親に忖度――空気を読む子どもたち
しばはし聡子
2021/07/27
イメージ/©︎fizkes・123RF
親の離婚は人生の大事件
離婚となると、つい自分の感情を優先してしまいがちですが、お子さんがいるご家庭での離婚は、何よりもまず子どもの気持ちを理解しておくことが大切です。離婚家庭が増えているとはいえ、仲のよい両親のもとで暮らすことを望む子どもの心情は今も昔も同じ。子どもにとっては親の離婚は人生の大事件と言っても過言ではありません。
「この先どうなってしまうの?」「パパともう会えないの?」「僕のせい私のせいでパパとママは喧嘩してしまったの?」「ママに聞いたら怒られるかな」など、小さな胸を痛めながらひとりで苦しんでいます。大人は友人やカウンセラーなど相談する先はいくらでもありますが、子どもは一番甘えたい親に甘えられない、気持ちを伝えられない状況はこれ以上にないほどつらい思いをしていることは容易に想像できますね。
離婚は親の都合です。親の勝手により子どもを傷つけることは間違いありません。その時点ですでに子どもに対して、親は「ごめんなさい」なのです。ただ、だからといって子どものために夫婦仲が劣悪なまま離婚せずに子どもが成人するまで結婚生活を送ることに限界を感じる方もいるでしょう。であれば、愛する子どもが離婚によるダメージを最小限にとどめてあげることが最低限の親の責務になってきます。
子どもは親の顔色を伺っている
子どもは驚くほどに親の顔色を見て空気を読みます。個人差はあるものの、未就学児でも親の異変に気付き、それぞれの親の味方になろうと、パパのことが好き、ママのことが好きと言って笑顔で振舞ったりすることも。また、別居後母親と暮らすようになった際には、母親から嫌われたら生きていけなくなるわけですから、生存本能で母親のご機嫌をとることを覚え、母親を怒らせないよう、機嫌を悪くさせないよう、悲しませないように、言葉を選び振舞います。まさに忖度です。
父親の話題を出すと母親が不機嫌になるリスクを回避するために、父親の話は一切せずにタブーにしたり、母親に「父親に会いたい?」と聞かれても、「会いたくない」と答えてみたり、母親が父親の悪口を言っている場合は同調してみたり。終始気を遣いながら顔色を見て過ごしています。
また、子どもは親の感情を敏感に察知しますから、子どもが発した言葉が本心だとは限りません。また、子ども自身も本心なのか顔色を見て言っているのか分からなくなっていることもあるでしょう。ですので、子どもの発言に対して子ども自身に責任を持たせるのは酷なこと。
例えば、子どもに「パパに会いたい?」と聞いたとします。そのときの母親の表情や声色によっては、「別に……、会いたくない」というでしょう。その言葉を鵜呑みにして、「子どもが会いたくないと言っているから会わせる必要はない」と決めつけてしまうのは要注意です。その言葉を言わせているのは、もしかしたら、あなたから醸し出されている「ママはパパが嫌い」というオーラかもしれません。
子どもをこんな気持ちにさせないために、子どもの気持ちをケアしながら、子どものダメージを最小限にとどめるにはどのような対応や親の心得が必要になるのでしょうか。年齢別にみていきましょう。
年齢による子どもへの対応
・五感で察知(乳幼児期)
今まで子育てされてきたなかで、誰しも経験があるのではないでしょうか。母親がちょっと不機嫌だったり余裕がなかったりすると、乳幼児の子どもが敏感に察知して突然泣き出したり全然寝てくれなかったりすること。声色や表情などちょっとした異変に気付くのでしょう。ましてや、パパとママが血相変えて喧嘩をしていたり、ママが時折ひとりで泣いていたりしたら、言葉は分からなくても五感で察知し不安定になることも。
乳幼児の子どもは言葉が分からないからと、目の前で言い争ったりするのは要注意。五感で察知しています。夫との話し合いは子どもが寝静まった後に別室で、そして、普段はたくさんスキンシップを取ってあげて優しく声がけをしてあげましょう。
・自分のせい?(就学前)
この年代になると、パパとママが不仲なことを明らかに認識しますが、なぜ不仲なのか理由を察知することはできず、ただただ悲しい気持ちになる子も多いようです。「僕のせい、私のせいでパパとママが喧嘩しているの?」「僕が、私がいい子になるから喧嘩しないで、ごめんなさい」と自責の念にかられてしまうことも。
