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『ザ・フォーリナー/復讐者』

笑いを封印? 2人の名優の新境地(2/2ページ)

兵頭頼明兵頭頼明

2019/04/25

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その一方、共演のピアース・ブロスナンは007映画で培った華麗なアクションを封印し、動ではなく高級官僚という静の役柄に徹している。彼の役柄もまた極めて複雑だ。本作の物語の根底には、イギリスとアイルランドが長きにわたって抱えてきた問題が横たわっているからである。勢い、ジャッキーもピアースも得意としてきたユーモア感覚を抑えられ、笑顔を見せることもない。二人はこれまでにない新しい役柄に挑戦し、新境地を開くことに成功した。

展開が早く、もう少し説明があっても良いと思われる部分はあるが、そこを納得させてしまうのがジャッキーとピアースの培ってきたイメージだ。これまで二人は不可能を可能とするヒーロー像を演じてきた。ヒーロー映画のレジェンドたる二人が観客に植え付けた映画的記憶が、「彼ならやれる」と納得させてしまうのである。マーティン・キャンベルのツボを押さえた演出も快調で、ハリウッド製の陽性なアクション大作とは一線を画したスタイリッシュな作品に仕上がった。大人向けの見応えのある映画である。

とはいうものの、二人の本来の持ち味であるユーモア感覚が封印されたことはとても残念だ。もちろん、本作にそのようなユーモア感覚は不要であり、封印したからこそ二人は新境地を開いたのであるが、映画ファンとしては二人のユーモアあふれる共演作も見てみたい。ジャッキーの万人受けする明るいユーモアと、ピアースのいかにも英国風というシニカルなユーモア。この二つが組み合わさった時、素晴らしい化学反応が起こるはずだ。

ジャッキーは本作においてプロデューサーを兼ねているが、次回はぜひ、二人のユーモアあふれる共演作を実現させてほしい。ジャッキーは今年65歳、ピアースは66歳。本作が成功したとはいえ、シリアスな役柄に絞るにはまだ若すぎる。


『ザ・フォーリナー/復讐者』
監督:マーティン・キャンベル
脚本:デヴィッド・マルコーニ
出演:ジャッキー・チェン、ピアース・ブロスナン
配給:ツイン
公式HP:https://the-foreigner.jp/

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この記事を書いた人

映画評論家

1961年、宮崎県出身。早稲田大学政経学部卒業後、ニッポン放送に入社。日本映画ペンクラブ会員。2006年から映画専門誌『日本映画navi』(産経新聞出版)にコラム「兵頭頼明のこだわり指定席」を連載中。

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