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「賃貸」業界のイメージを下げる悪習? 「鍵交換費用」を入居者はなぜ払わされるのか(3/3ページ)

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出ていく人に払わせるのはおかしい――国交省

鍵交換費用については、賃貸管理会社や仲介会社――いわゆる不動産会社を所管する国土交通省から、ひとつの見解が示されている。それは、同省が98年に取りまとめて公表し、現在も業界の指針となっている「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の中にある記述だ。こう書かれている。

「鍵の取替え(破損、鍵紛失のない場合)
(考え方)
入居者の入れ替わりによる物件管理上の問題であり、賃貸人の負担とすることが妥当と考えられる」
――別表1 損耗・毀損の事例区分(部位別)一覧表(通常、一般的な例示)

これは、入居者が物件を退去する際に請求されうるものとしての「原状回復費用」に、鍵交換費用は入りうるのか?との疑問に対しての国交省の答えとなる。

内容は読んで字の如くだ。国交省は、破損させたのでもなく、紛失が生じたわけでもない、次の入居者にとっての不安払拭のための措置として行われる鍵の交換について、「退去していく人に費用を求めるのはおかしいですよ」と、ここで示していることになる。

ところが、これをもっていわば話を逆手にとり、

「このガイドラインはあくまで退去時のガイドライン。新たに入居しようとする人との契約については何ら言及するものでもない。よって国交省はそうした人から取る鍵交換費用については何も言っていないことになる」

つまり、「ガイドラインはむしろ鍵交換費用設定(入居時)のよい後ろ盾だ」とする意見も業界内には若干見られたりもする。しかしながら、もう一度文面をよく読み直してみよう。なるほど、このガイドライン自体はたしかに入居者退去の時点にフォーカスしてのガイダンスであるにちがいない。だが、上記にかぎっては、明らかにそうしたシチュエーションのみに縛られたものではない。国交省は、すくなくとも文字を追うかぎり、他の条件とは絡みのない別個の見解として、

「(鍵の交換は)入居者の入れ替わりによる物件管理上の問題」
「(よって)賃貸人の負担とすることが妥当」

と、ここに定義しているように見える。

要は、この定義にあっては、退去時であろうが、入居時であろうがタイミングは関係ない。いわば常識的な原理として「鍵の交換費用は賃貸人の負担とするのが妥当」とする見解がここには述べられているとしか読めないのだが、さて、いかがだろうか?

ただし、当然のこと当ガイドラインは指針であって法律ではない。文意がどうであろうと、真意がどうであろうと、オーナー側がこれに従う義務が突き詰めれば存在しないのは勿論のこととなる。

鍵交換費用「不当」の訴えは実は裁判で敗れている しかしこのままでいいのか?

ともあれ、以上のようなわけで、鍵交換費用を入居者が払わされることについて、これに釈然としない感覚というのはおそらくあたりまえの社会感覚だ。

国法たる民法も、公の機関たる国交省の見解も、そのもとをたどればすなわち国民の常識や良識といったものに根差している。その意味で、鍵交換費用が民法601条および606条1項の主旨に照らして怪しい面を含むものであること、国交省が鍵交換費用はオーナーによる負担が妥当とシンプルに述べていること、さらには、一度も賃貸住宅に住んだことのない個人が鍵交換費用の慣習を知り驚き呆れてしまうこと――、これらはすべて根がつながっているといっていい。

要は、この慣習は多くの良心的な業界人もそう思っているとおり悪習だ。早くやめるべきだとこの記事では言っておきたい。

バブル崩壊以降、せっかくここまでジェントルに姿を変えてきた賃貸不動産業界が、いまよりもさらにマーケットに愛されたいと願うのならば、真っ先にやめるべきひとつがこのストレスフルな鍵交換費用であるといって差し支えないだろう。ただし、実はここにひとつ問題がある。そのことは、業界各社のアドバイザーを務めているような法律の専門家であれば先刻ご承知だ。

何かというと、実は、鍵交換費用を入居者に求めることは是か非かを争った過去の裁判において、これを不当と訴えた入居者側は見事に負けている(東京地方裁判所 平成21年9月18日)。

この判例は、端的にいうと司法が契約自由の原則を重んじたものだ。そのうえで、争点のひとつに挙がった前記、国交省のガイドラインについても、入居時の鍵交換費用の負担についてはその対象外であるとされ、一蹴されたかたちとなっている。つまり、当判例は鍵交換費用の設定を勇気づける恰好の材料となっている(なお、上記判例の内容については国交省および不動産流通推進センター、双方による要約を参照させていただいた。ちなみに、ここで争われた鍵交換費用については、法外な金額設定等はなく、仲介会社による媒介も遺漏なく行われており、それらの点で消費者契約法への抵触もないと認められている)。

なので、例えばオーナーが「鍵交換費用というのは入居者に請求すべき筋のものなのか。私はちょっとおかしな気がするが」――などと、素朴な疑問を管理会社のスタッフにぶつけたとして、スタッフがそれを会社の法律顧問に尋ねるなどすると、「問題ない。判例もある」の答えは当然返ってきやすいことになるわけだ。

しかしながら、この記事が指摘したいのは、述べてきたとおりそうした突き詰めたところでの問題の有無ではない。「いまのままでいいのか?」と、いうことだ。

繰り返すが、過去の姿からは見違えるほどジェントルに変貌し、これからもさらにそうなっていくべき業界において、真っ先にデトックスしていくべきひとつがこの慣習であることに疑いはないように思われる。

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この記事を書いた人

編集者・ライター

賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室

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