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令和のマンション管理危機 管理会社に見捨てられるマンション、食い物にされるマンション

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イメージ/©︎ustudent・123RF

マンション管理会社による物件の選別がはじまる

マンション管理を委託していた民間の管理会社から、「コスト割れ」として管理を断られるケースが急増しているという報道が目に付くようになった。その背景には、マンション管理が人件費や工事費の上昇で儲からない業種に転落したからだという。そのため新築販売時には低く抑えつけられがちな、管理費や大規模修繕費の積立金が、数年後には値上げになる傾向がある。

それでもマンション管理会社から管理を断られるケースもあって、断られやすいマンションには共通点があるのだ。具体的には築年数が30年を超え、総戸数が100戸未満と比較的小規模なマンションに多い。これらのマンションは、その後の修繕工事や設備交換にかかわる工事会社、設備業者、管理会社の利益が見込みづらい物件とされる。

建築費が高騰するなか、大規模修繕のための資金や管理費の水準が業者から見て、これらの物件は「ダメなマンション」とされてしまうようだ。

【参考記事】あなたの資産が蝕まれる――理事任せ、管理会社への丸投げ、総会委任状の問題点

一方、これとは対照的にまだまだ「儲かる」とされるマンションも少ないわけではない。

どんなマンションかといえば、総戸数が数百戸になる大規模マンションで、こうした大規模マンションは大規模修繕のほか、エレベーターや駐車場などさまざまな機器のメンテナンスや入れ替えも多いため、業者にとっては「おいしいマンション」というわけだ。

マンションの中古市場が活性化されるなかで、敬遠されるマンションと狙われるマンションへの二極化が進み、今後こうした問題は社会問題にもなりかねない状況になりそうだ。

豊洲のマンションで起こったガラス入れ替えのスッタモンダ

住みたい街ランキングで上位に名前を連ねる東京湾岸の江東区豊洲。この豊洲にある総戸数およそ1000戸の大規模マンションで断熱ガラスの入れ替えをめぐって住民とマンション管理組合の理事会、マンション管理業者の間で摩擦が起きている。

事の起こりは、住民との複数の訴訟を抱えた豊洲町会の会長が住むマンションがいち早く、この断熱ガラス交換を行い、その情報が伝わり、このマンションでも行おうとなったらしい。

実はこのガラス交換は「脱炭素」「省エネ」などを名目に、高性能建材による住宅の断熱リフォームを促す国の「高性能建材による住宅の断熱リフォーム支援事業」の1つだった。そこで現時点で環境省が高性能建材を使った入れ替え工事費の3分の1、十数万円を上限に補助金が出るうえに、東京都の補助金もつくというものだった。

そんなこともあってこのマンションでもこれを活用して「マンション全戸の窓を断熱性の高いガラスに入れ替えよう」という話が当時の管理組合の理事会内で進められてきた。

住民の話では、ガラス交換を推進したごく一部の住民と大手ガラスメーカー系の販売会社の関係者らが組んで、ガラス交換を言い出したということらしいが、真相は謎の部分もある。

【参考記事】タワマンが建ち並ぶ「豊洲」で勃発 裁判沙汰にまでなった町会内紛劇

一方、ガラス交換に反対する住民によると「今なお、管理組合側からは“ガラス張り”の情報開示は行われておらず、適正な調達価格での交渉がどこまでなされたかははっきりしない」のだという。

それでも結果的に、このマンションのガラス交換の決議は、2020年1月の管理組合総会であっさり可決された。

しかし、工事内容のフタを開いてみると、なんと支援金や補助金分を差し引いても一律40万円前後の個人負担がかかりそうだとみられる。

さらに「賃貸になっている住戸は補助金がでない」「全戸でガラス交換をする必要性はない」など理事会側からいくつもの重要な点についてなんら説明もなく、「全戸に補助金が適応される」という不適切な前提のもと、補助金分も含めると6億円弱の予算が計上されていたことも判明。この実態が明らかになるにつれ、それまで無関心だった住民も異議を唱えはじめ、住民と管理組合理事会・管理会社連合の綱引きが行われている。

ガラスの入れ替え工事は延期されたが…

そんななかで新型コロナの広がり、20年はコロナ禍のため工事が先送り、21年の理事会でも工事着手が先送りされている。そのため騒動は鎮静化し大きな騒ぎにはなっていない。

もちろん、工事着手が先送りになったのは、反対する住民が「ガラス交換は不要」などとビラ配布で訴え、21年1月の管理組合の総会でガラス交換の反対意見が続出したこともあったようだ。

反対する住民が増えたのは、築後10数年を経て、共有部分ではない給湯器、水道蛇口からの水漏れ、浴室乾燥機や換気扇の故障など製品寿命からくる故障が相次ぐ住戸が多く、これらの修理や住設設備の取り換えなどで個人の負担が100万円を超えてしまうこともあり、「どうしてなんの故障もないガラスを一斉交換するのか」ということもあるようだ。

