BOOK Review――この1冊『変な家』 ネットで話題沸騰の【不動産ミステリー】にその後を加えた物語
BOOK Review 担当編集
2021/10/21
『変な家』 雨穴 著/飛鳥新社 刊/本体1400円(税込)
誰もが感じる間取りにある違和感……そこには必ずある隠された謎
その家は、閑静な住宅街に建てられた二階建ての一軒家。若い夫婦と幼い子どもが仲睦まじく暮らしていた。しかし、ある日、親しくしていたご近所へのあいさつもせず、一家は突然引っ越してしまう。その後、家は売りに出された。築浅で窓が多く、開放的な雰囲気を気に入ったある人物が、その家の購入を検討する。しかし間取りをよくみてみると、不可解な点がいくつもあった――。
『変な家』は、オカルト専門のライターである「私」が、その変な間取りの家に興味をもち、やがて家に隠された秘密を知るまでを描くフィクションだ。
「変な間取り」とは、次のような間取りだ。
1階のキッチンとリビング、寝室の間には、用途が不明の謎の空間がある。
2階には、子ども部屋を取り囲むように寝室やシャワー室、浴室などが配置されている。子ども部屋には窓が一つもなく、しかも入り口は二重扉になっている。
「私」は、知り合いの設計士の助けを借りながら、不可解な間取りの謎解きを試みる。ミステリー愛好家でもあるその設計士は、間取りの意味を夢中になって読み解くうち、ある恐ろしい仮説にたどり着く。さらにはその後、「私」と設計士は、似たような不可解な間取りの家がほかにもあることを知ってしまう。
この「変な家」は、なぜ建てられたのか。この「変な家」で、何が行われたのか。物語のラストでは、不可解な間取りの家が建てられた経緯が明らかになると共に、その家にまつわる長く悲しい歴史に終止符が打たれる。
しかし、最後の最後に、物語の見せ方を一変させる違和感が提示される。読者は薄気味悪さを抱えたまま、本を閉じることになるだろう。
この物語はフィクションだ。しかし、奇妙な間取りの家がもたらす不穏さや恐ろしさが真に胸に迫るのは、私たちそれぞれが「変な間取りの家」に心当たりがあるからではないか。
不自然なほど狭い部屋、急すぎる階段、なぜそこに取り付けられたのか分からない扉、開かずの間……。
そうした変な間取りの家について、「昔住んでいたアパートの間取りがおかしくてさ」「この前、こんな変な間取りの家をネットでみつけたんだ」などと、笑い話の種にしたことのある人も多いだろう。
しかし、変な間取りは、本当にただの笑い話で済むのだろうか。怪奇現象が起きたわけでもない、事故物件でもない。だけどもふいに、言いようのない違和感を覚えてしまう。もっといえば、「この間取りには何かの意図がある」と考えずにはいられなくなる。そういう間取りを知っている人は、案外たくさんいるはずだ。間取りの謎には、知りたい気持ちと知りたくない気持ちとを複雑に交錯させる魅力がある。恐ろしさに冷や汗をかきながらも「変な家」を読み進めてしまうのは、その魅力に抗えないからだ。
本書のもとになっているのは、インターネットを中心に活動するホラー作家である雨穴が、ウエブサイトやYouTubeで公開した「【不動産ミステリー】変な家」。ウェブサイトでは166万PVを獲得し、TouTubeでは900万回以上再生された話題沸騰の物語に「その後」の話を加筆し、書籍化したという。
多くの人が、「変な家」がもたらす恐怖をエンターテイメントとして楽しんでいる。それは、この物語はフィクションだという前提があるからこそ、だ。というより、この本で描かれた変な間取りの家が実在するのだとしたら、恐ろしすぎて本書は読めない。
BOOK Review――この1冊
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この記事を書いた人
ウチコミ!タイムズ「BOOK Review――この1冊」担当編集
ウチコミ!タイムズ 編集部員が「これは!」という本をピックアップ。住まいや不動産に関する本はもちろんのこと、話題の書籍やマニアックなものまで、あらゆるジャンルの本を紹介していきます。今日も、そして明日も、きっといい本に出合えますように。