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BOOK Review――この1冊 『言いなりにならない江戸の百姓たち』(1/2ページ)

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『言いなりにならない江戸の百姓たち』 渡辺尚志 著/文学通信 刊/本体1650円(税込)

時代劇とは違う? 百姓のイメージ

江戸時代の人口の8割は百姓だったというから、日本人の大半は百姓の子孫だ。

しかし、時代劇や時代小説に登場するのは武士や町人がほとんど。たまにフィクションの世界に登場する百姓は、大抵の場合、質素な着物を着て黙々と農作業に精を出す小作人の風体をしている。

こうしたことから多くの人は、江戸時代の百姓がどのように暮し、何を考えて生きていたかをあまり知らないのではないだろうか。なんとなく、江戸の百姓というと、武士にかしづく力を持たぬ民、というイメージがある。

そんなイメージを刷新してくれるのが本書だ。

本書は、下総国葛飾郡幸谷村(現在の千葉県松戸市幸谷)の領主・酒井家に伝わる古文書を基に、江戸時代の百姓が、村の自治をしっかりと担ってきたことを解説。描かれている姿は「領主にしっかりとものを言う」賢明な民としての百姓の姿である。

登場する古文書には、上納金の減額願いや不正をはたらく役人の除名願い、村で起きたトラブルの仲裁願いなどさまざま。これらは領主に対して、領民である百姓の主張を伝えるために書かれたもので、今風にいえば、首長への請願書のようなものだろうか。

翻刻(くずし字を活字化したもの)や読み下し文、現代語訳のほか、実際の古文書の写真も掲載されており、臨場感がある。

百姓は、自分たちの困りごとや主張を整理して伝えるため、行政文書として領主や役人が精査するに耐える文書を、自分たちの手で作成していた。江戸時代の農村では、村の主張を領主に伝える技術を備えた人材を育成すべく、寺子屋を開いて子弟に読み・書き・そろばんを教えたという。しっかりとした文書を作成するノウハウは、村を守るために欠かせない技術の一つだったのだ。

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この記事を書いた人

ウチコミ!タイムズ「BOOK Review――この1冊」担当編集

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