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遺産分割後に借金が判明!? デジタル遺産相続の問題と対策

田中 あさみ田中 あさみ

2022/02/26

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イメージ/©︎takasuu・123RF

ネット銀行や証券会社、さらにはサブスクリプション契約などオンライン上の財産を残したまま亡くなり、相続で問題となるケースが増加しています。

ネット上にある相続財産は「デジタル遺産」と呼ばれ、被相続人(亡くなった方)が生前整理をしていなかった、周囲に伝えていなかった場合、相続人が存在を知らず遺産分割のやり直しや、相続税の申告漏れが発覚するなどの事態に発展している事例があります。

そもそもデジタル遺産とは一体何を指すのでしょうか? トラブル事例と対策とは? 本稿では、デジタル遺産相続の問題点やトラブル事例、対策をお伝えしていきます。

デジタル遺産とは 相続時に問題が…

インターネットが普及し、ネット銀行や証券会社での取り引きも身近なものとなってきました。亡くなったときに相続の対象となる「デジタル遺産」とはどのようなものがあるのでしょうか。

・ネット銀行の預貯金
・ネット証券会社にある株式・債券・投資信託などの有価証券
・FX
・仮想通貨
・ポイント・マイレージ
・電子マネーの残高
・サブスクリプションなど定期的な課金サービス
・データ化された財産(NFT、ブログなど)

ネット銀行・証券会社に預けられている現金や保有している有価証券をはじめ、FXや仮想通貨、ポイントなどもデジタル遺産となります。

定期契約であるサブスクリプションは、解約しないと課金され続けてしまいます。また、ブログによるアフィリエイト収入や、NFT(非代替性トークン)と呼ばれるコンテンツやキャラクター・アートなど代替不可能なデータもデジタル遺産です。

NFTは、仮想通貨と同様にブロックチェーンという技術を用いて唯一無二のデータとして主にアート作品が高額で取り引きされており、2022年2月時点での世界での最高額は約75億円となっています。

デジタル遺産相続の問題点

相続人がデジタル遺産の存在を知らずに相続手続きを進めてしまった場合、一体どうなってしまうのでしょうか?

オンライン上に預貯金や株式、債券などがあり、遺言書・エンディングノートが残されていない場合、相続人はデジタル遺産の存在を知らないまま遺産分割を進めてしまいます。

相続人全員が話し合う遺産分割協議では、デジタル遺産を含まない相続財産の分割方法や割合を話し合い、財産の名義を故人から相続人に変更することで遺産を分配します。

相続税の基礎控除額(3000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合には、相続開始の翌日から10カ月以内に相続税を申告・納付し相続手続きは完了となります。

しかし後からデジタル遺産が見つかった場合、財産の価額によっては相続税の無申告や申告漏れの対象となり加算税を納める可能性が生じます。

例えば筆者は、オンラインの証券会社で株やETF(上場投資信託)の取り引きを行っていますが、なかには3倍の値動きをするETFも売買しています。

一人暮らしの筆者が、株式・ETFの存在を家族に知らせず部屋で孤独死、株価が下落し元本割れした場合には法定相続人(民法で定められた相続人)である両親は、存在を知らないまま借金を背負う可能性があるのです。

定額サービスも利用していますので、存在を知らない場合は毎月口座からお金が引き落とされることになります。

デジタル遺産のトラブル事例

デジタル遺産により相続人が借金を返済することになった、相続放棄を取り消す事になったというトラブル事例を見ていきましょう。

1.故人が暗号資産のレバレッジ取引をしていた
皆さんは「レバレッジ取引」という取引方法をご存じでしょうか? レバレッジは「てこの原理」という意味で、実際に口座に預けている金額よりも多い額の取り引きができます。

例えば3倍のレバレッジがかかっている場合、10万円を入金すると30万円分の取り引きが可能です。

Aさんは暗号資産でレバレッジ取引を行い、入金100万円で500万円分の暗号資産を購入した後亡くなりました。相続人が存在を知らないまま暗号資産の価格は下落し、気づいた頃には300万円となり強制的に決済(ロスカット)されていました。

相続人が受け取る金額は「解約時」の金額となります。実際に入金していない400万円は一時的に仮想通過取引所から借りているかたちになりますので、口座に残っていた300万円を差し引いてもなお100万円の追加証拠金を入金しなければなりません。

相続人は、ほかの相続財産から100万を支払うことにしました。ただし相続税は「時価(相続時の価額)」で評価するため、税金が加算される結果となってしまいました。

2.遺産分割後にネット銀行口座が見つかった
独身のBさんは金利の高いネット銀行に1000万円を預けていましたが、急な病気で家族に預金の存在を告げないまま亡くなりました。

Bさんの相続財産はマンション・預貯金です。

マンションにはローンが残っており、債務額が売却価格を上回るオーバーローン状態でした。資産価値がマイナスで、銀行の預貯金額(ネット銀行を除く)と併せてもマイナスだったため相続人である父母は相続放棄の手続きを行いました。

放棄後にネット銀行の1000万円が発覚しましたが、相続放棄は一度申請すると取り消しが難しいと言われています。両親は取り消し方法を調べ、家庭裁判所に相続放棄取消申述書を提出することにしました。

上記のようなトラブルを防ぐためには一体どのような対策を行うべきなのでしょうか?

デジタル遺産相続の対策とは

デジタル遺産の相続時の対策として、相続財産を残す人・相続する予定がある人ができることを解説していきます。

<相続財産を残す人ができる対策>
・エンディングノート・遺言書を作成する
・生前に家族へ伝えておく
・死後事務委任契約を結ぶ

相続財産を残す人ができる対策としては、まず遺言書やエンディングノートにデジタル遺産を含む財産の目録を作り、存在を明らかにしておく方法があります。

また元気なうちに相続人となる予定の方に話しておくことも大事です。

死後事務委任契約とは、司法書士・弁護士などの専門家に亡くなった後の官公庁への届け出や通夜・告別式・火葬の事務などを代行依頼する契約です。コストはかかりますが、デジタル遺産の処理もお願いすることができます。

<相続する予定の人ができる対策>
・生前に情報を聞き出しておく
・遺品の中にネット銀行や証券会社の書類が無いか調べる
・PCを確認する
・デジタル遺品に強い業者・士業の事務所に依頼する

将来相続人となる人ができる対策としては、生前にデジタル遺産の情報を引きだしておくことです。

「そういえば『ネット銀行って便利だね』と言っていた」「電子マネーをよく使っておりいつも多めにチャージしていた」など、日常の何気ない会話や行動からヒントが見つかることがあります。

加えてネット銀行や証券会社でも、本人確認のため郵送で書類が送られてくる機会がありますので、遺品の中に書類が無いか探してみましょう。

さらに、PCのブックマークやメールを確認することで取り引きが発覚することもあります。

デジタル遺品を復旧する業者や、調査に詳しい司法書士・など士業の事務所に依頼するのもいいでしょう。ただしデジタル遺品整理業者の中には、作業の途中で帰ってしまう、法外な金額を要求する悪徳業者もいますので注意しましょう。

ネット上の財産は取り引きの手間がかからない、場所を取らないなどのメリットがある一方で、目に見えないため相続の際に相続人が見落としてしまうというデメリットがあります。

デジタル遺産の問題点やトラブル事例を知り、相続対策を行っていきましょう。

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この記事を書いた人

2級FP技能士・ライター

北海道在住。大学在学中に2級FP技能士を取得。 会社員を経てFP資格を活かし、ライターとして不動産・金融・相続・法律分野の記事を多数執筆する。「難しいことを分かりやすく」をモットーにライターとして活動中。

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