『サイレント・トーキョー』/追う者と追われる者のサスペンス、斬新なストーリーとアクションが見どころ
兵頭頼明
2020/12/01
©︎2020 Silent Tokyo Film Partners
毎年この時期になると、クリスマスをテーマにした映画が公開される。いわゆるクリスマス映画と呼ばれる作品である。
『素晴らしき哉、人生!』(1946)『三十四丁目の奇蹟』(47)『ホワイト・クリスマス』(54)といったクラシックから、『ダイ・ハード』(88)『シザーハンズ』(90)『ホーム・アローン』(90)『ラブ・アクチュアリー』(2003)『ホリデイ』(06)、そして昨年公開の『ラスト・クリスマス』(19)まで数多のクリスマス映画が存在する。とてもここには書き切れないが、クリスマス映画の大半はロマンチックでハートウォーミングな作品である。アクション大作『ダイ・ハード』でさえ、夫婦愛の物語であった。
本作『サイレント・トーキョー』もクリスマス映画に違いないが、その内容はいささかハードである。
12月24日クリスマス・イヴ。KXテレビに、東京・恵比寿に爆弾を仕掛けたと電話が入る。
局の契約社員・来栖(井之脇海)は先輩社員のお供を命じられ、半信半疑で現場に向かう。そこには、夫へのプレゼントを買いに来たという主婦・アイコ(石田ゆり子)がいた。アイコは爆弾が仕掛けられたベンチで、身動きが取れない。来栖が避難を呼びかけようした12時ちょうどに爆発が起きる。
人々はパニックに陥り逃げ惑うが、その最中、来栖とアイコは姿の見えない犯人の指示通りに動かされ、実行犯へと仕立てられてゆく。そんな二人の様子を、一人の男(佐藤浩市)がじっと見つめていた。
午後3時、次なる犯行予告が動画サイトにアップされる。総理大臣が自分との対談に応じなければ、渋谷ハチ公前広場を標的にするという。回答の期限は午後6時。しかし、磯山総理(鶴見辰吾)はテロリストの要求には一切応じないとの声明を出す。
警察は渋谷駅前を封鎖しようとするが、一帯には野次馬が押し寄せてゆく。混乱が続く中、渋谷署の刑事・世田(西島秀俊)と泉(勝地涼)は、周辺の聞き込み調査で出会ったIT企業家・須永(中村倫也)がスクランブル交差点を撮影している姿を発見し、不審に思う。須永は、これから別の場所へ向かうので急いでいると言っていたのだ。
午後6時の時報とともに、群衆に埋め尽くされた渋谷駅前は一瞬の静寂に包まれた。そして――。
クリスマスの東京を襲った連続爆破テロを描くサスペンス映画である。
原作は秦建日子の小説「サイレント・トーキョー And so this is X-mas」。秦はテレビドラマ『編集王』(00)『天体観測』(02)『ドラゴン桜』(05)等の脚本家として名を馳せ、小説家としてデビュー。デビュー作『推理小説』から始まる「刑事 雪平夏見」シリーズ5作が『アンフェア』シリーズ(06~15)としてテレビドラマ化され、劇場映画版も大ヒットを記録している。
監督はテレビドラマ『SP 警視庁警備部警護課第四係』(07)を演出し、映画版の監督も務めた波多野貴文。
予測不可能なテロに多くの人々が翻弄されてゆくが、99分という比較的タイトな上映時間の群像劇となっており、犯人と犯行の動機にたどり着くまでの展開は極めてスリリング。波多野が『SP』で見せてくれた斬新なストーリーテリングとアクション演出の技は健在だ。
最大の見せ場は、爆発予告現場となった渋谷スクランブル交差点での大掛かりなモブシーンである。この場所で大勢の俳優とエキストラを使った撮影を行うことは不可能なので、栃木県足利市に巨大なオープンセットを組んで撮影されている。
かつて『踊る大捜査線』シリーズのスピンオフ作品『容疑者 室井慎次』(05)が福島県いわき市にオープンセットを建設し、新宿ALTA前から紀伊國屋書店、伊勢丹前に至る追跡シーンを撮影して観客を驚かせたことがあったが、本シーンのスケールはそれを凌駕している。リアルな迫力を生み出したスタッフと出演者の努力を称えたい。
映画的な見せ場も多い『サイレント・トーキョー』は、あくまで娯楽作品である。追う者と追われる者のサスペンス、そして謎解きを楽しめばよい。とはいえ、何やらキナ臭い世界情勢の下、本作の犯人の主張と各登場人物の思いをどう受け止め、咀嚼すればよいのか。私たち観客が試されている気がした。
『サイレント・トーキョー』
原作:秦建日子『サイレント・トーキョー And so this is Xmas』(河出文庫刊)
監督:波多野貴文
脚本:山浦雅大
出演:佐藤浩市/石田ゆり子/西島秀俊/中村倫也/広瀬アリス/井之脇海/勝地涼
12月4日より公開
公式HP:https://silent-tokyo.com/
『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』/魅了された理想のリーダー像「煉獄杏寿郎」の存在感
『望み』/サスペンスドラマに織り込まれる家族の絆
『ミッドウェイ』/第二次世界大戦のターニングポイントを新たな視点で描いた注目作
『映画ドラえもん のび太の新恐竜』/絆、泣かせ、友情、冒険…ドラえもんシリーズの鉄板娯楽作
『MOTHER マザー』/実話を元にした不愉快な物語であっても、目が離せない長澤まさみの演技
この記事を書いた人
映画評論家
1961年、宮崎県出身。早稲田大学政経学部卒業後、ニッポン放送に入社。日本映画ペンクラブ会員。2006年から映画専門誌『日本映画navi』(産経新聞出版)にコラム「兵頭頼明のこだわり指定席」を連載中。