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「早く返したほうが得」と言われるけれど…

住宅ローンの繰り上げ返済、そのメリットとデメリットはどちらが大きい?

牧野寿和牧野寿和

2016/01/04

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「退職金で一括返済」は論外

 住宅ローンを低金利で借り、返済期間を長く設定しておけば、毎回の返済額は抑えられます。そうなれば、毎月の家計は楽になり、手元のお金に余裕ができるので、そのお金を貯蓄や運用に回すこともできます。しかし、あまり長く住宅ローンが残りすぎていても、不安に感じる人もいるでしょう。では、住宅ローンは何年で返すのが適正なのでしょうか。

 人によって借りる年齢が違うので差はありますが、ひとつの目安としては、定年退職するまでに完済することを目標にするといいでしょう。理想としては、長期の低金利で毎月の返済額を抑えながら、手元のお金を貯蓄や運用に回し、退職までにローンの返済額も含めた十分な老後資金を蓄えることです。

 もちろん、誰もがそのようにうまくいくわけではありません。退職時に住宅ローンが残ってしまう場合もあるでしょう。なかには、「退職金でローン残高一括返済」と考えている人もいるかと思いますが、退職後の生活を考えたら、それは避けるべきです。

 極端な例ではありますが、たとえば、退職時に1800万円の住宅ローンが残っていて、退職金が2000万円だったとします。退職金を使って住宅ローンを一括返済すれば借金はなくなりますが、手元には200万円しか残りません。一方、一括返済をしなければ毎月の返済は続けていかなければなりませんが、手元には2000万円が残ります。その後の生活を考えた場合、どちらが安心かは一目瞭然でしょう。

 退職までに完済するのが理想ですが、必ずしもそうしなくとも問題ないということは知っておいていただきたいと思います。

返済期間を短くすることにメリットはある?

 住宅ローンの返済について、よくいわれるのは、「借りている期間が長いほど総支払い金額は増える」ということです。

 また、返済期間を短くすることで、住宅ローン返済中の環境の変化に強くなるともいわれます。たとえば、収入の減少や金利の上昇、増税など、ローン返済に影響するような出来事があっても、借入残高が少なければ影響を抑えられるし、対策も取りやすくなるというのです。さらには、このようにローン返済のリスクが減る分、返済期間を長く取っている場合よりも保証料などの諸費用が安くなるともいわれます。

 まるで、返済期間を短く設定するといいことずくめのようですが、本当にそうでしょうか?

 たしかに、返済期間を短くすれば、総返済額は減少します。たとえば3000万円を金利3.0%の全期間固定金利型で借りたとしましょう。これを35年で返済すると、月々11万5455円の返済で、総返済額は4849万円程度になります。これを34年返済に変えてみましょう。すると月々の返済は1926円増えて11万7381円になりますが、総返済額は4789万円と60万円程度少なくなります。そのまま33年、32年と返済期間を短くするごとに支払うことになる利息は減っていきます。

 しかし、短期間で返済するということは、月々の家計の負担が重くなるということです。早く返したほうが得だからといって、貯蓄に回すべきお金まで返済に当ててしまうのは、非常に危険です。

 しかも、住宅ローンほど低い金利で、長期にわたって融資を受けられるローンはほかにありません。金利の低い住宅ローンの返済を急いだあまりに、いざというときに高い金利でお金を借りることになってしまっては、本末転倒です。

 それに上の例では金利3%で計算しましたが、現在は1%程度の金利で借りることができる時代です。家計をやりくりして貯蓄をして、繰り上げ返済をしたからといって、その苦労に見合う分だけ返済額を減らせるかといえば疑問です。

住宅ローンの基本は低金利で借りて長期で返すこと

 しかも、先ほどあげた返済期間を短くすることで減らせるリスク、たとえば収入の減少や金利の上昇、増税といったリスクも、できるだけ低い固定金利で借り入れすることで対応が可能です。固定金利であれば金利の上昇はそもそも関係ありませんし、収入の減少、増税についても月々のローン返済額を抑えて、手元に残ったお金を貯蓄や運用に回しておくことで乗り切ることができます。

 そもそもどんなに返済期間を短くしても、収入の減少や増税があったときに、手元にお金がなければローンの返済を続けるどころか、家計自体が破綻しかねません。そう考えると、返済期間を短くしても、ローン返済のリスクを減らすどころかむしろ危険とさえいえるでしょう。

 住宅ローンの基本は、低金利で借りて長期で返すことです。まして、現在のような低金利の時代であればなおさらです。月々の返済額を抑えることで、手元のお金を厚くして、リスクに備えると同時に老後資金や子どもの教育費を確保することを基本的な考え方として持っておくことをおすすめします。

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この記事を書いた人

CFP、一級ファイナンシャル・プランニング技能士

1958年名古屋生まれ、大学卒業後、約20年間旅行会社に勤務。出張先のロサンゼルスでファイナンシャルプランナー(FP)に出会い、その業務に感銘を受け、自らもFP事務所を開業。 その後12年間。どの組織にも属さない「独立系」FPとして、誰でも必要なお金のことを気軽に考えてもらうため「人生を旅に例え、お金とも気楽に付き合う」を信念に、日本で唯一の「人生の添乗員(R)」と名乗り、個別相談業務を行なうとともにセミナー講師として活動している。 また、賃貸不動産の経営もしており、不動産経営や投資の相談にも数多くのアドバイスやプランニングをしている。

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