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BOOK Review――この1冊『つまらない住宅地のすべての家』(1/2ページ)

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『つまらない住宅地のすべての家』 津村記久子 著/双葉社 刊/本体1760円(税込)

どこにでもある住宅地に降って湧いた事件をきっかけに

数年前、防犯のため、子どもに近所の人と挨拶しないよう言い聞かせる親がいるという話題が、ネットでちょっとした話題となった。こんなことが話題になるのだから、すでに近所付き合いという言葉は陳腐化しているのかもしれない。

それもそのはず、私たちの大半は、近くに住む他人と、日常的に醤油を貸し借りするような関係を築くのは息苦しいし面倒だという価値観をもっている。けれども、他人同士のゆるやかな結びつきによって救われる場面は、案外ある。

『つまらない住宅地のすべての家』は、そうしたことを改めて考えさせてくれる小説だ。

舞台は、とある地方のとある住宅地の一角。路地を挟んで西側に4世帯、東側に5世帯、突き当りに1世帯の家が並んでいる。

三世帯が住まう家もあれば、一人暮らしの家もある。家の築年数や大きさもバラバラ。住人の世代や金銭状況もバラバラだ。住民同士は、とりわけ仲良くするでもなく、だからといって極端に距離をとるでもなく、ゴミ出しのときに顔を合わせれば挨拶をするくらいの距離感で、日々穏やかに暮らしている。

ところがあるときふいに、穏やかな日常に水が差される。

刑務所に収容されていた受刑者が逃亡し、住宅街の近くまでやって来ているらしいとニュースで報じられたのだ。逃亡犯は、勤め先の金を横領した罪で服役中だった36歳の女。住宅街の近くで生まれ育った彼女は、学生時代は勉強のできる優等生で通っていた。横領したのは私腹を肥やすためではなかったので、手に入れた金には一切手をつけていない。収監されてからも、模範囚として過ごしてきた。

次ページ ▶︎ | 明らかになっていく逃亡犯の素顔、住民たちの抱える問題

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この記事を書いた人

ウチコミ!タイムズ「BOOK Review――この1冊」担当編集

ウチコミ!タイムズ 編集部員が「これは!」という本をピックアップ。住まいや不動産に関する本はもちろんのこと、話題の書籍やマニアックなものまで、あらゆるジャンルの本を紹介していきます。今日も、そして明日も、きっといい本に出合えますように。

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