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BOOK Review――この1冊 『安いニッポン「価格」が示す停滞』 

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『安いニッポン「価格」が示す停滞』 中藤玲 著/日経BPM(日本経済新聞出版本部)刊/定価 935円(税込)

朝は一杯100円のコンビニコーヒーを飲み、ランチは300円ほどの牛丼で済ませ、夜は、1缶200円弱の発泡酒で晩酌する――日本で暮らす私たちにとっては、めずらしくもないごく普通の日常ではないだろうか。

でも、安くてもそれなりにおいしく、安全で質のよいものを楽しめるのは、世界からみると「ごく普通」ではないらしい。とりわけ世界からみると、日本の「安さ」は非常に魅力的だという。そんな「安いニッポン」の実情を、新聞記者による丁寧な取材を基に、さまざまな角度から分析・考察しているのが本書の内容だ。

モノやサービスの価格は、労働者の賃金と深くひも付いている。

本書によると、日本は30年近く賃金が成長していない。一方で海外の多くの国では、賃金上昇に合わせて物価も右肩上がりに上昇。それは新興国でも例外ではなく、経済発展と同時に上昇した人件費や不動産賃料などのコストは、物価に上乗せされている。

その結果、賃金も物価も上がらない日本のモノやサービスの相対的な安さが、グローバルに注目されるようになった。「高くても品質がいいから」ではなく「安いから」、コロナ以前の、日本のインバウンド消費が拡大したというわけだ。

本書では、「安いニッポン」の事例がいくつか紹介されている。

例えば、世界に6つあるディズニーランド・リゾートのうち、東京ディズニーランド(TDR)の入園料は突出して安い。アメリカ・フロリダ州にある「ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート」の入園料は約1万4500円と、TDRの入園料より8000円以上も高い。日本の多くの人にとって、TDRに行くことはたまのぜいたくだが、海外からすると「コスパがいい」とうつる。

また、100円均一の「ダイソー」の商品の価格は、海外の店舗では100円以上が当たり前。タイは約210円、フィリピンは約190円……といった具合だ。現地の物流コストや人件費、関税などを勘案すると、とても100円では売れないが、購買力をもつ中間層に支えられ、売れ行きは好調だという。今や100円均一の商品が100円で売られているのは、日本だけなのだ。

消費者からすれば、安いことはいいことだ。しかし、賃金が上がらず、そのために物価も上げられず、企業収益も上がらないという負のスパイラルを、このままにしてよいのだろうか。

賃金も物価も上がらないことの弊害は、すでに顕在化している。日本は、優秀な人材を獲得できなくなっているのだ。特にIT領域でその傾向は顕著で、日本企業が提示する年収の2~3倍をポンと出す海外のスタートアップ企業に、日本の大企業が人材獲得競争で後れをとっている。世界に伍して活躍できる人材が日本から流出し、海外から採用することもできなくなったとしたら、日本社会の先行きに希望を見出せない。

さて、どうしたものか――。

安いニッポンが示す日本の問題点はさまざまある。賃料体系を見直すためには、終身雇用を前提とした働き方をみつめ直さなければならない。そもそも、「安さ」と適正価格の兼ね合いはどう考えるべきか。

このまま安いニッポンであり続けるのか、それとも脱却するのか。誰にとっても、重大なテーマだろう。本書を入り口として、考えを深めていきたい。

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この記事を書いた人

ウチコミ!タイムズ「BOOK Review――この1冊」担当編集

ウチコミ!タイムズ 編集部員が「これは!」という本をピックアップ。住まいや不動産に関する本はもちろんのこと、話題の書籍やマニアックなものまで、あらゆるジャンルの本を紹介していきます。今日も、そして明日も、きっといい本に出合えますように。

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