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売主・買主マッチングサイト「家いちば」に見る新型コロナによって注目される「空き家」事情 

小川 純

2021/01/07

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イメージ/提供 写真AC 

新常態――東京の人口減少は本当か?

これまで東京一極集中といわれるなか、「都外からの転入者が転出者を下回った」というニュースは大きなインパクトを与えた。その原因として挙げられているのはもちろん、新型コロナによって、テレワークが進み、企業の都心オフィスの縮小や本社の地方移転である。毎日の出勤がなくなるという流れが進み、働く側も都心から離れた郊外や、地方で暮らす、都心へは必要のあるときだけ来るニューノーマル(新常態)時代の幕開けというわけだ。

しかし、東洋経済の報道によると、巷間でいわれているのとはちょっと違う。この東京の人口動向の内訳を詳細に見ていくと、東京から転出しているのは主に外国人で、日本人はむしろ増えているという。どうやら「東京の人口流出」のニュース背景には地方分散、新常態を定着させたいという思惑も見え隠れする。

とはいえ、コロナ後、ビジネスにおいてもプライベートにおいても地方への関心が高まったのは、紛れもない。地方の空き家や別荘、プライベート空間でキャンプを楽しむための山林に対する需要は高まり、実際の取引も増えている。

「昨年の4月以降、ページビュー、売買件数が1.5倍から2倍近くぐっと上がっています。掲載物件数は増えてはいないのですが、問い合わせが増えている、要するに“買い手が多い売り手市場”になっているのです。1つの物件に買主さんが殺到して売主さんが断っている。あるいは価格がどんどん吊り上がっているという状態です。ですから、売るなら今がチャンスといえるでしょう」

こう話すのは、不動産売買のマッチングサイトとして注目を集める「家いちば」の藤木哲也代表だ。


家いちば代表の藤木哲也さん

新型コロナによって、俄然、地方の不動産への関心が高まり売買が増えたように見えるが、こうした傾向は「コロナ以前からあった」と藤木さんはいう。しかし、それは一般の不動産市場ではなく、売主と買主が直接やり取りをする「家いちば」のようなウェブにおける相対取引ができる“市場”においてのことだった。


売主と買主が直接やり取りをする「家いちば」

その理由は「売りたい人と買いたい人が出会い、直接交渉を行い、自由に売買できる」ところにある。そんな家いちばのシステムとはどういうものなのか。

「売買の過程を前半・後半と分けていて、前半は物件の掲載から商談成立まで。この前半はセルフサービスで、基本的にすべてを売主・買主さんの双方にやっていただくという流れです。商談成立以後の後半は、私たちが手配する宅地建物取引士が現地調査を行い、契約書の作成、重要事項説明と契約、そして登記までとなります」(藤木さん)

不動産の売買では、土地や建物の法令や規制もあって、売主・買主任せで大丈夫かという疑問もわく。 例えば農地や再建築不可物件など、条件付き物件でのトラブルが危惧されるが、「一切、問題はない」と藤木さんはこう話す。

「農地は法的に難しい面もありますが、売主・買主さんが農業委員会で確認することもできます。売主・買主さんが農業委員会に聞きに行くと、農業委員会では親切に詳しく説明してくれるのです。再建築不可が疑われているようなケースでは『これは売れますか』と質問されてこられる方も。もちろん、こちらで調べてもいいのですが、あえて調べず『役所の都市計画課に聞いてみたらどうですか』とアドバイスをしています。これも農地と同じで、役所で教えてくれます。売主さんは納税者ですから、不動産会社より丁寧に説明してくれているという印象ですね。結果的に再建築不可物件というケースもありますが、その場合は買主さんが『建て替えなければいいんでしょ』といって問題にしないケース、または、『再建築できないなら、価格を下げて』と価格交渉をするなど、それぞれで話し合いをする。そんな感じです」

こうした売主・買主任せのセルフサービスということもあって、「手間がかからないので手数料は半額にしています」(藤木さん)という。

意外と多いという「とりあえず買う」人

家いちばでの売主というのは、多くの場合、「家いちばは売れない不動産の駆け込み寺」(藤木さん)というように、不要な使わない不動産をなんとか手放したいというような事情がある人ということは想像がつく。しかし、買主はどういう人が多いのか。

「別荘、移住などいろいろありますが、どれにも当てはまらない、遊びの拠点という人もいます。また、1人で2つ3つ持つという方も全然めずらしくないですね。そして、もっと自由な“とりあえず買う”という目的が決まっていない方が意外と多い。そうした方は買ってたまに行ったり、DIYしてみたり、気に入ったら自分で住む、人に貸す、民泊にするなどの選択肢を考えているようです」(藤木さん)

