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投資物件を安心して引き継ぐために——家族信託 その1 制度概要

森田雅也森田雅也

2021/10/15

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イメージ/©imtmphoto・123RF

今回は、家族信託と不動産投資についてご説明いたします。

家族信託とは、法的な用語ではありませんが、一般的には、資産を持つ人が特定の目的のために、資産の管理・処分を信頼できる家族に託し、その資産の管理・処分を任せる信託契約のことをいいます。

家族信託の仕組み

家族信託は、委託者・受託者・受益者の3者から構成されます。委託者とは、資産を家族信託締結前に所有している人のことをいいます。

これに対して受託者とは、家族信託を締結することによって、資産を管理・処分する人のことをいいます。

不動産などの資産については、信託登記をしなければ第三者に対して当該資産が信託財産であることを主張することができないため、信託登記を備える必要があります(信託法14条)。この信託登記には、甲区において、所有者(委託者)から受託者に所有権移転の表示がされますが、受託者の肩書は所有者ではなく受託者と表示されます。

また、登記には信託目録が付けられることになっていて、そこには、委託者、受託者、受益者の表示がされ信託条項の記載もされるので、第三者からみてもどのような信託契約が締結されたのかが分かるようになっています。ただし、受託者は財産の管理・処分をするため、法律行為を単独で行うことができない未成年者は、受託者となる資格がありません(信託法7条)。

最後に受益者とは、受託者の管理・処分などで出た利益を享受する人のことをいいます。

委託者と受託者が同一人物の自己信託(信託宣言)やさらに受益者も同一人物といった信託方法も認められています。

他の制度との違い

【成年後見人制度】
似たような制度に成年後見人制度があります。成年後見人制度と家族信託の一番の違いは、成年後見人制度は認知症などになってからでないと財産管理ができないという点にあります。この点、家族信託は本人が元気な状態から財産管理を任せられるという利点があります。

また、成年後見人制度は家庭裁判所が携わってくるので手続きが家族信託よりも煩雑になります。

さらに、家族信託の場合には、委託者が受託者を自由に決めることができますが、成年後見人制度の場合には、最終的には家庭裁判所が成年後見人を決めることになるので、必ずしも自分が信頼できる人が成年後見人に選任されるとは限りません。

加えて、成年後見人制度は、被後見人の身上監護権と財産管理を目的としていますが、家族信託は財産管理を目的としており、身上監護権を含まないという違いがあります。

【委任契約】
本人が親族に財産管理を委任することも考えられます。しかし、委任契約の場合は、信託契約と違い、以下の相違があります。

① 所有権
不動産などの登記名義が、上述したように家族信託の場合には信託登記をすることにより登記名義人が受託者に移ります。しかし、委任の場合には登記もしなければ所有権が移ることもありません。

② 判断権者
家族信託の場合には、財産の管理や処分について受託者が判断権者になります。これに対して、委任の場合には、委任者が受任者に対して指示することになるので、委任者が判断権者になります。

③ 当事者の死亡
家族信託の場合には、信託契約においては当事者死亡後(委託者・受託者・受益者三者ともに)の内容を定めることができます。これに対し、委任契約の場合では、原則として、当事者(委任者・死亡者)の死亡により契約が終了となります。

家族信託と不動産投資

では、実際にどういった場面で家族信託が不動産投資に活用できるのかをご説明いたします。

資産家のAさんは、賃貸物件をいくつも持っていますが、高齢で今後認知症が心配でどうにかできないものかと悩んでいました。そこで、今のうちに財産管理を信頼できる家族(息子のBさんでCさんの父親)に委託し、賃料をAさんの生活費と孫のCさんの大学資金に充てたいと考えています。

このような場合に、家族信託を活用し、Aさんを委託者、息子のBさんを受託者、AさんとCさんを受益者とする信託内容を締結しておくことにより、Aさんは今後認知症になっても安心して生活をすることができます。

また、Aさんが亡くなったときは、Bさんの妻Eさんを新たな受益者とすることをあらかじめ定めることもできます(受益者連続型信託)。これは、遺言では認められていない方法になり、委託者が亡くなった後に受益者が亡くなったとしても次の受益者を決めておけるという利点が家族信託にはあります。ただし、信託開始時以後30年経過した時の受益権の取得は一度のみという制限があることには注意が必要です(信託法91条)。

このように不動産投資についても、投資物件を今後誰に引き継いで、誰に管理をお願いするかなど委託者が幅広く決めることができ、安心して生活を送ることができます。

利点が多い家族信託ですが、収益不動産を信託財産とした場合には、そこから損失がでても他の所得と損益通算ができないなどの欠点もあります。また、信託契約の内容は委託者と受託者の間で柔軟に取り決めることができる一方で、信託契約の内容をしっかり決めておかないとかえってトラブルになったりすることもあります。

家族信託を検討される場合には、一度弁護士や司法書士、税理士などの専門家に相談してみるのがよいでしょう。

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この記事を書いた人

弁護士

弁護士法人Authense法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属)。 上智大学法科大学院卒業後、中央総合法律事務所を経て、弁護士法人法律事務所オーセンスに入所。入所後は不動産法務部門の立ち上げに尽力し、不動産オーナーの弁護士として、主に様々な不動産問題を取り扱い、年間解決実績1,500件超と業界トップクラスの実績を残す。不動産業界の顧問も多く抱えている。一方、近年では不動産と関係が強い相続部門を立ち上げ、年1,000件を超える相続問題を取り扱い、多数のトラブル事案を解決。 不動産×相続という多面的法律視点で、相続・遺言セミナー、執筆活動なども多数行っている。 [著書]「自分でできる家賃滞納対策 自主管理型一般家主の賃貸経営バイブル」(中央経済社)。 [担当]契約書作成 森田雅也は個人間直接売買において契約書の作成を行います。

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