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中古マンション価格高騰で人気 「AI自動査定」の査定価格が高くなる理由

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登録も簡単で便利なAI自動査定。しかし、あくまで「推定価格」だ 撮影/編集部

業者にとってはチラシより楽というAI自動査定

東京都23区内のファミリー向け新築マンンションの平均価格が1億円台となる月もあるなかで、中古マンションの人気も高い。こうしたこともあって分譲マンションの郵便ポストへの買い取りチラシの配布に代わって注目されている営業手段が「スマホで楽々 無料&査定」「1分であなたのマンションのお値段を査定!」などといったメールやネットで売り込む「AI自動査定」というものだ。

売却する気はなくても「自分の家は今、いくらで売れるんだ?」という思いは多かれ少なかれ誰もが思うもの。とくに中古マンションの人気が高く、価格も高騰していると言われればなおのことだ。AI自動査定なら住所や携帯電話、メールアドレスを登録しなくてはならないが、そのあとはダイレクトメールの広告が来る程度のもの。興味本位で気軽に査定ができるのがウリだ。

一方、業者にとってはネット広告やメールによる販促は、チラシを配る労力やコストより安く、思った以上に反響も期待できるという。そうとなれば、こうした広告が増えるは当然のことと言えるだろう。

東京都都内対象の中古マンション価格のAI自動査定のようなサービスはすでに主要なものだけで10サイト前後あるようだ。

ロボット的にネットに点在する情報を収集

江東区豊洲から徒歩数分のタワマンに住む会社員は、10月、AI査定を登録した不動産業者から自宅の査定価格が1年前に比べ600万円も上がったことを知らせるメールが届き、ホクホク顔だ。

「今、売ろうとは思わないが、査定が上がる分には悪くない。気分がいい」と彼は話す。彼の住む豊洲などの東京湾岸エリアは、新築に比べて値ごろ感のある中古マンションでも「タマ(物件)不足」のため、呼び込んだ顧客にメールやサイトを通じて、高めの物件値段を弾き、顧客誘導に使っているという面がある。

AI自動査定とはどのようなものなのか。

不動産価格の自動査定は、インターネット空間に広がる膨大な情報のなかからマンション関連のデータを自動的に集め、蓄積していくことで成り立つ。

つまり、ネット上にある不動産関連サイトをロボット的に回ってデータを拾うクローリング(Webページの情報を収集する)を行い、過去の取引データや類似物件の情報を大量に蓄積しているのである。これを一部業者は「当社の誇るビッグデータ」などと宣伝しているというわけ。

集める基本的なデータは、マンションの住所、間取り、専有面積、築年数など。そして、それぞれの売り出し価格を収集する。これにエリアごとの新築・中古の価格動向や人気などの項目を加味してデータを補足する。加えて、階数、駅までの距離、周辺施設などで補正項目を増やせば、誤差も小さくできるという。

そもそもマンションは戸建て住宅に比べて、同じ物件では坪単価で価格差がつきにくく、査定幅は大量生産の工業製品に近い。なかでも大規模な物件や取引の多い物件の価格査定は楽だ。

「ある意味、AIがセールスマンなので営業職員の力量や意欲といった差が付きません」などと言う業者もいる。とはいえ、AIの“力量”は学習に十分な量の正確なデータが必要で、データが少なければ正しい査定ができない。言い換えればAIの力量というより、多くのデータを集めるシステム構築にどの程度の投資ができるか、事業者の資金力でその差が出ると言えるだろう。

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情報開示途上国 透明度の低い日本の不動産情報

そんなAI自動査定だが、弱点もある。日本では中古物件の正確な売買価格を把握するのは難しく、正確に補足できるのは新築の売り出し価格になる。

世界的に見れば日本は米国や豪州など不動産先進国に比べて不動産情報のオープン化が遅れている「情報開示途上国」なのだ。そのため日本の不動産業界は、世界的不動産情報会社「ジョーンズラングラサール(JLL)」による国際的な不動産情報の「透明度」調査において16位に甘んじている。

しかも、AI自動査定で問題になるのが、国交省の指定流通機関である、不動産流通機構が運営する「レインズ」の内部に登録された情報が使えないこともある。肝心の成約価格の入手が難しく、査定精度が低くなるという点がAI自動査定のネックになっている。

AIがマンションを査定するためには、過去の売買記録を学習する必要があるが、公的なサイトで膨大な情報を抱えるレインズのデータ抜きでは情報量と正確性が限られるだろう。

AI自動査定の価格が高くなるカラクリ

レインズ利用ガイドラインによると、「機構(レインズ)から取得した登録・成約情報を情報サービス会社に提供する」などと具体的な違反事例が挙げられている。つまり、厳しい規約により、AIの学習にはレインズが使えず、情報開示の恩恵は直接的に消費者には及んでいない。要は、AI自動査定は過去の売買記録が使えない。もちろん、レインズを経ない取引もあり、レインズデータが森羅万象の価格情報を握っているわけではないが、このデータを使えないのは厳しい。

結果的にマンションのAI自動査定は、クローリングしやすい新築時の価格、中古マンションの売り出し価格(売る側の希望価格)に頼っているため、実際の成約価格との誤差は最大で2割(築浅物件)から3割以上(30年以上の物件)と言われ、ばらつきが多くなる。

それでもネット広告の「中古物件の高騰で、500万円高く売るのも夢じゃない!」という文言に誘われて、定期的に各社の査定を受ける件の豊洲の会社員のような消費者も多い。

もちろん、査定機能が似ていても、いろんなサイトに登録することで、それぞれの査定価格のばらつきをならして価格トレンド(暴騰の傾向)などの参考にする顧客もいる。

しかし、注意が必要なのはサイトによって得意なエリア、不得意なエリアもあるようだ。そのサイトの系列のデベロッパーが売った物件で、そのデベロッパー系の仲介会社が中古取引も強いという「得意物件」もあるからだ。

AI自動査定は「買取価格」ではないことを肝に銘じるべきであろう。あくまでも参考価格として鵜呑みにせず、実際に売却する際は、当たり前のことだが複数の業者に相談することが重要だ。

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この記事を書いた人

都市開発・不動産、再開発等に関係するプロフェッショナルの集まり。主に東京の湾岸エリアについてフィールドワークを重ねているが、全国各地のほか、アジア・欧米の状況についても明るい。

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