不仲な理由を詳細まで伝える必要はありませんが、「あなたのせいでパパママが仲良くできないんじゃないのよ。パパもママもあなたを変わらず愛しているのよ」ということを、その年代で分かる言葉できちんと伝えてあげましょう。
・復縁に期待(小学生)
小学生低学年にもなると知恵がつき、パパとママをなんとか仲直りさせようと一役買おうとすることも。例えば、口を聞かないパパとママの手とつなげさせようとしたり、「パパ、ママにチュッてして」など言ってみたり。戸惑う場面もありますが、まだ空気を読まずになんとか仲直りさせようとする年代であれば、自分の気持ちを素直に伝えてくれます。
このような場合は、別居や離婚が確定しているのであれば、子どもが傷付く姿を見たくなくて曖昧にしてしまいがちですが、期待をさせないということも必要になってきます。
子どもにとっては酷なことではありますが、期待をして期待通りにならなかった場合には、二重にダメージを受けてしまいます。
「パパとママは一緒のおうちにいると喧嘩しちゃうから、おうちを分けて暮らすの」「パパとママは別々に暮らす方が協力できるの」など、曖昧にせずに説明してあげましょう。
さらに成長していくと、だんだん親の顔色を見て空気を読み、発言していいこと悪いことを判断するようになります。つまりは、自分の気持ちを素直に話さなくなっていくのです。誰にも相談できず、一番甘えたい親に本心を言えずに小さな胸を痛めながら悩み苦しむことになります。そのようなことにならないためにも、両親がお互いの悪口を子どもに伝えたり、相手を排除するような言動をすることは控えることが大事です。
・好きにするよ(中高校生)
中学生や高校生にもなると、「自分を巻き込まないでほしい」という気持ちが強くなってきます。話し相手にもなりやすいため、つい夫の悪口を伝えたり離婚をしようか悩んでいるなど相談相手にしていまいがち。ただ、子どもはカウンセラーではありません。今後、親が離婚したら自分はどこに住むことになるのか、行きたい学校には通えるのか、など自分の進路に関わってくることや生活環境面や経済面への具体的な不安が増えていきます。
離婚する事実をきちんと事実を伝えたうえで、親から子どもへのトップダウンではなく、今後の生活の見通しや選択肢を説明し子どもと相談しながら決めるのもひとつです。当然自分と一緒に住むものだと思っていても、もしかしたら引っ越すよりは自宅に留まりたいから父親と住むと言い出すかもしれません。不安に思っていることをヒアリングし、質問しやすい環境をつくるように心がけましょう。
この時期はただでさえ思春期や反抗期で会話が少なく本心を聞けないことも多いかもしれません。ただ、子どもの人生にとっても大事なことですから、「言わなくても察知してくれている」「きっと分かってくれるだろう」と曖昧にするのではなく、きちんと向き合って話す時間をつくるようにしましょう。子どもの意向を取り入れたいというスタンスで話すようにするとよいですね。
子どもの成長度合いによっても変わってきますので、子どもの様子をよく見てあげること。そして、離婚となると、つい自分の感情を優先してしまいがちですが、お子さんがいるご家庭での離婚は、何よりまず子どもの気持ちを理解しておくことが大切ですね。
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この記事を書いた人
一般社団法人りむすび 共同養育コンサルタント
1974年生まれ。慶應義塾大学法学部卒。自身の子連れ離婚経験を生かし当事者支援として「一般社団法人りむすび」を設立。「離婚しても親はふたり」共同養育普及に向けて離婚相談・面会交流支援やコミュニティ運営および講演・執筆活動中。 *りむすび公式サイト:http://www.rimusubi.com/ *別居パパママ相互理解のオンラインサロン「りむすびコミュニティ」 http://www.rimusubi.com/community *著書「離婚の新常識! 別れてもふたりで子育て 知っておきたい共同養育のコツ」️