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『新感染半島 ファイナル・ステージ』/ 観客を楽しませるサービス精神旺盛な“ジェットコースター・ムービー”

兵頭頼明兵頭頼明

2020/12/29

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2016年にカンヌ国際映画祭でワールドプレミア公開され大ヒットを記録した『新感染 ファイナル・エクスプレス』の続編である。

人間を凶暴なゾンビに変え、わずか1日で韓国を崩壊させた謎のウイルス。ウイルス感染を免れ韓国を脱出しようとする人々の群れの中に、姉夫婦と幼い甥を連れたジョンソク大尉(カン・ドンウォン)の姿があった。彼らは日本に向かう船に乗り込み出港を待っていたが、客室から感染者=ゾンビが発生し、目の前で姉と甥が襲われてしまう。客室は直ちに閉鎖され、ジョンソクはただ立ち尽くすしかなかった。

その4年後、半島は完全に封鎖されていた。韓国から逃れ、香港で暮らしていたジョンソクと義兄のチョルミン(キム・ドユン)のもとに、裏社会から危ない儲け話が舞い込む。4人の混成チームで半島へ潜入し、2000万ドルが積み込まれたトラックを奪取せよというもので、分け前は半分という条件だ。元軍人として半島の感染状況を知り尽くすジョンソクは拒絶するが、チョルミンは半島出身というだけで忌み嫌われる惨めな暮らしから抜け出すため、この話を引き受けると言う。義兄の身を案じるジョンソクは、仕方なくチームに加わることにした。

ゾンビは暗い所では目が見えないので、4人は夜のうちに半島に潜入する。金を積んだトラックは程なく見つかるが、凶暴なゾンビの群れとともに、狂気に支配された民兵集団に脱出を阻まれる。2人の娘を連れたミンジョン(イ・ジョンヒョン)と出会ったジョンソクは、彼女たちと組んで再度脱出を試みるのだが――。

主な舞台が電車の中という前作に比べ、スケールは格段に大きくなった。世紀末のムードが漂う大掛かりなセットが組まれ、CGやアニメーション技術をふんだんに取り入れた長時間のカーアクションが繰り広げられる。本作は『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(15)の世界観の中でゾンビ映画を展開したかのような娯楽大作であり、ハリウッドに負けてなるものかという製作陣の心意気が漲っている。

本作の製作開始当初は思いもよらなかったことであろうが、正編が公開された2016年と今年とでは感染という言葉の響きがまるで異なる。感染者に噛まれた相手がゾンビ化し、また別の者をゾンビ化するというゾンビ映画お決まりの描写は、これまでと違って見えてくる。登場人物たちは4年間でゾンビを研究し尽くし、対策に万全を期している。

光と音を好むゾンビの嗜好を徹底的に利用し、おびき寄せることで対抗策を打つ。高校生くらいと思われる娘がゾンビから身を守る術を心得、装甲車を高速で運転する姿は実に頼もしい。終盤で場面をさらうのは主人公のジョンソクではなく、ミンジョンと娘たちだ。

カーチェイス以外にも多くの見せ場が用意されているが、本作は人間とゾンビの戦いを描いているわけではない。描かれているのは2000万ドルを我が物にしようとする人間同士の醜い争いだ。本作に登場するゾンビには、当然ながら金を奪おうとする意志などない。本能のままに人間に襲いかかるゾンビたちは、物語を彩る背景に過ぎないのだ。そこが正編との大きな違いであるが、正編が貫いた「愛する者を守る人々のドラマ」という基本線は引き継がれている。

閉鎖された半島内では指揮系統を失った民兵集団がのさばり、我が物顔で暮らしている。ゾンビを怖がるどころか、彼らを捉え、人間の奴隷とともにギャンブル的見世物の道具として使っている。また、半島からの脱出劇で目立つのは女性の活躍である。そういう描写から透けて見えるのは現実の文明批評だが、何も小難しく考える必要はない。製作陣の目的はその種のメッセージを伝えることではなく、観客を楽しませることだ。サービス精神旺盛なジェットコースター・ムービーである本作は、観客に考える暇を与えてくれない。正編を見ていない観客にも安心してお薦めできる娯楽編である。 

『新感染半島 ファイナル・ステージ』
監督:ヨン・サンホ
出演:カン・ドンウォン/イ・ジョンヒョン/クォン・ヘヒョ/キム・ミンジェ/ク・ギョファン/キム・ドゥユン/イ・レ/イ・イェオン
配給/宣伝:ギャガ/スキップ
2021年1月1日よりTOHOシネマズ日比谷ほかで公開
公式HP:https://gaga.ne.jp/shin-kansen-hantou/ 

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この記事を書いた人

映画評論家

1961年、宮崎県出身。早稲田大学政経学部卒業後、ニッポン放送に入社。日本映画ペンクラブ会員。2006年から映画専門誌『日本映画navi』(産経新聞出版)にコラム「兵頭頼明のこだわり指定席」を連載中。

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