とはいえ、コロナ禍が収まれば、理事会の判断でガラス交換が行われる可能性があり、反対する住民はいつ工事着手されるか危機感を募らせている。

というのも、21年5月に管理組合理事会が住民に実施したアンケート(回答数は約700)の結果では、ガラス交換を「今期は見送った方がよい」という回答が400件近くと過半を占める一方で、ガラス交換の実施対象から除外してほしいと答えた戸数は約230件。21年度中に高性能窓ガラスが一斉更新するのなら、自室の工事実施を「希望する」との答えが440件と希望戸数は全戸の半数には至らなかったものの、多かったからだ。

高性能断熱ガラスの効果とは?

そもそも「高性能ガラス」と称する断熱ガラスの効果とはいかなるものなのか。断熱効果によって、例えば、電気代が安くなるといった目に見えるものだろうか。

その答えは、実に曖昧だ。

窓のある方角、階数に左右され、各戸の日差しや日陰の違いも無視できない。こうした立地条件に加えて、季節、家族構成、体感といった個人差も関係する。このように各戸で断熱ガラスの効果はまちまちで、各戸の電気料金節約効果についてはなんともいえない。つまり、断熱ガラス交換の効果は各戸それぞれでバラバラらしいのだ。

そんな判然としない代物に、40万円程度の個人負担をしてまで必要なのかという思いもある。さらにこの工事費が修繕積立金から出されるのであれば、「ガラス交換をしないとする住民に、全戸に割り振られる個人負担が戻ってくるのか」という疑問の声も根強い。

実際、この補助金申請はマンション全体でなくても、1戸でも国と東京都から補助金を受けられる。言い換えればガラス交換をしたい人のみが申請するという道もある。窓ガラスは共用部分ではあるが、個人の専有部分として、自己資金で交換するやり方もあるのだ。

管理会社が狙う中古マンションの「修繕積立金」

新築マンション価格が高騰するなか、中古マンションへの人気は高い。しかし、中古マンションには修繕積立金やこうしたガラス交換といったことなど、マンション管理においてさまざまな問題を抱えていることがある。なかでも大規模マンションおいては、今後、新たな管理上の課題が出てきそうだ。

【参考記事】管理会社が管理を拒絶 分譲マンションで起きている「破綻」とその理由

大規模マンションは、戸数が多いため相当な修繕費が積み上がっている物件も多い。そのためマンション管理会社、設備・資材業者、修繕業者にとって「狙い目の物件」に見えてしまうようだ。しかも、大規模修繕ともなれば設備更新の需要が莫大になる。

本来、各戸で出し合う修繕積立金は、大規模修繕のほかエレベーターのメンテナンス、排水管交換などのほか地震、台風といった災害による建物の損傷等の修繕にも使われるもので、そこに住む、あるいは分譲オーナーが蓄えてきた大事な資産であり「ムダ使い」は禁物であるべきものだ。

しかし、実態は十数年も経つと、やれインターフォンの入れ替えだ、やれ駐車場設備の更新だと素人が集まった理事会に対して、管理会社と設備業者からの働きかけが行われる。

そんな商談のプロである業者と素人理事会が折衝しても、多くの値引きは引き出せない。

実際、実質的に2社程度で寡占状況のインターフォン設備などは、「業者が2~3回の値引き交渉を繰り返せば、理事会側は“値引き実績”」に満足してしまうので、おいしい市場」(業界関係者)だという。

件の豊洲のマンションのような巨大物件は、全戸の資産価値は数百億円規模になる。その共用部の資産の管理を預かるのが管理組合の理事会で、こうした巨額の備品やサービスの調達、管理会社選びなどに、この理事会の決定権は絶大だ。

そのため数百位、千戸単位のマンションでは、大規模修繕にも無関心な住民が意外なほど多い。そのためお金のかかる設備更新や工事の案件を管理組合の総会の議案にこっそり入れ、可決することは容易だ。

そして、こうしたことを管理会社が理事会に入れ知恵することも珍しくない。一方、大多数の住民は日常生活に支障がなければマンション管理に無関心で、なかには「理事会と管理会社のやっていることは間違いない」という先入観を持つ住民も驚くほど多い。

しかも、マンション管理組合の総会決議は、理事長ら執行部の決定に同意するという委任状で決することが一般的だ。つまり、修繕積立金など巨費を投じる議案についても、住民たちが自分たちの問題として工事内容を慎重に吟味することはまずなく、理事会さえ言いくるめれば簡単に「決議」できるというわけだ。

