたいということがある。
 
昔から「マンションは管理で買え」という言葉があり、管理状況は見逃せないポイントの1つとされる。しかし、実際にはマンション購入の際に重視されているものは立地条件と間取りで、管理はあまり重要視されていない。そのことは国土交通省が5年に1度行っている「平成30年度マンション総合調査」を見るとよく分かる。
 
マンション購入の際に考慮した項目のベスト5は、1位が「駅からの距離など交通の利便性」で、2位「間取り」、3位「日常の買い物環境」、4位「周辺の医療・福祉、教育等の公共公益施設の立地状況」、5位「眺望」で、「共有部分の管理」は10 位に過ぎない。


出典/国土交通省「平成30年度マンション総合調査」
 
とはいえ、忘れられがちなマンション管理だが、中古マンションでは、管理の善し悪しによって物件の程度に差が出るもの。築年数が経っていてもきれいな物件がある一方で、年数以上に古い印象を受ける物件もある。にもかかわらず、物件の管理状態は売買の現場での扱いは軽い。


 
「宅建業者が購入者に対してほとんどが契約の直前に重要事項説明を行っています。その説明によって管理の実態が分かっても、その段階で『契約をやめます』というふうにはなかなかなりません」
 
こう話すのは、マンション管理業協会事業部次長の前島英輝さんだ。
 
しかし、今後はマンション管理状況が重視されていきそうなのだ。というのも、18年末時点のマンションのストック数は655万戸に達しており、都市部では戸建ての空き家問題の陰でマンションの維持・管理の問題も取りざたされつつある。

また、16年に首都圏で新規供給された新築マンション戸数は3万5772戸なのに対して、中古マンションの成約数は3万7108件と初めて逆転。その後も中古マンションの成約数は3万7000件以上をキープしている。このように中古マンションは住宅マーケットのなかでも大きな市場になっている。

求められる管理状態の見える化

こうしたなかで国土交通省も、「社会資本整備審議会住宅宅地分科会マンション政策小委員会」を立ち上げ、地方公共団体によるマンション管理適正化への関与の強化・充実に向けた方策、マンション再生の円滑化など、ストック時代の新たなマンションのあり方についての検討を進めている。

もちろん、これまでマンション売買は、宅建業法によって不動産取引での重要事項説明が義務付けられていたが、16年に改正されたマンション標準管理委託契約によって、管理会社による情報開示の規定が変更。これを受けて16年以降の新築マンションでは新しい標準管理委託契約をベースに情報開示について規定がされている。しかし、それ以前のマンションでは、こうした情報開示が進んでいないのが現実。そこでマンション管理業協会では、トラブル防止や消費者保護の観点から管理情報開示を積極的に進める仕組みが必要と考え、マンション管理の品質を適正に評価する指標をつくるため「マンション管理適正評価研究会」を立ち上げ、指標づくりに動きだした。

「現状でも、売買の際には管理の実態について、仲介する宅建業者が管理組合の方に連絡をして管理の情報をもらい、購入者に説明しています。しかし、海外、たとえば、ハワイなどでは管理状況の開示は法律で義務づけられていて、ウェブで物件を探す際にこうした情報を見ながら、物件を選んでいます。これに比べ、現状の日本では立地条件や間取り、価格はすぐに分かるようになっていますが、管理の中身というのは見えていません。そこでマンション管理業だけでなく、仲介なども行っている仲介業者の方も含めた不動産業界として、情報を開示していければと考え、この研究会を立ち上げて意見を取りまとめています」(前出・前島さん)

評価指標はマンションの成績表

では、管理の評価指標とは、どのようなものなのだろうか。
 
評価に使われる項目は、売買の際に使われるマンション情報の詳細がまとめられた「重要事項調査報告書」をベースにしている。そこに東京都などがマンション管理の条例化したものを加え、評価対象にならないものを除いた170項目あまりをA、B、Cの3つに分類し評価の対象とされる。

