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〜この国の明日に想いを馳せる不動産屋のエセー〜

不動産屋に文章能力は必要か?

南村 忠敬南村 忠敬

2021/08/10

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瞬時に理解できる視覚記号。オリパラでも大活躍の「ピクトグラム」 イメージ/©︎vecstock・123RF

情報は「ビジュアル」から

最近の不動産広告における媒体の主流(っていうかもうずいぶん前からだが)は、当然にインターネットを介したポータルサイト、不動産会社HP、広告代理店系物件情報サイト(Yahoo!、Googleなどの検索サイトも同様)に、昔主流だった新聞や折り込みチラシ、雑誌からほぼ全面的に移行して久しい。

それに輪を掛けて、物件検索に使用するデバイスはスマホがトップで、数年前の調査結果[不動産情報サイト事業者連絡協議会(RSC)、2015年「不動産情報サイト利用者意識アンケート」]でも既に20代~30代では92%、40代でも約80%が物件検索のデバイスにスマホを利用したと回答している。

併せて、物件情報の中身については、売買、賃貸共に契約をした人が最も重要視したデータの1位が「間取り図」で、2位以下トップ10中8項目で各所の「写真」が占め、環境や条件面の詳細を知るための「文字情報」は1項目のみランクインという結果である(同・RSC、2017年「不動産情報サイト利用者意識アンケート」)。

つまり、最近のユーザーは、総じて「物件情報はビジュアルから」であり、文字による詳細情報は営業マンの説明によって補填する傾向が顕著だということだ。まあ、これは不動産に限ったことではない。

何年か前に問題が顕在化した保険契約の重要事項説明義務違反による数々の訴訟の結果、裁判所は、保険約款に代表される“小さな文字”で詳細を羅列した書面を契約者に提示(約款の手渡し、郵送)しただけでは、ユーザーが内容を理解して契約したとは言えないと保険会社側にお灸をすえた。それ以降、さまざまな業界において、契約する相手方への説明責任を果たすべく、時間をかけて契約内容や重要な事項を縷々説明するようになったが、これがまた消費者には不評で、業界専門用語の多い“ご説明”にうんざりしてしまうのが現実だ。

そこで登場するのが「百聞は一見に如かず」の諺の援用、すなわち多くの写真やイラスト、図解を用いた説明手法に切り替わってきた(パワポのプレゼンが流行りだしたのもこのせいか?)。


今やプレゼンは文字無しが主流 イメージ/©︎hvostik・123RF

対面、手紙、SNS、メール…それぞれに一長一短あるが、ベストは? 

拙者の立場上、同業他社から業務に関する相談や質問を受ける機会が多い。不動産業を始めたばかりの方から、ベテランの営業マン、経営者まで、ご当人の属性も千差万別の中での相談内容は、多岐にわたる。その際、電話やメール(SNS媒体も当然)、対面での対応を希望される方もあって、その頻度は年間100件を超える。

最も的確にお応えできる方法はやはり対面だ。相談案件の資料や写真などを持参いただき、ご本人から直接経緯を聞き取れるから、「ん?」と思うことは何度でも確認できる。ただ、時間的制約を受けるのがデメリット。ご訪問いただく日程調整の影響は、自身の予定の一つとして組み入れるから、他の予定との調整が必然となる。

あとの媒体は五十歩百歩。どれも一長一短があって、けっこうなストレスを感じさせてくれる。とどのつまり、人間という“言葉で意思を伝える動物”は、自分の脳裏で言語を組み立て、それを音に変換して伝播させるから、自ずと各人の脳に蓄積されているボキャブラリーや、言語中枢の働き具合によって同じことでも表現が変わる。故にこちらへの伝わり方が異なってしまう。

記憶のメカニズムは個人の能力(頭の良し悪しではない)によって違うから、言葉で表現するまでに辿る脳のロジスティックな作業の結果から選び出される“言葉”が、人によって違うということになる。対面だと、「それはこういうことですか?」と逆質問で解決できるのだが、電話→チャット型SNS→メール→手紙やFAXという順にその度合いは低くなっていく。


日本語は楽しい言語 イメージ/©︎melpomen・123RF

最近、続けざまにいただいた二種類のご相談。このやり取りが正に今日の“噺”の結論だった。

両方とも最初はメールから始まり、一方はメールのやり取りから電話、遂には訪問と、ご相談者はご自身の納得いくまで問題解決を図ろうとされた。他方のご相談者は、メールでの返信に満足されたのか、リアクションはなかった。そのいずれのやり方を評価するのではない。本題は相談内容の伝え方である。

