“駅近”物件 実は地盤が弱い? 地盤から考える安心・安全な住宅とは
小川 純
2022/02/25
イメージ/©︎nosua・123RF
家選びから“抜けた”地盤の「安全性」
住宅を探す際に重視される項目は家賃、間取り、通勤・通学時間、最寄り駅からの徒歩時間、路線・エリアというのが5大要素のようだ。リクルート社が20〜30代の既婚者に行った「夫婦の住まいと生活 じっくりレポート 2021」によれば、これらがベスト5になっている。
■家を探すときに重視する項目
出典/リクルート社「夫婦の住まいと生活 じっくりレポート 2021」
しかし、忘れてはならないのが自然災害だ。地震、台風、豪雨といった自然災害は増えており、2021年~22年に震度5以上の地震は11件、そのうち6件では死亡者や負傷者が出ている。21年7月には静岡・神奈川県を中心に豪雨が襲い、死者26名、行方不明1名を出した。同8月の九州、中国、北陸地方の広範囲を襲った豪雨でも死者13名、負傷者17名という痛ましい事態に。なかでも、7月の静岡・神奈川の豪雨災害では、静岡県熱海市で大規模な土砂崩れが発生、これは不正な盛り土が原因になったと見られ、捜査が進んでいる。
こう見てくると、家選びにおいて住宅の耐震性や周辺の地形なども考慮する必要がありそうだが、実際にはこのあたりは重視されていない。自然災害はいつ、どこでも起きる可能性があり、これについては避けることが難しい。そこで目を向けたいのが、建物の建つ土地、つまり地盤だ。
「これまではネットを通して相談を受けていましたが、1年ほど前から専用来客スペースを作り、地盤についての相談を受けています」
こう話すのは地盤ネットホールディングス会長の山本強さんだ。続けて話す。
「地盤を調べることで、地震、土砂、洪水による被害が出やすい場所か、そうでない場所かが明確に分かります。自然災害は人命にもかかわってくることなので、地盤調査によってそうした災害のリスクヘッジができます」
地盤ネットホールディングスは地盤解析の専門企業。ネットに住所を入力するだけでその住所の地盤状況を無料で診断する「地盤カルテ」、地盤会社から提案された地盤改良工事の必要性を判定する「地盤セカンドオピニオン」、自宅のある地盤の耐震性をチェックする「デジタル耐震チェック」、地盤調査に基づいた住宅の設計・建築、補償を付けた「地盤安心住宅」、地盤の見える不動産サイト「JIBANGOO」などを展開している。
「地盤カルテ」では、住所を入れるだけでその住所の地盤を数値化したデータを見ることができる
同社の不動産部門トップの伊東洋一さんは次のように話す。
「ネットによる地盤カルテの調査は、月ごとに変動しますが、多いときは5000件ぐらいあります。耐震住宅などはいろいろありますが、こうした住宅もよい地盤のところに建ててこそ、その性能が発揮できるものだと思います」
地盤のよい土地 地盤の悪い土地とは
では、地盤のよい土地というのはどういうところなのだろうか。
「分かりやすいのは高台といわれるような台地上で、ある程度標高があるところが一つの目安になるでしょう。逆に地盤のよくないところは低地で、具体的には渋谷などは地盤の弱い地域です。また、縄文時代の土器が出たような地域はよい地盤が多く、昔は河川があったところ、人工的に盛り土をしたところはよくありません」(山本さん)
東京・山手線周辺の地形
しかし、地盤工事をすればよいわけではなく、調査せずに地盤工事をすることで、よい地盤を逆にダメな地盤にしてしまうこともあるという。
「天然の地盤を掘削するなどして変えてしまうと本来の強度よりも下がったりする場合もある。また、売却や建て替えの際に、打った杭を抜かなくてはならないこともあり、そのコストもかかることがあるので、そうしたトータルなコストを考えるうえからも、きちんと調査することでムダな出費を防ぎます」(山本さん)
「地盤安心マップ」 画面上の地図をクリックすると、標高・地形・地質が表示される
建物があっても調査は可能
これから土地を買って、そこに家やアパートを建てるのであれば、地盤のよいところを選ぶことは容易だ。しかし、すでに土地があり、建物が建っている場合は、その土地の「地歴」を知ることが重要になる。
具体的には、山岳(台地)は古い岩盤が多く、しっかりとした地盤になる。一方、河口や河川のあったところや、その周辺は川の流れによって土砂などが運ばれ堆積した地盤のため軟弱というように、その土地の地盤がどのように形成されたかでその性格が変わる。前述のように固い地盤のところを人が手を加えることで悪くなってしまうといったことがないように、地歴や地盤の性質を知ることが重要となる。というのも、地震では、同じ地域でも表層地盤や盛り土の有無などさまざまな要因から、揺れ方が違うからだ。
