BOOK Review――この1冊 『ハーバード式不動産投資術』
BOOK Review 担当編集
2021/05/24
『ハーバード式不動産投資術』上田真路 著/ダイヤモンド社 刊/定価1980円(税込)
コロナ禍で生活への不安が広がるなか、投資によるリスクヘッジや資産形成にチャレンジしようとする人が増加している。今年1月に行われた投資用不動産を扱うグローバル・リンク・マネジメントによれば、全国の消費者約1万2000人のうち、全体の41.4%が投資に興味があると回答。さらに全体の36%が、不動産投資に興味を持っていると回答したという。
不動産なら、株よりも仕組みが分かりやすそうだし、何より、不況に強そうだ。そんなイメージに支えられてか、不動産投資への関心はますます高まっている。
数ある不動産投資関連本のなかでも、抜群に「使える」のが本書。不動産投資の「きほんのき」を学ぶのに役立つだけでなく、実践のなかでやるべきことを、分かりやすく、的確に指南してくれる。
本書で展開される投資理論は極めて明快で、信頼度も高い。それもそのはず、著者は、ハーバード大学デザイン大学院で不動産投資と建築デザインを学んだ、極めて優秀な現役の不動産投資家なのだ。副題にもあるように、過去には「資産26倍」という成果もたたきだしている。
元々は、国内大手建設会社で設計士として働いていたという著者が不動産投資を始めたのはリーマンショック後。金融危機の影響で担当していたプロジェクトがご破算となったとき、「自分が不動産オーナーなら、不況下でもなんとかプロジェクトを続ける道があったのではないか」と考えたことがきっかけだった。
不動産投資のノウハウは、本を読んだり、投資総額10億円超えの「メガ大家」と呼ばれる不動産投資の賢人たちとの人脈形成にいそしんだりしながら、独学で形成した。最初に不動産を購入する資金は、サラリーマンとしての給料をコツコツ貯めて用意したという。自ら汗をかき、ときには辛酸をなめながら、不動産投資家としての土台を築いた後、さらなる研鑽のためにハーバード大学デザイン大学院へ留学。世界最高峰の教授陣の授業を受け、投資理論を徹底的に磨き上げた。
本書で紹介される投資手法をかいつまでん説明すれば、次のようになる。
①デザイン
②ファイナンシング
③チームビルディングとネットワーキング
④景気サイクルと出口戦略
⑤再現性と成長性
この不動産投資・開発の5つのステージ全てで、少しでも平均を上回るパフォーマンスを出す(=「Creating α」の創造)ことが、投資を成功に導く手法というわけだ。
各ステージで何をやるべきか、端的かつ具体的に明示されている。投資判断の基準となる実質収益を把握するためのBOE分析のやり方もやさしく解説。少ない労力で簡単に分析できるよう、分析ツールのダウンロードURLも掲載されていて、初心者にとっては至れり尽くせりだ。
ただし、本書を読むだけでは投資の成功は約束されない。著者は繰り返し、「Do Your Homework(自分自身の手でやるべきことをやれ)」と読者を叱咤激励する。
価値ある物件をみつける目を養うまでには、何百もの物件のBOE分析をこなさなくてはいけない。ファイナンスにあたっての金融機関との交渉には、周到な準備とスピーディーな対応が必要だ……。
本書では、こうした基本的な姿勢や心構えの重要さについても、なんども触れられる。理論のみならず、実践にも裏打ちされているからこそ、著者の投資手法はどことなく「血が通っている」のだ。
投資について学べるだけでなく、「節税対策に購入したクルージングでBBQ」「ファーストクラスで海外不動産視察」など、成功している不動産投資家のきらびやかな生活を垣間見ることができるのも、ちょっとしたお楽しみだ。
読んでいると、「いきなり『資産26倍』は無理でも、頑張れば『倍増』くらいはできるかも?」という気分になってくる。初心者でも、世界水準の不動産投資手法を学べる一冊。投資や数字に疎い人にも分かりやすく書かれているので、気負わずに読んでみてほしい。
BOOK Review――この1冊
■『教養としての「地政学」入門』
■『安いニッポン「価格」が示す停滞』
■『相続したボロ物件どうする? 賃貸アパート経営の道しるべ』
■『お気の毒な弁護士』 最高裁判所でも貫いたマチ弁のスキルとマインド
■『不動産投資歴60年! 90歳女性現役大家の儲かる不動産投資術と物件管理の極意』
この記事を書いた人
ウチコミ!タイムズ「BOOK Review――この1冊」担当編集
ウチコミ!タイムズ 編集部員が「これは!」という本をピックアップ。住まいや不動産に関する本はもちろんのこと、話題の書籍やマニアックなものまで、あらゆるジャンルの本を紹介していきます。今日も、そして明日も、きっといい本に出合えますように。