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BOOK Review――この1冊 『言いなりにならない江戸の百姓たち』(2/2ページ)

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渋沢栄一も持っていた百姓の強さ

江戸時代は厳格な身分社会であり、百姓が武士である領主に逆らうことはできない。

対等な交渉などは望むべくもないが、それでも領主の言うことに漫然と従い続けるわけにはいかなかった。

とくに江戸時代の終わり頃には、各地で冷害による凶作が相次ぎ、幸谷村の百姓たちも年貢米の上納に苦心した。にもかかわらず、領主は年貢米のほかに多額の上納金まで要求。村では田畑を質入れしてまで金を用立てたが、過大な上納金の請求はエスカレートした。耐えかねた百姓たちは、上納金請求の撤回を求める嘆願書を提出。

「私どもの村々は、もともと人口が少なく困窮しておりました」

という一文から始まるその嘆願書からは、村の困窮具合や悲壮感、身分の差ゆえに当然のように搾取されることに対する怒りややるせなさがこぼれ落ちるように伝わってくる。

余談だが、明治維新の原動力の一つは、農村の青年たちが抱いていた武家社会や武士へのフラストレーションであったともいわれる。

今年の大河ドラマの主人公として注目されている渋沢栄一も、もともとは農家の生まれ。村の有力な百姓だった父の代わりに陣屋を訪ねた青年期の栄一が、領主のあまりの傲慢さに腹を立てたというエピソードは有名だ。役人から「金を貸せ、この場で承諾の返事をしろ」と申しつけられても、栄一はこれに従わず、「父に聞いてみなければ返事はできない」と、頑として退けたという。やがて日本資本主義の父となる栄一も、身分の差に屈することなく、武士の「言いなりにならない」勇気と心意気を持っていた。

さて、身分制度のない現代社会を生きる私たちは、そうと気付かぬまま誰かの言いなりになってはいないだろうか。自分や大切な人の生活や利益を守るためには、時には権力に対して言うべきことを言わねばならない。江戸の百姓たちは、確かにそれを実践していた。

BOOK Review――この1冊
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この記事を書いた人

ウチコミ!タイムズ「BOOK Review――この1冊」担当編集

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