そうした地歴が調べられるのが、同社の微動探査システム「地震eye」というもの。
「これは新しい調査方法で従来のように掘るものではなく、地面の音で地下100メートル近くまで地盤の数字が取れます。これであれば既存の住宅があっても問題なく調査ができます」(山本さん)
「地歴」を知ることが対策につながる
この試験では、どういったことが分かるのだろうか。
「地盤や建物には固有周期というものがあります。例えば、熊本地震では長周期地震動というものが観測され、建物によってはこうした揺れによって倒壊してしまうものもあります。そこでこれをデジタル的に数値化。家の健康診断を行い、耐震工事などに役立てられます」(伊東さん)
また、同社ではこうした調査をもとに構造計算、建物倒壊シミュレーションを取り入れた耐震リフォームを実施。地震災害対策を行った建物に対して、10年間5000万円の地盤補償を付帯した「地盤ロングライフ補償」というものも展開している。
同社ではこれらの調査をセットにしたサービスとして、「3ZERO計画」というものを打ち出している。
1つ目は〈豪雨事故ZERO〉だ。国土交通省や各自治体では地震や洪水に備えたハザードマップが用意されているが、このハザードマップの情報を統合。将来、起こる可能性のある浸水、土砂崩れを見極めるという。
2つ目は〈震災事故ZERO〉。これは地盤の「微動探査」を行い地盤の揺れやすさを見極める。
そして、3つ目は〈不同沈下事故ZERO〉だ。 「不同沈下」とは、建物が斜めになるなど不揃いに沈下を起こすことで、これを一定の荷重がかかったときにどの程度沈下するかを数値データにする「SWS試験」を行うことで地盤の強度を掴み、地盤の弱さや液状化を防ぐ手だてを考える。
駅から遠いほど地盤は安心・安全
こうした「地盤の対策を行うことで、賃貸住宅の安心・安全をアピールすることができる」と山本さんはこう話す。
「実は駅の近くというのは、地盤がよくないところが多く、逆に駅から離れていくほど地盤がよいところが多いのです。ですから、駅から離れた物件では、地盤の調査をしたうえで、そうした安心・安全をアピールすることができます。とくにお子さんやお年寄りがいる家庭には、こうした安心・安全を重視するので、訴求力になるのではないでしょうか」
また、コロナ禍だからこそ地盤のよさをアピールできるという。
「テレワークが進み都心から郊外に転出する人が増えています。そこで郊外の地盤のよいところが注目されます。都心でもよいところはありますが、標高で見ると都心は30メートルがMAXになります。都心から離れるほど標高が高くなります。なかでも、地盤から見ると埼玉県は安定していて、所沢で標高60メートル、飯能では100メートルになります」(山本さん)
埼玉県以外でも地盤のよいところには共通点があるという。
「今から50年~60年前に造られた古いゴルフ場があるところは安定しています。その理由は、造成工事が難しいため、平坦なところに作ったからではないかと思います。また、こうしたゴルフ場は高速のインターから近いところも多いのでアクセスの面からも便利なところが多い」(山本さん)
地盤の観点からも見逃せない空き家
さらに大きな社会問題になっている空き家についても、地盤の観点から見ると、見逃せないという。
「古い空き家があったところは、地盤を観点に見ると、価値があるかもしれません。つまり、そこは昔から今まで家が壊れず建っていたという証拠。これら古い空き家や寺社などが維持されてきたということは、地盤の健全性が高かったとも言えるでしょう。古い空き家も放置せずに見直してみる価値はあると思います。家は古くなると価値が下がってしまいますが、地盤は古ければ価値が上がってくる。ただし、それに該当するのは、50年以上前の空き家です。直近30年以内に建てられた家は、建設技術力が上がっているため、どんな場所でも家を建てられるようになっているのでこれには当てはまりません」(山本さん)
しかしながら、地盤のよさは、永遠ではないという。
「地盤にも経年劣化というものがあります。周辺の建物、道路や大型施設ができることで変わることがあります。昔は周りには何もない一軒家だった周辺に、たくさんの家が建つことでも変わります」(山本さん)
何年かに一度は自分の持つ物件の地盤を確認することが必要ということだろう。まずは、無料でできる「地盤カルテ」で確認してみてはどうだろうか。
この記事を書いた人
編集者・ライター
週刊、月刊誌の編集記者、出版社勤務を経てフリーランスに。経済・事件・ビジネス、またファイナンシャルプランナーの知識を生かし、年金や保険など幅広いジャンルで編集ライターとして雑誌などでの執筆活動、出版プロデュースなどを行っている。