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なぜ、実物を確認しないで物件を買ってしまうのか? スルガ銀行不正融資問題から見る不動産投資の教訓(1/2ページ)

大谷 昭二大谷 昭二

2022/01/18

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イメージ/©︎ vadimgozhda・123RF

明らかになった不正融資物件の問題点

スルガ銀行は、11月26日に開いた2022年3月期第2四半期決算説明会において、アパート・投資用マンション向け収益不動産融資の6037億円分が回収できないリスクのある要注意先への融資であることを発表した。

この係争の内容によると、15年2月以降、同行の社内会議において、アパ・マン(収益不動産)ローンの内容について以下の5項目について繰り返し論議されてきたという。

①返済原資の変動可能性
②担保評価の困難性・想定賃料の妥当性
③空室リスク
④家賃保証・サブリースの危険性などのリスク
⑤通帳などの自己資金確認資料の偽装の可能性・原本確認の徹底の必要性

この結果、デフォルト(債務不履行)に至った案件のほぼすべてに、架空や偽造が認められたという。そこでこうした係争資料をもとにどのように要注意物件を集め、客付けし、融資を行ってきたのか検証していきたい。

はじめにスルガ銀行不正融資事件の建物を、現地や自治体の建築課で調査した結果分かったことは、そのほとんどがプロの投資家なら見向きもしない物件だということだ。つまり、素人投資家、もっと言ってしまうと、「属性のよい」サラリーマンがターゲットにされていた。

参考記事)「スルガ銀行不正融資」から見えてきた不動産投資で失敗する人、しない人

不正融資物件の共通点は「建築基準法違反」

これらの不正融資によってサラリーマン投資家が買わされた物件には共通点がある。その共通点の1つが、約2割の物件が建築基準法違反の物件だったことである。

参考記事)スルガ銀行不正融資に見る 賃貸住宅「建築基準法違反」の実態

当然のことながら、これらの物件は、検査済証を受けていない。具体的には、都市計画で定められた容積率を超過した物件が多い実態が浮かび上がっている。なかには市役所で保管の書類と階数が違っているのもあった。

その手口はいたってシンプルだ。

建築確認申請では、1階は駐車場として申請するというもの。駐車場は容積として算入されないため建築確認許可を得てから、駐車場として申請した部分を、店鋪や居室として仕上げるという手口だ。

この検査は任意ではなく義務だが、申請時にはいつ竣工するかを届ける必要はない。しかも、何もしなくても罰則がない。とはいえ、公的融資には必ず検査済証が必要になるが、そうでなければそれも不必要なケースもある。しかしながら、そもそも融資はスルガ銀行が行うわけで、そこでチェックが入ることはないわけだ。

このような建物は東京や大阪などの地価の高い地域で多く見られた。要は、一室でも多くして、家賃収入の増額を見込むために行われたのだが、売買時にはむしろ価格は低くなる。

アスベスト物件、メンテナンスされない物件も不正融資の対象だった

アスベストによる健康被害は社会問題となり、いまもその補償の対応がなされているが、1995年以前の建物では、全体の5%未満であればアスベストの使用が認められていた。

つまり、築30年以上の鉄骨造の建物ではアスベストが使われている可能性があるということになる。現在は、アスベストが使用されている建物の売買や賃貸の際には、そのことを告知しなければならない。そのためアスベストが使用されていないかを調査し、もし使用されていれば除去しなければ貸すことすらできない。そんなことが分かれば借りる人はほとんどいないだろう。

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この記事を書いた人

NPO法人日本住宅性能検査協会理事長、一般社団法人空き家流通促進機構会長 元仲裁ADR法学会理事

1948年広島県生まれ。住宅をめぐるトラブル解決を図るNPO法人日本住宅性能検査協会を2004年に設立。サブリース契約、敷金・保証金など契約問題や被害者団体からの相談を受け、関係官庁や関連企業との交渉、話し合いなどを行っている。

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