女性の労働市場を襲うコロナ 総務省「労働力調査」2021年平均結果を考察
朝倉 継道
2022/02/22
イメージ/©︎torwai・123RF
「労働力調査」2021年平均が今月公表
終わらぬコロナ。されど完全失業率は低水準のまま前年から穏やかに横ばい。「禍」は誰を襲っているのか――?
総務省が2月1日に「労働力調査(基本集計)2021年平均結果」を公表した。さらに15日には「同(詳細集計)2021年平均結果」も公表している。これらは“完全コロナ下”の期間における日本の労働市場、ひいては社会の状況を映す重要な鏡となる。いくつか内容を紐解いていこう。
なお、両調査結果へのリンクは下記のとおりとなる。
労働力調査(基本集計)2021年(令和3年)平均結果 ~2月1日公表
労働力調査(詳細集計)2021年(令和3年)平均結果 ~2月15日公表
低水準の完全失業率
まずは完全失業率(労働力人口に占める完全失業者の割合)だ。21年平均で2.8%。前年と同率の横ばいとなっている。
ちなみに、この2.8%という数字、過去30年をさかのぼっても到達した年があまり見られない低い(=状況としてはよい)ものだ。参考までに1992年以降のランキングを示そう。以下のとおりとなる。
1位 | 2.2%(92年) |
2位 | 2.4%(18、19年) |
3位 | 2.5%(93年) |
4位 |
2.8%(17、20、21年) |
5位 | 2.9%(94年) |
〜(略)〜 | |
準々最下位 |
5.1%(09年、10年) |
準最下位 | 5.3%(03年) |
最下位 | 5.4%(02年) |
もっとも、こうした“明るい”結果については、本来の実態を反映したものではなく、あくまで政策効果が及んだものとする意見も見られるところだ。すなわち「雇用調整助成金の特例措置や各種給付金等の力によるもの」――などといった論調がそれにあたる。
日本の勁(つよ)さを語る? 失業率統計のニュータイプ
そこで、失業率をもう少し深掘りしてみよう。15日に公表された「詳細集計」に、未活用労働指標(LU=Labour underutilization)4種の推移が示されている。
なお、未活用労働指標とは、失業率統計の「いまどき版」といえるものだ。総務省では18年よりこの「LU」の公表を始めている。雇用、就業、失業、不就業、それぞれのかたちが多様化・複雑化している現代においては、詳しい説明は端折るが、LUが示す数値は非常に重要なものとなる。
そこで、このLU4種類だが、結論からいうと、20年~21年においてはいずれも横ばいか、数値の低下(=状況としてはよい)が示されている。
このうち「LU3」に注目したい。LU3は、「求職しているが職に就けていない人」(=失業者)に加え、「求職自体をあきらめてしまった人など」(=潜在労働力人口)も割合に加わるものだ。現状のコロナ下のような出口の見えない混沌が長引く状況においては、実態を拾い上げるのに象徴的なデータとなる。
「未活用労働指標(LU)3の推移」
18年 | 3.2%(LU1に対しての差 0.5ポイント) |
19年 | 3.2%(同 0.6ポイント) |
20年 | 3.7%(同 0.6ポイント) |
21年 | 3.6%(同 0.5ポイント) |
このとおり、21年のLU3は、同じコロナ下の前年よりわずか0.1ポイントだがマイナスを示している。加えて、LU1とのポイント差(カッコ内)も前年に対し縮んでいるが、このLU1が何を表しているのかというと、LU3の計算対象からさきほどの「求職自体をあきらめてしまった人など」を除いた場合の結果となる。実態としては完全失業率に近い。
そのため、LU3はLU1よりも数値が大きくなり、なおかつ、その差が開くほど労働市場は求職者にとってとりつく島がない、いわば絶望的な風景のものとなる。
そのうえで、当該「差」が21年は前年よりも縮まっており、なおかつその値がコロナ以前(18、19年)と同レベルであるということは、悪い傾向ではない。「コロナ下」におけるわが国労働市場の落ち着き、もしくはふんばり、あるいは、政策も含めてのふところの深さが示唆されるということになるはずだ。
