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損保各社が水害ハザードマップに「水害保険料」を明記!?――さらに見える化が進む水害リスク

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イメージ/©︎yasasiikaze・123RF

真っ赤かになるハザードマップ

大手の損害保険大手が、自治体のハザードマップによる水害リスクに応じた保険料を近々導入する。まずは企業向けだが、これまでのハザードマップだけでなく、その地域の保険料の動向も合わせて見れば、保険料としてもあらわれるため、その地域の水害リスクが丸裸にされそうだ。

損害保険会社の自然災害での保険金支払いは年間1兆円規模に膨らんできており、保険会社としても、保険の支払いや料金体系の観点からも「ハザードマップ」の合理的活用が避けられなくなってきたわけだが、これは保険加入者やそこに住む人にとっても利用価値は高い。

風水害については住宅用火災保険では、オプションとされていることが多いので、加入するかを考える参考にもなる。今後、企業向けの損害保険は、浸水リスクが低いと安くし、高ければトータル10%も保険料が上がるケースがでてきそうだ、という。

市区町村が作成するハザードマップは、これまでは、「50~150年に1回程度」などの大雨を想定して作られてきた。だが、近年の水害の増大を受けて、2015年に完成された水防法で「1000年に一度」起きる確率の大雨を想定することになり、住宅の洪水等に対する安心のハードルが一気に上がった。

ハザードマップでは、洪水や津波、土砂災害など別々に作成される。こうしたハザードマップの見直しで水没可能性を示す赤などの警告色で塗られたエリアが増えており、宅地や住宅の売買にも影響が強まりそうだ。ただ、半数程度の自治体で、「1000年に一度」の新基準によるハザートマップの公表がされておらず、改定作業の遅れも指摘されている。

災害発生後の生活回復が難しい水害

今年の梅雨では、7月28日に東北地方の美しい河川として有名な最上川が氾濫。川沿いの山形県大江町に避難勧告が出され、そばの町として知られる山形県大石田町も浸水するなどした。こうした水害は温暖化等による気象変動の進行もあって、もはやめずらしいことではなく、主要河川の氾濫はいつ起きても不思議ではない。こうした洪水では、起きた後が大きな問題になる。意外に知られていないが、水害発生後の日常生活の再建の難しさがあるのだ。

被災者の体験を聞くと、「臭くて自宅にとても住めない」というマスコミではあまり取り上げられることのない声を耳にする。また、浸水した家屋の床上の泥を運び出す作業を業者に頼むと、「数百万円程度はかかります」と言われた被災者も少なくない。都市部から知らない業者がきて高額受注していったケースも散見される。

文明社会発展の歴史は治水との闘い

人類の文明社会発展の歴史は治水との闘いでもあったともいえるのだが、太古の昔からの川は大雨の度に流路を変えて蛇行しながら海に注いだ。中でも日本の河川は急流が多く多雨な日本では、時代とともに、流路を直線にして堤防を築き、新田を開発。居住地を作ってきた。しかしながら、水害の備えは完ぺきではなかった。

また、海も干拓して農地を造成、食糧増産とともに、日本では人口が爆発的に増えていった。これは近代に入っても変わることなく、ややもすると、埋め立て地もダムも「乱造」され、地域の景気対策として「政府投資の切り札」が治水、砂防を目的とした公共事業(土木工事)になってきた。こうした公共工事は大自然を改造することの弊害も指摘されたが、国民の「安心と安全」が最優先されてきたはずだった。

日本の人口が明治維新時の約3倍に増え、野山を切り開いて宅地化してきたことで、災害発生と隣り合わせの、「限界居住エリア」にも人は集団で住み始めた。しかし、少子高齢化が進んだ現代では、こうした状況が変わってきた。地方では過疎化が進み、公共工事で追加の洪水対策を施しても、大規模に浸水した地帯の分譲地が売れなくってきているのだ。

