重要事項説明書と契約書――記載内容の間違いと納得できない契約内容
大谷 昭二
2021/01/07
新型コロナによってテレワークを導入する会社が増え、都心から地方へと転居する人も増えています。
しかし、地方の不動産業者の中には、重要事項説明や契約書などの書類が古いままで、現状と合っていないといったこともあるようです。そんな契約時トラブルの疑問にお答えします。
重要事項説明書と実際が違っていても、知らんぷり、どうしたらよい?
Q.重要事項説明書の記載内容が実際とは異なっていたので、仲介業者に「契約を解除したい」と言ったところ、「申し訳ない」というだけで話が一向に進みません。
どうしたらいいのでしょうか?
A.重要事項説明書の記載内容は、契約を判断する重要なものです。その記載内容自体が間違っている場合は、業者として何らかの責任を負わなければならないのは当然のことです。
「記載自体が間違っている」原因として考えられるのは、家主が業者に提供した情報自体が間違っていた、業者が過失で記入間違いをした、業者が故意に記載内容を変更などが考えられます。ここではっきりさせなければならないのは、もし、「重要事項説明書の記載内容が間違っていなければ契約したかどうか」という点です。
たとえば、遮音構造を物件選びの際に重視していた人が、鉄筋コンクリート造だと説明されていたものが、実際には鉄骨造だった場合などは、業者は単に「すみません」では責任を取ったことにはならず、契約解除する場合の損害をすべて負うべきものです。
しかし、建築年数が1、2年事実とずれていたというようなケースや、全体の部屋数が少し食い違っていたというようなケースなど、ご自身の契約判断にあまり影響がないような場合であれば、それをもって、損害賠償まで求めるのは無理でしょう。
そこでこの質問では記載内容の間違いが契約判断に影響したかどうかによって判断が変わるでしょう。要は物件探しの際に重視するポイントとして説明していた事項が間違っていたのかどうかがポイントで、業者に対する責任追及の内容もおのずと異なります。
一方的な契約内容でも、文句は言えないの?
Q.物件は気に入ったのだけれど、契約書の内容が借主に一方的に不利な内容。どうしたらいいのでしょうか?
A.契約というのは、本来、対等平等な2者の間において、一方からの「申し込み」と他方の「承諾」によって成立するものです。これは、「諾成契約」と呼ばれており、口頭だけでも成立します。
たとえば、お店での買い物で考えるとよくわかると思います。
商品を買う人が、「これをください」と商品をレジに持っていく、あるいは店員に言う。これは「申し込み」になるわけです。そして、お店側は「ありがとうございます」とその商品の精算をする。これが「承諾」にあたります。
日本社会は「対等平等」を前提としていますから、契約においても「契約自由の原則」(私的自治の原則)というものがあり、人身売買や殺人依頼など法律に反する契約は無効ですが、それ以外の契約は、原則として自由に契約することができるのです。
そこでご相談の内容です。
建物の賃貸借契約では借地借家法の強行規定に反する契約は無効です。例文解釈と言って、契約書、契約約款中の定型的文言の解釈で、文言通りに適用すると不当な結果となる場合は、その不当性を回避するために、その文言を「単なる例文である」として、その有効性を否定する契約解釈の手法などが適用されるときも無効となります。
「自由に契約する」というのは、契約内容も自由ですし、誰と契約しようが、逆に契約を拒否すること自体も自由なのです。さらに、契約の形式も自由なので、口頭でも契約が成立するわけです。
民法自体も、「契約自由の原則」を前提としつつ、契約内容を取り決めなかった場合のルールを規定しているのです。しかし、実際の契約の中には、対等平等どころか、立場の強い者が一方的に定めた契約内容を提示するすることがしばしばあります。これは賃貸契約も同様で、借主に一方的に不利な規定を拒否したくても、家主が認めてくれなければ、結局は契約そのものが成立しないのです。
つまり、家主には「あなたとは契約しない」という権利があるわけで、家主に「契約せよ」と請求すること自体できないわけです。
そのため住宅に関しては、民法だけでは立場の弱い借主が一方的に不利であるとして、借地借家法(旧借地法、旧借家法)が誕生しました。借地借家法では「強行規定」というものを設け、一部の規定については、「契約書にどのような記載があっても、借地借家法の強行規定に反するもので、借主に一方的に不利な条項は無効である」としています。
また、2001年4月には、消費者契約法というものもできました。
この法律では、「消費者の利益を一方的に奪う契約条項は無効である」としており、賃貸借契約書にどのように記載されていても、消費者契約法に違反するとされた場合には、借主は従う必要がなく、裁判しても勝訴する可能性が非常に高くなってきています。
ご相談では「借主に一方的に不利……」ということですが、具体的な記載条項を確認する必要があります。その条項が、借地借家法の強行規定や消費者契約法に違反すると認められる場合には、そのまま契約しても、条項としては認められません。とはいえ、借地借家法の強行規定や消費者契約法に違反しているのであれば、やはりトラブル予防のために、家主に「法律上認められないと思うので、削除してほしい」と交渉しておいたほうがいいでしょう。
ただ、そうしたことを言ったことで家主が契約そのものを拒否してくる可能性があります。もちろん、借地借家法の強行規定や消費者契約法に規定・法律に違反していない条項であれば、借主は認めなければなりません。
一般的な傾向として、空室が出てもすぐに借主が見つかるような条件のよい物件の家主は強気なので、借主から「不利な条項を削除してくれ」と申し出ても、「無理に契約してもらわなくて結構。他にいくらでも借りたいという人がいるから」という答えが返ってくるでしょう。
それでも交渉するのであれば、借主に一方的に不利な条項がある場合、場合によっては契約できなくなることを覚悟した上で「納得できなければ契約しない」のかをはっきりさせ、家主(仲介業者)との交渉してみるのも1つの方法でしょう。こちらに理があっても、どうにもならないこともあるのが現実です。
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この記事を書いた人
NPO法人日本住宅性能検査協会理事長、一般社団法人空き家流通促進機構会長 元仲裁ADR法学会理事
1948年広島県生まれ。住宅をめぐるトラブル解決を図るNPO法人日本住宅性能検査協会を2004年に設立。サブリース契約、敷金・保証金など契約問題や被害者団体からの相談を受け、関係官庁や関連企業との交渉、話し合いなどを行っている。