なお、以上の説明はおそらく一読では解りにくいだろう。イメージを喚起するため例を添えておこう。
例えば、韓国でのLU3とのLU1の差は21年平均で6.0ポイントとなっている。0.5ポイントの日本に比べ状況が格段に厳しい。「求職断念者」が社会の中で大きなボリュームを占めているであろうことが容易に窺える数字となっている。かの国の若者らが、自国の雇用環境を強烈に批判し、かつ自嘲することの裏付けがおそらくこれとなる。
バッファとして機能させられた「若い女性」
基本集計に示されている「雇用形態、年齢階級別 役員を除く雇用者の推移」のデータを見ていこう。こちらでは、コロナ禍の直接的な悪影響が如実に数字に表れている。
注目は「役員を除く雇用者」に占める「非正規の職員・従業員」の数と割合だ。非正規の職員・従業員は、19年から21年にかけては2165万人から2064万人へ、およそ101万人その数を減らしている。さらに、これに符合するかたちで20年および21年においては、全年齢階級において上記割合の前年比が下がっている。
なお「正規の職員・従業員」は、逆にこの間62万人ほど増えている(19年:3503万人 → 21年:3565万人)。つまり、両者で明暗がくっきりと分かれている。
これについて、想像しうる理由は、単純に「バッファが機能した」ということだ。コロナ下の2年間で、多くの非正規の職員・従業員が、気の毒ながらその本来の機能たる雇用の調整弁の役目を果たしている。つまり仕事を失っている。
また、その内訳を見ると男女で差が大きく、ダメージはとりわけ若い世代の女性に著しい。以下にその数字を挙げてみよう。
「女性の年齢階級別 19年 → 21年 非正規の職員・従業員の増減数」
15~24歳 | 14万人減(153 → 139万人) |
25~34歳 | 22万人減(177 → 155万人) |
35~44歳 | 32万人減(295 → 263万人) |
45~54歳 | 4万人減(375 → 371万人) |
55~64歳 | 1万人減(292 → 291万人) |
65歳以上 | 12万人増(182 → 194万人) |
なお、そもそも非正規の職員・従業員には女性が多い(21年平均で男性652万・女性1413万)。そのため「犠牲者」の数も当然女性に増えることとなるが、実数としてはさきほど「およそ101万人その数を減らしている」と記したうちの実に半分以上を25~44歳の女性が占めている。24歳以下を加えると7割に近い。つまり、コロナは不安定な就労にいそしむ若い女性を主にいじめている。
以上は、今回のコロナ禍における社会への影響のうち、もっとも深刻な部分を穿つ数字のひとつといってよいだろう。
禍か、どこ吹く風か、追い風か?
コロナ禍は、われわれの社会にまさに「まだら」にインパクトをおよぼしている。例えば、今回の労働力調査で明らかになった「主な産業別就業者数・雇用者数の推移」を見ると、「宿泊業、飲食サービス業」では2021年に22万人が減少しているが、「医療、福祉」では同じ数がこちらは増えている。「生活関連サービス業、娯楽業」では10万人が減ったが、「情報通信業」では16万人が増えているといった具合だ。
よって、コロナ禍は、多くの人が気付いているとおり、人それぞれの置かれた立場によって「禍」であったり、「どこ吹く風」であったり、ともすれば追い風だったりもする。その点で、どうもこの病気は始末がよくない。社会に少しずつ悪い分断を生んでおり、わが国ではむしろそのことの方が病(やまい)として、後遺症も含め重い可能性もある。
そこで、われわれが忘れてはならないのは、この「禍」を文字通り「禍」として受けとめざるをえない人々のことだ。
社会を自らの視点からだけでなく、多角的に俯瞰し、理解・共感していく、やや高度な訓練をわれわれはいま要求されていると思った方がいいだろう。
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この記事を書いた人
コミュニティみらい研究所 代表
小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。