例えば、中国。四国地方最大の都市の広島市は戦後、人口100万人を超す政令指定都市に発展したが、太田川を中心とする旧市街地(平野部)は狭く、都市開発は北側の中国山地方面に向かい、丘陵や山岳地帯に大型の住宅地が切り開かれていった。そんな中で起きたのが14年8月、18年6月の2度にわたり襲われた豪雨被害である。この2つの災害は防災対策が十分ではなかったと指摘されてきたエリアだ。

水害対策に見えてきた限界

水害が発生する原因も変わってきている。昨年の台風19号の堤防越水は約140カ所、今年7月豪雨は約120カ所で越水したとみられている。こうした河川の氾濫では2級河川以下からの水流が本流の壁にあたり逆流しての越水事例も目立つようになった。

河川の氾濫防止のために堤防を高くしても、被害が収まるとは言い切れない。実際、18年の台風21号では、関西空港の6mの堤防から海水が浸入し、空港が水浸しになった。芦屋浜では10メートル級の高さの堤防が突破され、兵庫県が分譲した住宅が水没させられている。こうした水害の潜在リスクは想像を超すものだ。山梨大の秦康範准教授の試算によると、浸水想定区域に住む人は2015年の時点では、約3500万人もおり、日本の全人口の3割近くにのぼる。

さらに今夏、賃貸を含む住宅取引の売り手側の重要事項説明義務として浸水リスクの説明が加えられた。売買にしろ、賃貸にしろ、水害に弱いエリアでは成約の「障害」となる可能性がある。地域の行政、都市計画においては、人口減少を受けてコンパクト・シティ化を推進する流れにある。だが、居住誘導区域が、ハザードマップの基準見直しで、浸水に瀕する危険性が増えそうだ。

しかも、水害が起こった際の避難所とされている施設も、この浸水被害の地域にあるものもある。コンパクト都市という名の集住化も、災害対策の観点からかなりの見直しが必要と迫られそうなのだ。

浸水被害に遭わないための最後の自衛手段は

水害対策を大別すると2つの方法がある。それは堤防のかさ上げ、もしくは住居の移転だ。いずれも、国、自治体、個人という負担者の違いはあっても、膨大な予算を必要とし限界がある。そのため現実的な対策としては、洪水危険エリアの河川の越水個所を徐々に補強するといったことぐらいだが、前述したとおり堤防を高くしても安全とは言い切れない。

あまり知られていないが、国には、災害の危険がある地域の住居の移転を促す補助制度がある。市町村の計画に対して国が事業費の9割程度を負担する。1972年に制度ができて以来、約3万9000戸が移転した、という。ただ、そのほとんどは東日本大震災がきっかけで、被災する前に移転が決まった例は少ない。また、高齢化も引っ越しには壁となっている。

加えて、大きな問題が高齢化だ。昨年からの台風など風水害で被害を受けた老人ホームなど高齢者施設は全国で100カ所程度。この背景には高齢者施設建設費の制約が関係している。有り体にいってしまうと、高齢者施設は地価の安い河川の近くなどに立地しやすい。

自然災害の多い日本は、これまでこうした公共事業に巨費を投じてそれを抑制してきた。その結果、もたらされたのが先進国で最悪ともいえる公的債務(政府・自治体の借金)だ。さらに高齢化が進む中で、今後は社会福祉の費用負担も大きくなる。

つまり、「命の安全が第一」とするのであれば、政府や行政、税金だけに頼らずに、個人が居住地を変える選択を検討することが必要になってきている。

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この記事を書いた人

経済アナリスト

マクロ経済面から経済政策を批評することに定評がある。不動産・株式などの資産市場、国や自治体の財政のバランスシートの分析などに強みを持つ。著書に『若者を喰い物にし続ける社会』(洋泉社)、『世代間最終戦争』(東洋経済新報社)、『地価「最終」暴落』(光文社)などがある。

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