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BOOK Review――この1冊 『ケーキの切れない非行少年たち』 宮口幸治/著(2/2ページ)

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中学生や高校生くらいの少年たちが、ごく簡単な課題をこなせない。その背景には認知のゆがみがあった。正常な認知機能を前提とする、認知行動療法による矯正教育の成果があがらないのも、そのためだった。

少年たちは、自分がなぜ罪を犯したのかを説明することができず、被害者の手記を読んでも、内容が理解できない。著者の言葉では「反省以前」の状態だ。

彼らは、認知のゆがみゆえに成長段階で様々なつまづきを経験している。見る力や聞く力が弱いと、教科書を読む、板書を書き写すといった、授業を受けるための基礎的なふるまいができず、小学校で授業についていけなくなる。そのために深刻ないじめのターゲットとなり、コミュニケーションに極端な苦手意識を持つケースも多い。著者が医療少年院で出会った少年たちの多くが、苦手なこととして、勉強と、人と話すことを挙げたという。

著者は、少年たちが抱えてきた生きづらさに思い当たり、考える。

なぜ、この少年たちは「支援が必要な人」として認識されてこなかったのかを。

認知機能に問題を抱えているのは、発達障害や知的障害のほか、いわゆる「境界知能」に属する、IQ70~85程度の少年たち。知能分布によれば、人口の14%が該当する。35人のクラスに5人程度はいる計算だ。とりわけ境界知能の場合には、特定の診断名がつくわけではないため、ハンデがあることを気づかれにくい。

「学校ではその生きにくさが気づかれず特別な配慮がなされてこなかったこと」、その結果、社会に不適応を起こして非行化し、加害者となって少年院に収容された後で「非行に対してひたすら『反省』を強いられていたこと」。著者は、この二つに問題意識を抱く。「教官に叱られるから」という理由で反省の言葉を口にしても、「人を殺してみたい」という思いを打ち消すことはできない。

著者は、約5年の歳月をかけ、認知機能向上への支援として有効な「コグトレ」を開発。医療少年院などで、一定の成果を上げている。本書は、認知機能のゆがみのために困難を抱えている人の存在を、広く社会に知らせる役割を追う一冊。そうした人たちに適切な支援を届けることが、犯罪の抑止にもつながり、やがて社会に資するのだという意見に、丁寧に耳を傾けたい。認知のゆがみを、生きにくさとイコールにしない社会にするために、知るべきこと、やるべきことは数多くあるはずだ。

『ケーキの切れない非行少年たち』
宮口幸治/著
新潮社刊(新潮新書)
792円(税込)

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この記事を書いた人

ウチコミ!タイムズ「BOOK Review――この1冊」担当編集

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