お二人に共通していたのは、メールの文面から読み取れる情報の曖昧さ。その根幹部分が、当事者であるご自身に分かっていることは相談相手の拙者も分かっている、という前提に立った書き方となっていたことだ。主語述語の欠落は言うに及ばず、起承転結、因果関係も不明な文章からいったい何を読み取れと言うのか。

質問Aさん:「○○さんと△△さんが自用の物件を売買しますが、デメリットはありますか?」

質問Bさん:「ゴミ置き場の移動について揉めています。話し合いも裁判もしましたがらちがあきません。もう強制的に移動させるか、使用できないようにするつもりですが、何か刑罰はありますか?」

Bさんに関しては、実際にはもう少し描写は細かく記述されていたが、Aさんに至っては、ほぼこんな感じだった。

○○さんと△△さんって言われても、「それ誰? 私は知りませんし、どっちが売主で、どっちが買主? デメリットって、何に対する誰のデメリット?」と呟く拙者。「揉めているのは誰と誰? 裁判は勝ったの? 負けたの? どうなった? そもそも貴方の立ち位置は?」と、頭を抱える拙者。

このお二人とは対照的に、延々と綴られたお手紙を頂戴することもしばしば。その文面にも文字数の多い相談者に共通する“あること”が書かれている。「初めまして。かくかくしかじか…ああだこうだ…因みに…です。しかし、私はこう思うのですが、弁護士に聞いてもはっきりした回答が得られませんでした。おかしいと思いませんか?」と、こんな具合で相当の文字数である。

この手のご相談内容を要約すると、書かれた文字のだいたい70%はなくてもよい。「思いの丈を伝えたいのだな」と、謹んで拝読するが、焦点がボケる。結局ご質問の核心部分を理解するのにかなり時間が掛かる。あと、最後に書かれた自己分析は殆ど間違っていることが多い。なぜなら、総じて自分に都合よく解釈しようとするのが人の常だから。文章力の高い人ほど自分の主観は書いてこない。そもそも人に意見を求める前提は、自分の考えと違うかどうかを確認するためであることが多いから、わざわざそれを相談相手に説明する必要などないのだ。


書けばいいというわけではない? イメージ/©︎gajus・123RF

ビジュアルの時代であっても適確且つシンプルな文章は最大の武器となる

「手八丁口八丁」は不動産屋の代名詞みたいに言われるのは心外だが、知識に裏付けられた言動と、説明能力に磨きを掛けることは優秀なセールスパーソンとして必須の努力目標なのだ。

いくらビジュアルに訴えかける時代になっても、最終的に押さえておくポイントはしっかり書面(デジタルでも同じ)に残すことが肝要で、後で見返したときに、何を意味しているのか分からないような文章では本末転倒。音声で残そうが、説明能力の低い話術では何度聞いても論点がぼやけているので役に立たない。

デジタル技術が益々高まっていく時代。「起-承-転-結」は正にアナログの典型であり、アナロジーな認知過程を適確且つシンプルな文章に纏め上げる能力は、不動産屋の最強の武器となる。

〜この国の明日に想いを馳せる不動産屋のエセー〜
「あなたの知らない物件査定の世界」/媒介契約を取れなかった恨み節
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なので私はこう言い放った…「メルカリで家は売れない」

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この記事を書いた人

第一住建株式会社 代表取締役社長/宅地建物取引士(公益財団法人不動産流通推進センター認定宅建マイスター)/公益社団法人不動産保証協会理事

大学卒業後、大手不動産会社勤務。営業として年間売上高230億円のトップセールスを記録。1991年第一住建株式会社を設立し代表取締役に就任。1997年から我が国不動産流通システムの根幹を成す指定流通機構(レインズ)のシステム構築や不動産業の高度情報化に関する事業を担当。また、所属協会の国際交流部門の担当として、全米リアルター協会(NAR)や中華民国不動産商業同業公会全国聯合会をはじめ、各国の不動産関連団体との渉外責任者を歴任。国土交通省不動産総合データベース構築検討委員会委員、神戸市空家等対策計画作成協議会委員、神戸市空家活用中古住宅市場活性化プロジェクトメンバー、神戸市すまいまちづくり公社空家空地専門相談員、宅地建物取引士法定講習認定講師、不動産保証協会法定研修会講師の他、民間企業からの不動産情報関連における講演依頼も多数手がけている。2017年兵庫県知事まちづくり功労表彰、2018年国土交通大臣表彰受賞・2020年秋の黄綬褒章受章。

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