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投資物件を安心して引き継ぐために――家族信託 その2 家族信託と遺留分侵害額請求

森田雅也森田雅也

2021/12/22

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イメージ/©️paylessimages・123RF

今回は、家族信託と遺留分侵害額請求(民法1046条)の関係についてお話させていただきます。

遺留分と遺留分侵害額請求

まず遺留分とは、一定の相続人(遺留分権利者)について、被相続人(亡くなった方)の財産から法律上取得することが保障されている最低限の取り分のことをいいます。

そして遺留分侵害額請求とは、被相続人が財産を遺留分権利者以外に贈与、または遺贈し、これにより遺留分に相当する財産すら受け取ることができなかった場合、贈与または遺贈を受けた者に対し、遺留分を侵害されたとして、その侵害額に相当する金銭の支払いを請求することをいいます。

例えば、夫(被相続人)、妻、子3人がいる場合、全ての遺産を子ども3人にのみ相続させる旨を記載した遺言書を遺した夫が亡くなった場合、妻は子ども3人に対して遺留分侵害額請求をすることができます。

では、家族信託をした場合にも、同じように遺留分侵害額請求を受けてしまうような場合があるのでしょうか。「家族信託をすれば遺留分制度は回避できる」ということになるのでしょうか。

結論から言うと、家族信託であっても、遺留分制度は回避できず、遺留分を侵害するような家族信託が行われた場合には、遺留分侵害額請求ができると考えられています。

なお、信託を利用した場合について遺留分侵害額請求を真正面から明確に判断した裁判例は現時点ではありませんが、信託契約の一部を公序良俗違反として無効とした裁判例(東京地裁平成30年9月12日判決)が存在するので紹介いたします。

■事案
Aの相続人は、長男X、二女Bおよび二男Yの3名でした。まず、AはYおよびBとの間で両名にそれぞれ全財産の3分の2、3分の1に相当する財産を贈与する旨の死因贈与契約を締結しました。その後、AはYとの間で、Aを委託者、Yを受託者として、信託目的を財産の管理・運用等と定め、所有している全ての不動産と300万円を信託財産として信託(以下「本件信託」といいます)する内容の信託契約を締結しました。本件信託の当初受益者はAであり、Aの死亡後は、Yが受益権割合6分の4、XおよびBが受益権割合の6分の1をそれぞれ取得するとされました。その後Aが死亡し、Xが本件信託により遺留分を侵害されたと主張するとともに、本件信託が公序良俗(民法90条)に反して無効であると主張しました。

■裁判所の判断
裁判所は、「本件信託のうち、経済的利益の分配が想定されない不動産を目的財産に含めた部分は、遺留分制度を潜脱する意図で信託制度を利用したものであって、公序良俗に反して無効というべきである」として、本件信託の一部が無効であるとの判断をしました。

信託と遺留分侵害額請求について

裁判所は、上記事案においては、その事案の特殊性に鑑みて、遺留分制度を潜脱する意図で信託制度を利用した場合に無効となるという判断をしました。

しかし、信託自体が無効とまではいえない場合に、遺留分侵害額請求との関係で、検討しなければ問題はいまだ残されています。例えば、

・遺留分減殺請求の対象は何か(信託設定そのものか、信託設定に基づく信託財産の処分行為か、受益権の取得・帰属か)
・遺留分減殺請求の相手方は誰か(受託者か、受益者か、受託者・受益者の両方か)
・請求の範囲(算定の基礎となるのは信託財産の価格か、受益権の価格か)
・受益権の価格の算定方法は何か

などです。このあたりの問題に対する見解は、現在もなお意見が分かれるところです。

まとめ

このように、家族信託をする場合には、遺留分の侵害の有無等について慎重に吟味をして信託の設計をする必要があります。例えば、遺留分侵害への対応として、

①遺留分権利者には遺留分相当の金融資産や不動産を相続させる
②遺留分に応じた遺産の相続とこれが不足する場合には一部財産を信託財産から分離してこれを給付する
③遺留分権利者も受益者として設定する

などが考えられます。

しかし、既にお話ししたとおり、信託と遺留分侵害額請求との関係については未確定な部分も多いです。したがって、これから家族信託をご検討される方は、弁護士などの専門家とよく話し合ったうえで信託契約の内容を決めることをお勧めします。

 

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この記事を書いた人

弁護士

弁護士法人Authense法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属)。 上智大学法科大学院卒業後、中央総合法律事務所を経て、弁護士法人法律事務所オーセンスに入所。入所後は不動産法務部門の立ち上げに尽力し、不動産オーナーの弁護士として、主に様々な不動産問題を取り扱い、年間解決実績1,500件超と業界トップクラスの実績を残す。不動産業界の顧問も多く抱えている。一方、近年では不動産と関係が強い相続部門を立ち上げ、年1,000件を超える相続問題を取り扱い、多数のトラブル事案を解決。 不動産×相続という多面的法律視点で、相続・遺言セミナー、執筆活動なども多数行っている。 [著書]「自分でできる家賃滞納対策 自主管理型一般家主の賃貸経営バイブル」(中央経済社)。 [担当]契約書作成 森田雅也は個人間直接売買において契約書の作成を行います。

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