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「敷金」って何だ? 敷金を少しでも多く取り戻したい人がするべきこと(3/3ページ)

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クリーニング特約は民法違反?

ところで、クリーニング特約については、法律の専門家などはこれを「通常損耗補修特約」などと呼んだりする。

民法やガイドラインの規定に沿えば、本来入居者が負担しなくてよいはずの「通常損耗」の補修を負担する約束——との意味になる。

もっとも、クリーニング特約が正しく成立するにあたっては、合意の客観的具体性、および明確性が求められるとする見解も専門家の間では一般的だ(2005年の最高裁判決が根拠)。すなわち、入居者が負担させられる通常損耗等の範囲が、契約書に具体的に明記されていることなどが要求されることになる。

また、定められた金額が常識に反して高額だったり、入居期間がかなり短い場合でも履行を迫られたりといったことがあれば、クリーニング特約の有効性が司法の場で否定されるケースもおそらく生じることだろう。

さらに、こんな疑問を持つ人もいるはずだ。「民法の規定に明らかに反するかたちのクリーニング特約が、実際に“横行”しているのはそもそもなぜなのか」——?

答えは、民法第621条がいまのところ任意規定である旨、多くの専門家によって解釈されているからにほかならない。

任意規定とは、法律による定めはあるものの、それとは異なる合意や契約が行われた場合、そちらが優先されるものを指す言葉となる。

こうした、ある意味理不尽なクリーニング特約が、さきほどの「ガイドライン」が浸透するのに合わせて、ここ10年ほどの間に一気に広まった。

その理由は、無論のこと「上に政策あれば、下に対策あり」で、原状回復に関わる費用をオーナーが入居者へ求めづらくなっていくのに対抗してのことなのだが、あまりオーナーを責めてもほしくない。彼らも必死なのだ。

脱落者も多い厳しい競争のなか、多大な投資リスクを抱えての賃貸経営に大勢のオーナーが四苦八苦している現状もあるということだ。

敷金と原状回復費用のここ約30年

さて、一旦以上をまとめよう。

敷金と原状回復

・敷金とは、賃貸住宅を借りる際、入居者がオーナーに預けるお金のこと
・敷金は、入居者がオーナーに対して抱えた債務を担保する
・敷金の用途は、原状回復に要する費用となることが実際には多い
・原状回復の解釈については、オーナー、入居者間での乖離も過去にはよく見られ、深刻なトラブルになることも多かった 

原状回復の明確化

・原状回復の定義については、98年に国交省がガイドラインで明確化した
・ガイドラインの考え方は、17年の改正民法により法律上も明確化した
・ガイドラインや民法の浸透により、原状回復に絡んでの深刻な敷金返還トラブルは少なくなった 

クリーニング特約の広がり

・一方で、ガイドラインと民法の意義を失わせるクリーニング特約の設定も、近年大きく広がっている

敷金を少しでも多く取り戻すためにするべきこと

ではいよいよアドバイスだ。敷金を少しでも多く取り戻すためにすべきこと……それは何か?

「いやいや、私の場合、例のクリーニング特約で取られる金額が決まっています。アドバイスは必要ありません」——という人も、ここでナメてはいけない。

なぜなら、金額の定まったクリーニング特約があったとしても、多くの契約において、それは決して「上限」にはなっていないはずだからだ。

借りている物件に通常損耗を超える損耗や毀損(故意・過失、善管注意義務違反等によるもの)があった場合は、特約の額を超えて、原状回復費用を求められることは十分にありうることだからだ。

ある達人のテクニックを紹介しよう。

敷金取り戻しの達人がやっていること

ある達人——仮にAさんとしよう。Aさんは、これまで暮らしてきた5軒の賃貸住宅(全ての物件で3年以上居住)において、一度も敷金から原状回復費用を引かれた経験がない人だ。唯一、金額の定められたクリーニング特約が設定されていたひと部屋のみで、その額を敷金から支払ってはいるが、ほかではすべて全額返還を勝ち得ている。 

もっとも大事な答えから言おう。Aさんは、退去する前にいつもピカピカに部屋を掃除する。引っ越しの準備がてら、くまなく掃除するのだ。傷が見つかれば、もちろん丁寧に補修もする。

のみならず、Aさんは少なくとも年に1度は大掃除も敢行する。そのうえで、退去前の総仕上げも行うことで、「私が入居した時点よりもお部屋はキレイになっていますよ」——堂々胸を張って、オーナー側に伝えるそうだ。

「入居時は、窓の周辺や洗面台の陰などあちこちカビだらけでしたが、いかがですか。ご覧のとおりいまはきれいでしょう」

実際にキレイなので、退去の立ち合いに訪れた管理会社のスタッフも、あるいはリフォーム会社の担当者も(いまはこのケースも多い)、皆「恐れ入りました」の状態になってしまうそうだ。

ちなみに、「入居時はカビだらけだったって、本当ですか?」と、万が一疑ってかかる相手がいたとしても、Aさんにはちゃんと備えもある。入居時、部屋中の汚れやキズを残さず写真に撮ってある。

もっとも、これまでそうした証拠写真に出番があったことは一度もないそうだ。それ以前に、相手がすっかり“恐れ入って”しまうからだ。

無論、それだけでなく感謝もされる。オーナーにとって、ときに物件はわが子のようなものだ。大切に扱ってもらって嬉しくないはずはない。

どうだろう。真似するのは難しい?

いやいや、Aさんがいうには「私は『立つ鳥跡を濁さず』を実践しているだけ」とのこと。聞かされるこちらは耳が痛いが、考えてみれば人生当たり前の心がけともいえるだろう。このAさんを多少とも見倣ってみれば、その分、あなたの敷金は金額を増して戻ってくることになるかもしれない。

なお、前提としてAさんはタバコを吸わない。さらに、カビを呼ぶ部屋の湿気については日頃からかなり気を使うそうだ。適度な換気を欠かさない。

「自分のためでなく、オーナーのためでもなく、長年暮らした部屋にこそ感謝するために」——ピカピカに磨いて、立ち去るとのことだ。 

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この記事を書いた人

編集者・ライター

賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室

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