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「敷金」って何だ? 敷金を少しでも多く取り戻したい人がするべきこと(2/3ページ)

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原状回復をめぐるトラブルとガイドライン

原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によって、曖昧だった賃貸住宅の原状回復はこう定義されることとなった。

「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」

さらに、

「いわゆる経年変化、通常の使用による損耗等の修繕費用は、賃料に含まれる」

そのうえで、このうち前者による原状回復が行われる場合にかぎっては、費用は賃借人負担とされた。

例を挙げよう。

例えば、年月を経て自然に変色した壁紙の交換費用は、それ(交換)を行いたいのならば、費用を負担するのは入居者ではない。オーナーだ。

なぜなら、これは入居者の「故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損」ではないからだ。「経年変化、通常の使用による損耗等」に当たるからだ。

では、入居者の吸ったタバコのヤニや臭いが壁紙に付着していた場合はどうだろう。こちらはオーナーではない、入居者負担だ。喫煙という、まさに個人の故意による汚れが、物件を「通常の使用を超える」かたちで毀損させてしまっているからだ。

よってこの場合、オーナーは壁紙を交換するにあたって入居者に費用の負担を求めることができる。「お預かりしている敷金から引かせてもらいますね」が可能となるわけだ。

法律による原状回復の明文化

この「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は、内容が合理的で偏りがないこともあって、取りまとめ以降、不動産業界に広く浸透した。さらに、2017年にはガイドラインの考え方が、改正民法にそのまま引き継がれることにもなった。同法第621条によって、賃貸住宅の原状回復は法的にも明文化されたことになる。以下に抜粋しよう。

「賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う」(民法第621条の一部)

そのため、近ごろはさきほどのような強引な解釈を示すことで、深刻な原状回復トラブル=敷金返還トラブルを招くオーナーはかなり少なくなっている。

また、たとえオーナーが新たな民法やガイドラインを知らなくとも、彼らをサポートしている管理会社等が、リスク管理上、無理を言わせないことも多い。つまり、敷金は過去に比べて格段に戻って来やすくなっている。はずなのだが……

実際のところ、それはあくまで理屈だ。現実には逆のことが起きている。近年広く一般化した皮肉な現象がそれだ。

クリーニング特約とは?

その現象とは、いわゆる「クリーニング特約」の広がりを指す。クリーニング特約は、現在世のなかで交わされている居住用建物賃貸借契約のうち、かなりの数において採用されているものだ。

具体的には、契約書の条文の中にあらかじめ以下のような規定を設けておく。

「退去時、室内クリーニングの費用は借主負担とする」
「退去時、室内クリーニングの費用〇万〇千円は借主負担とする」

そのうえで、こうした契約を結んでしまえば、敷金が入居者の手元に全額戻ってくることはほぼなくなってしまう。特に後者では、入居者がどれほど部屋を大切にし、キレイに暮らしたとしても、〇万〇千円は問答無用で敷金から差し引かれる可能性が高いだろう。

逆に、他人よりも余計に部屋を傷つけたり、汚したりしがちな人にとっては、それでも決まった額までで負担を済ませられるケースが増える。後ろめたくもラッキーな結果となることも、当然増えてくるはずだ。

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この記事を書いた人

編集者・ライター

賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室

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