実際、ガラス交換で揺れる豊洲のマンションも潤沢な修繕積立金があるためか、住民たちもマンション管理組合の財政に余裕があると思っているという。しかも、ガラス交換は「環境のための補助金が出る」となれば、今どきのカーボンニュートラルや、SDG'sの流れに合っていると安心してしまい問題意識はさらに薄れる。

一方、管理会社、場合によっては理事会にしてみれば、大半が無関心な住民で、その委任状さえ取ってしまえば、「やりたいようにできる」という側面もある。

そんな悪賢い理事会ではなくても、毎年理事がくじ引きや順番で回ってくる理事会なら巨額の設備調達の実行者は、まさに「万年素人」の集団だ。

こうした理事会では議事録の文書作成(下書き)や議事の誘導、話し合うテーマの取捨選択などマンション管理組合のさまざまな意思決定にかかわる行為を、管理会社にほぼ「丸投げ」していることも多く、管理業者の意向通りに動く理事会も珍しくはない。

言い換えれば億円単位の工事も、「見積もり合わせ」や「多少の値引き」では、素人の管理組合が発注する高い調達コストは十分に下がるとは言えないのだ。

カーボンニュートラル、SDG's推進が求められる大規模マンション

さらに大規模マンションでは、設備の入れ替えや建物の老朽化による修繕のほかにも法令などの改正により設備などの改修、追加などが加わることが予想される。

例えば、マンションの共用部分として扱われる駐車場についても、今後は難題が次々と出てきそうだ。

具体的には件のマンションに限らず、湾岸エリアではマンション住人は若い人も多く、公共交通機関が発達しているため、マイカーを持たないマンション住民が増えている。このためマンションの駐車場の空きが増え、駐車場収入が減る物件が続出中だ。

空き駐車場が増えた背景にはマンションの駐車場は、自治体が一定の規模のマンションに対して、実態に合わない駐車場の付置義務を課す場合が目立つため、起こるべくして起こっている事象なのである。

しかも、駐車場部分の土地や設備にも、竣工後は、税金を含むコストが確実にかかり、固定資産税などの税金からも逃れられない。自治体が仕込んだとも思えるほど、税金が取れる構造になっている。

おまけに機械式の駐車場は、その維持管理・交換費はかなり高い。マンションの住民向けの駐車場のなかには、維持費(設備更新)などが駐車料金収入を上回る「赤字事業」になっているものもある。

さらに駐車場は、業者にとっては打ち出の小槌だ。例えば、駐車場のチェーンゲートの開閉の単機能リモコンは、原価は数百円ほどといわれるのだが、これを1万以上の価格で管理組合に売りつける場合もあって、一事が万事、素人集団の管理組合の理事会では適正価格での調達は至難の業だ。

そして、極めつきは駐車場に関係した費用負担で、EV(電気自動車)の充電設備導入という難題である。

ご存じのようにいまの日本は、国をあげて「カーボンニュートラル」「省エネ」を推進しており、一定規模の事業所やマンションに充電設備の設置を義務付けることが想定される。当然のことながら、これも管理組合が対応しなければならなくなる。

一定の補助金が出されることが予想されるものの、管理組合の財政支出が増えることは間違いない。実際、ガラス問題で揺れる豊洲のマンションでは、すでにEV車(電気自動車)の充電施設が導入されている。

一般的には駐車場関連の修理や設備の設置費用は、修繕積立金から出される。マイカーを持たない住民にとって、駐車料金によって修繕積立金が増えればよいが、コスト割れともなれば車保有者のためにコストを負担させられるかたちになる。

本来であれば、利用者の費用負担と便益(受益)を一致させるべきだろう。しかし、駐車場の関連費用は、建物の修繕費用と合わせて管理する、まさにどんぶり勘定で行われており、その実態については、国(国交省)も見て見ぬふりのほっかむりだ。

しかも、マンション管理に無関心な住民は、そうしたコストの応能負担意識がないため、管理組合の理事会や総会でまるで議論にはならないのが普通。結局、何もかも修繕積立金や管理費から捻出する「どんぶり勘定」に慣らされ、問題意識がないままなのだ。

これは駐車場のEV対応ばかりではなく、2050年カーボンニュートラルの目標達成のため設置共有部分にさまざまな「脱炭素」「SDGs」「省エネ」という社会貢献イメージと、「補助金」という導入しやすい言葉のオブラートに包み、設備更新の勧誘、あるいは義務化さえも行われる可能性も否定できない。

すでに管理会社はこうした未来を見越しており、そうした設備が求められない小規模マンションを切り捨て、無関心なマンション住民の多い大規模マンションに絞り込み、国が進める環境政策に乗っかるかたちで大手を売り込める環境を待ち望んでいるのであろうか。

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この記事を書いた人

都市開発・不動産、再開発等に関係するプロフェッショナルの集まり。主に東京の湾岸エリアについてフィールドワークを重ねているが、全国各地のほか、アジア・欧米の状況についても明るい。

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