東京都(新宿区) 神楽坂の路地で見つけた至福のスペインバル 鮮度抜群の魚介とオリーブ油のマリアージュ『EL Pulpo』
ねこやま大吉
2020/10/29
写真/ねこやま大吉
江戸の香りを残す 坂・小道の街「神楽坂」
まだ見ぬ観光コンテンツの発掘仕事で降り立った神楽坂。その云われは南側にある若宮八幡の神楽がこの坂まで聞こえたからだとか。東京の真ん中に未だこのような風情を残す処は、都内広しといえどあまり記憶がない。
坂上・坂下を走る通りから枝分かれするかのように小道が走る。そのひとつ、兵庫横丁は戦国時代に武器商人が住み「兵庫」(武器を入れておく倉庫)があったことからその名がついた。
そこに「和可菜」という黒塗りの壁に覆われた旅館(閉館)がある。ここは出世旅館といわれ数々の作家・脚本家・映画監督ほかが仕事場として使っていた。内田吐夢、田坂具隆、今井正、山田洋次、石堂淑朗……誰もが知る『青い山脈』『男はつらいよ』『東京家族』もここから生まれた。
薄暗い石畳の小道を舞い飛ぶ「蝶」たち
時間を忘れ、気付けば街も薄暗くなり街灯が瞬き始めたころ、着物で身を包み、凛とした佇まいで歩く芸者たちとすれ違う。人ひとりがやっと通れる石畳の小道を急ぐその姿は幻想的で、タイムスリップしたかのような錯覚に陥る。後ろ姿にひかれ同じ方向に進めば小道は終わり、普段の通りに出た。歴史のありそうな和食店・料亭が軒を並べる中、ひときわ人で賑わうオープンキッチンの店を見つけた。スペインバル『ELPulpo(エルプルポ)』だ。ガラス越しに見えるイベリコベジョータが、その存在を強烈に主張する。
イベリコべジョータが誘う先はスペインへの玄関口
店名はスペイン語で「蛸」の意。まさに魚介がメインのマリスケリア(魚介食堂)。和食同様、ユネスコの無形文化遺産に登録されている地中海食。どんな料理で楽しませてくれるのか。まずは一日の褒美に微発砲酒のアゲレとオリーブのピンチョスで喉を潤す。
海の幸の盛り合わせに新鮮な牡蠣をトッピング。
バルいち押しの殻付きウニのプリンは濃厚なウニの旨味が凝縮。コクの中にも甘みがほのかに漂う。
そして間髪容れずに牡蠣を。さすがは海のミルク。舌にのせ、さほど噛まずとも溶けていく。程好くボイルされ歯ごたえのある海老が脇役に回ってしまうのは不思議だ。
さて、重鎮のおでましだ。ハモンイベリコベジョータ36カ月。それは塩漬け、水洗い、乾燥を3年繰り返し熟成させたもの。赤身の中に旨味が凝縮された脂が入る。ピコス(クラッカー)と食せば、塩気強い一口目の後に、熟成された甘い脂が追っかけてくる。口直しに白ワインで整えたあさりのワイン蒸し。ワインとオリーブ油があさりの旨味を最大限に引き出す。
スペイン料理の王道「パエジャ」
パエジャを炊く人を女性なら「パエジェーラ」、男性なら「パエジェーロ」という。ここで悩んだ。メインの具材は真蛸、烏賊、オマール海老と、その選択に悩む。素材からでるグルタミン酸の含有量でオマールエビのパエジャをチョイス。
真っ赤に茹であがったオマール海老の姿とお米に染みた魚介の旨味。所々にあるお焦げが、さらに美味しさ、食感を倍増させる。お代わりを本気で考えた。
窓越しに“蝶”が飛んでいる。気付けば3時間も経っていた。明日の〆切に備え今宵も仕事場へ。
神楽坂は過去と現代、そして未来が交差する街だ。
今回お邪魔したおいしいお店:『EL Pulpo (エル プルポ)』
住所:東京都新宿区神楽坂4-3宮崎ビル1F
交通:飯田橋駅・神楽坂駅・牛込神楽坂駅 各徒歩約5分
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この記事を書いた人
編集者・ライター
長年出版業界に従事し、グルメからファッション、ペットまで幅広いジャンルの雑誌を手掛ける。全国地域活性事業の一環でご当地グルメを発掘中。趣味は街ネタ散歩とご当地食べ歩き。現在、猫の快適部屋を目指し日々こつこつ猫部屋を制作。mono MAGAZINE webにてキッチン家電取材中。https://www.monomagazine.com/author/w-31nekoyama/