名古屋の復調、ボールパークの町、サーフィン…21年「基準地価」注目すべきトピックス
朝倉 継道
2021/10/07
名古屋駅周辺/©︎編集部
コロナ禍2年目の基準地価が発表
9月21日、令和3年都道府県地価調査の結果、いわゆる「基準地価」が国土交通省より発表されている。
今回の調査地点は全国2万1443箇所。毎年7月1日時点までの地価動向を割り出すものだ。全国平均においては、新型コロナウイルスによる「コロナ禍」の地価への影響が続くなか、全用途・住宅地・商業地、いずれもが2年連続の下落となった。
ここ5年分の数字(上昇率・下落率)を挙げてみよう。三大都市圏(東京圏・大阪圏・名古屋圏)の平均も、共に並べてみたい。
「全用途平均」(カッコ内は三大都市圏)
「住宅地」(カッコ内は三大都市圏)
「商業地」(カッコ内は三大都市圏)
出典/国土交通省「令和3年都道府県地価調査」
見てのとおり、コロナ禍が始まった20年からのフェーズの変わりようが、全国平均にしても、三大都市圏にしてもいかにも明瞭だ。特に、17~18~19年と上昇基調が著しかった商業地の地価における失速が、よく目立つ結果となっている。
「もしもコロナがなかったら、本来20年に行われていたはずのオリンピック・パラリンピックも挟み、地価はどうなっていたのだろう?」
そんな想像もついさせられてしまう、この2年といったところだろう。なお、全国の商業地の「上昇・横ばい・下落」各地点数の割合は、上昇21.6%・横ばい23.5%・下落54.9%となっている。同じく三大都市圏は、上昇31.7%・横ばい33.6%・下落34.7%という結果だ。
名古屋の復調
今回の基準地価におけるトピックのひとつが、国内3番目の大都会・名古屋における地価の復調だ。商業地のデータを見比べてみよう。
「2021年の商業地における対前年平均変動率~3エリアを比較」
出典/国土交通省「令和3年都道府県地価調査」
このとおり、名古屋エリアにおいては下落を示す数字がない。
東京エリア、大阪エリアに比べてのこうした状況については、やはり、インバウンド需要の影響がそれをひもとくカギのひとつとなるだろう。訪日客需要への依存度が、コロナ禍以前には高く、それが消え去ったことによる商業地地価へのダメージが大きい東京や大阪(特に大阪)に対して、そうではなかった名古屋の特徴が、よく表れているものといえそうだ。
ちなみに、商業地地価下落率の全国1位は、大阪市の「中央区宗右衛門町7-2」でマイナス18.5%。2位も同じく大阪市の「中央区難波3-4-16」でマイナス16.6%となっている。
ボールパークの町、再開発が活気を生んでいる街
今回の基準地価でひときわ目立つ町のひとつが、北海道の北広島市だ。住宅地上昇率全国TOP10の2位、3位、4位、商業地上昇率TOP10の5位、さらには工業地TOP10の3位にも名を連ねている。
この町では、現在、プロ野球・北海道日本ハムファイターズの新球場を含む複合施設、いわゆるボールパークの建設が進んでいる。大規模集客施設の開発が起爆剤となっての地価上昇が、いままさに盛り上がっているところといえるだろう。隣接する恵庭市、江別市も併せると、これら3市内の基準地が、住宅地の上昇率TOP10のうち6つを占める状態となっている。
一方、大都市中心部での再開発が地価を押し上げているのが福岡市だ。商業地の上昇率全国TOP10のうち、1~4位、6、7、10位をずらりと独占している。加えて8位にも、周辺の太宰府市にある基準地がランクインしている。両市合わせて、10のうち8つの順位を占める圧倒ぶりとなっている。
サーフィンの町がオリンピックでさらなる脚光
さらに、今回の発表のなかで、国交省がピックアップしてコメントを付している町のひとつを紹介したい。千葉県一宮町だ。今回の基準地価では、住宅地で2.6%の上昇、商業地で7.3%の上昇となっている。いずれの数字も千葉県下1位となっている。
上記コメントをそのまま引用しよう。
「住宅地については、都心からのアクセスの良さから主にサーフィンを愛好する層に注目されていたことに加え、コロナ禍においてサーフィン愛好者だけに特化しない移住・セカンドハウスを求める需要の広がりから、地価が上昇している」
「商業地については、町内の供給対象地域が限定的であることから住宅地需要との競合により、地価が上昇している」
コロナ禍による移住、別荘地等の需要については、軽井沢など、たしかに盛り上がりを見せているところ、一方そうでもないところと、場所により差が生じているが、一宮町はどうやらそのうちの勝ち組らしい。
なおかつ、この一宮町だが、ご存じのとおり、この夏のオリンピックでサーフィン競技の会場となり、その雄大な景色が一躍全国に知られることになった。勝ち組の町が、さらに大きなインパクトを日本中の人々にもたらし、さらに有名になったかたちだ。
今後の地価動向や、まちづくり、町政運営など、どう推移していくのか、大変気になるホットな町のひとつといえるだろう。
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この記事を書いた人
コミュニティみらい研究所 代表
小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。