その一方で、明確な目的を持っている買主もいるという。

「まさに“ポツンと一軒家”というような物件だったのですが、買主さんに『何に使うのですか』と聞くと、『保護犬を200匹連れてきます』という人がいました。『犬は吠えるので周りに家がないからちょうどいいんです』と言っていたんです。こうした物件探しに不動産業者が入るとなかなか見つかりません。その物件の売主さんも保護犬について問題意識を持っている方で、買主さんに共感されて売買が成立した例ですね」(藤木さん)

「負動産」は存在しない 条件次第で売れる

空き家問題がクローズアップされるなかで、買主の付かないこうした物件を総称して「負動産」と表現される。しかし、そうした負動産はないと藤木さんはこう話す。

「そもそも空き家が売れない、あるいは『負動産』というのは嘘だと私は思っています。これは業者や学者の想像です。コロナ以前、5年ほど前から、田舎の空き家に問い合わせが殺到するという現象はありました。こうした物件はレトロな古民家でもない普通の戸建てです。ただし、価格が安いというのは絶対の条件になります。内覧会を開くと何十人も来て、近所の人がびっくりするほどです。ゼロ円で売り出した物件が最終的に200万円の値が付いたものもあります」

とはいえ、こうした物件にまったく問題がないというわけではない。

「確かに価格を下げなくては売れない地方の物件は老朽化が激しかったり、トイレがくみ取り式であったり、不動産的なデメリットを挙げればキリがありません。でも、ある一定の価格水準の臨界点があって、それを過ぎると買主さんがワッと出てくるんですね」

とかく不動産というと、所在地、エリア、立地、設備といったファクターが重視される。

しかし、「家いちば」では、こうした不動産を見極める“常識”はあまり重視されない。まずは価格ありきということが分かりやすいのだろう。そして、物件の条件を見ながら何に使うかということを考えるのではないだろうか。しかも、不動産業者を通さないため、仲介手数料の上限額を確保するための値付けの縛りもない。

「売主・買主さんの商談の中身を見ていても、指し値でバンバンやり取りしています。買主さんの側もあいだに不動産屋さんが入らないので、遠慮なくやっています。コロナ以前は100万~200万円あたりの価格で現金で買うというのがほとんどです」(藤木さん)

そのやり取りも、ユーザーにとっては面白いのだろう。

売主・買主任せでトラブルなしの理由

売買でのトラブルは皆無というのも、家いちばの大きな特徴だ。なぜトラブルにならないのか。藤木さんはこう話す。

「問い合わせが殺到した物件では入札のような仕組みを提供しています。ただオークションではないので、価格で自動的に決まるものではありません。価格を出してもらうけれど、買主さん側の人柄なども含めて売主さんが判断されています。それを見ていると売主さんは必ずしも最高額の人に決めていないんですね。220万円で買うという人がいるのに、100万円の人に売るんです。これは私も驚きましたが“いい人に買ってもらう”ということに差額の120万円の価値があるということなんです。これはレアケースじゃなくて、毎回そんな感じです。こういう現実、売主さんの本当のニーズというのは何なのかというのをよくよく考えていかなければいけないなと思います」

つまり、多くの売主は売った後のことも考えて買主を決めているということのようだ。そして、買主の顔を見られることが安心につながっている。そのため「不動産会社が売主側として売却はできるが、買主側にはなりづらい」(藤木さん)という。

「海外から買えるというのも、家いちばの大きな特徴ですが、家が欲しいと中国系の方の問い合わせも多いんですね。でも、売主さんは断ることが多いようです。中国系が嫌いというわけでなく、商談のスタンスが日本人と合わないんです。やはり、相手に寄り添って交渉するということが、商談が上手くいくための絶対条件だと思います」

コロナ禍によって注目され、売買に熱を帯びる地方の空き家物件だが、今後の動向について次のように話す。

「家いちばでのコロナ以前の取引相場は100万~200万円でしたが、今はその相場が400万~500万円のものがメインになっています。この流れは、しばらくは続くかなという気はします。ただ、不動産市況全体で見ると早合点してはいけない。従来の不動産市況の流れを見ていても、必ず揺り戻しがあります。地方に一度流れれば都心の物件の相場も一度下がるでしょう。しかし、そうなれば都心回帰する人も出てきます。こうした揺り戻しを繰り返しながら新しい時代に少しずつ変わっていくんじゃないかな、という展望を個人的には持っています」

新型コロナによってダメージを受けている経済だが、中古住宅や空き家に限っては、さほどダメージはない。むしろその動きは活発化している。

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この記事を書いた人

編集者・ライター

週刊、月刊誌の編集記者、出版社勤務を経てフリーランスに。経済・事件・ビジネス、またファイナンシャルプランナーの知識を生かし、年金や保険など幅広いジャンルで編集ライターとして雑誌などでの執筆活動、出版プロデュースなどを行っている。

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