A、B、Cそれぞれの内容は次のようになる。

A マンションの共有部分の説明で、自転車置き場、集会所などの共有施設などといった「基礎的情報」

B ペット飼育の可否、民泊利用の可否、管理会社への委託の有無など、購入者によって要不要、評価が分かれる「客観情報」

C 耐震性、管理費会計の管理、長期修繕計画の有無、管理組合の活動状況など

「分類Aは一般的なマンションの基礎情報になります。Bは人によって評価が分かれる項目です。たとえば、ペットについてはペットを飼いたいと思っている人や、アレルギーのある人にはとても重要な要素になりますが、そうでない人にはあまり重要ではありません。そして、Cというのは協会がこれから出す指針に照らして、物件の評価を行うためのキモになる部分です」(前島さん)

現在検討されている評価法は、こうしたA、B、Cの3つの分類をさらに「管理体制関係」「管理組合収支関係」「建築・設備」「耐震診断関係」「生活関連」といった5つの分野に整理し、それぞれの分野で評価条件を設定。各条件に点数を付けて、各分野ごとの点数の合計から、管理の品質をSからDまでの5段階のランクに分けて、評価しようというものなのだ。

「これはマンションの成績表のようなものです。『管理体制関係』というのは、管理組合としての組織・体制がどうなっているか。『管理組合収支関係』は財政面での修繕積立金が積み立てられているか、未収金はないかなど。『建築・設備』はエレベーターや消防設備などの法定点検がしっかりと実施されているかなどを確認します。『耐震診断関係』は昭和56年以前の旧耐震の物件であれば、診断がされているか、耐震不足であれば耐震改修ができているかどうかなどがチェックポイントになります。『生活関連』では消防訓練の有無、緊急対応の体制など管理組合として対応しているかどうか。これらを「◎○△×」の評価ごとにポイントを付与し、その合計点で等級評価が行えればと思っています」(前島さん)

指標評価を広めるために必要なこと

簡単にいってしまうと、中古車情報のサイトなどで、そのクルマの評価が行われているが、これをマンションに応用したようなイメージだ。

「中古車は数十万円~数百万円のもので、こうした買い物でも評価の見える化が行われています。一方、マンションとなれば数千万円単位の買い物になることもあるのに評価の対象が表向きの築年数や駅からの距離だけで、物件そのものの中身が全然見えないというのは、消費者保護の観点からもどうなのかということです。将来的にはマンションの物件情報誌やウェブサイトでそれぞれの物件情報とともに、こうした評価も掲載されるようになればと思っています」(前島さん)

とはいえ、こうした評価を行う際には、中立的な立場でその評価を行う人が必要だ。具体的な検査などはどのように行うのだろうか。

「評価については国や自治体が認定するなど、評価の担保が必要になります。マンション管理士や、管理業務主任者などのマンション管理の専門知識を持った人による評価が必要になるのではないでしょうか」(前島さん)

こうした評価を行うには、受ける側、つまりマンションの管理組合や住民の合意を得ることが必要になってくる、この点について前島さんは次のように話す。

「私たちとしては登録を義務化できればと思っています。しかし、法律による義務化になれば話は別ですが、そうでなければ何らかのインセンティブ、メリットがなければ進まないと思っています。そこで、たとえば国とか地方自治体から補助金を出してもらう、あるいは税制面での優遇などは考えられないか模索しています」

こうした評価は「投資の目安になる」と前島さんはこう話す。

「『マンションは管理で買え』といわれますが、実際にはそれが市場価格には反映されていません、最近では中古住宅市場のシェアも大きくなっており、今後はこうした評価も区分所有オーナーにとっては投資の目安になると考えています」

マンション管理適正評価研究会では、管理の重要性が注目される中で、その報告書の取りまとめを進めて、適切な時に発表したいとしている。

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この記事を書いた人

編集者・ライター

週刊、月刊誌の編集記者、出版社勤務を経てフリーランスに。経済・事件・ビジネス、またファイナンシャルプランナーの知識を生かし、年金や保険など幅広いジャンルで編集ライターとして雑誌などでの執筆活動、出版プロデュースなどを行っている。

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