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「コロナ禍モード」を脱せない商業地が東京と大阪に集中――国交省の地価LOOKレポート

朝倉 継道朝倉 継道

2021/09/06

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撮影/編集部

日本人千年のテーマ「土地」

国土交通省の地価LOOKレポート(主要都市の高度利用地地価動向報告)令和3年第2四半期分(2021年4月1日~7月1日)が、この8月20日に公表されている。新型コロナウイルスの感染拡大による、いわゆるコロナ禍以降のものとしては今回が5度目のリリースとなる。いくつか注目される内容をピックアップしていきたい。

ところで、はるか平安時代の途中、世の中が武士の時代に移り変わるとともに日本では土地が人々に“解放”された。以来、土地は石高などと名を変えて日本人のもつ資産の基本単位となった。さらに近代以降、土地は金融と産業と人口をささえる巨大な地盤となった。いわゆるバブルの時代には日本の土地の価値を踏み台にしてマネーが世界中にあふれ出た。世界史の中で日本という国がある種の大きな傷あとを残せた背景には、日本の土地という千年の後ろ盾がたしかに存在していたといっていい。

そんな日本における「土地の時代」がいつまで続くのかはわからないが、土地の価値がどうであるかは日本人にとってはつねに興味深い重要なテーマとして、いまのところ存在し続けている。地価LOOKレポートは公示地価、路線価、基準地価のいわゆる3大公的地価調査に次ぐ第4の指標として、他の3者にはない年4度の頻繁な更新をもって、われわれに日本の土地の価値にかかわる方向性を指し示してくれているものだ。

「住高商低」が続く大都市部地価動向

今回の地価LOOKレポートでは前回分(2021年1月1日~4月1日)に続いて、「住高商低」といえる状況が持続している。住宅系地区では上昇が24地区(前回18)、横ばいが8地区(前回14)、下落は0地区(前回0)となった。このうち変動率区分が上方に移行したのは6地区、下方に移行したのは0地区となっている。すなわち、住宅系地区においては、地価が下落したと評価されるエリアはない。令和2年第2四半期(2020年4月1日~7月1日)における下落5地区、翌第3四半期における下落6地区といった“コロナ禍モード”ともいえる状態はすでに脱し、住宅系地区においては、このままの様子が続けば間もなくコロナ禍以前の状況を取り戻す雰囲気も感じられる。

一方、商業系地区では上昇が11地区(前回10)、横ばいが28地区(前回31)、下落が29地区(前回27)で、下落が前回よりも増している。さらに、変動率区分が上方に移行した地区は6地区、下方に移行した地区は4地区ということで、これを前回分と比べると「上方移行」で9地区の減、「下方移行」で2地区の増となっている。すなわち、コロナの影響から早々に抜け出しつつあるかのように見える住宅系地区に比べ、商業系地区の回復は難航中といえるのが現状だ。

商業系地区下落の特徴

いま述べた、商業系地区の難航については、ひとつの特徴を挙げることができる。それは、回復ままならず足踏みを続ける東京・大阪の2大都市圏と、他の大都市圏との間のコントラストだ。データを抜粋していこう。〇が上昇、△が横ばい、×が下落とし、前回分(令和3年第1四半期)と今回分(同第2四半期)のデータを並べていく。まずは「他の大都市圏」だ。

「他の大都市圏」(札幌・仙台・名古屋・広島・福岡)

出典/国土交通省「地価LOOKレポート」を基に著者作成

このとおり、東京圏、大阪圏以外の他の大都市圏では、前回・今回にわたり、下落の「×」はひとつも出てこない。10地区中、5地区が「〇〇」の連続上昇、5地区が「△△」の連続横ばいとなっている。

では次に、東京圏と大阪圏のうち、東京圏の状況を示そう。なお、先に記すと「他の大都市圏」では見られなかった下落の「×」が、こちらではどっと出てくる。特に東京の区部に「×」は集中しており、都心ほどに地価の沈み込みが重い様子を要は示している。

「東京圏」(埼玉・千葉・東京・神奈川)

出典/国土交通省「地価LOOKレポート」を基に著者作成

次に、大阪圏だ。こちらも東京圏での区部の状況同様、下落の「×」がほぼ大阪市内に集中している。まさに都心が沈んでなかなか浮かび上がらないかたちを呈している。

「大阪圏」(京都・大阪・兵庫)

出典/国土交通省「地価LOOKレポート」を基に著者作成

このとおり、日本の大都市部地価におけるコロナ・ショックの(いまのところの)爪あとについては、その様子がかなりはっきりしてきたといえるだろう。

すなわち、地方の大都市部よりも東京圏・大阪圏、東京圏・大阪圏の中でもより都心部と、商業地区としての集積度が高いエリアになればなるほど影響が大きかった事実が示されている。

今後が注目される都心オフィスの動向

さて、こうした商業系地区における「住高商低」「都心の沈み込み」といった状況の中、3つのエリアに注目してみたい。

東京都の「千代田区丸の内」「千代田区有楽町・日比谷」「中央区八重洲」だ。隣接する都心の3地区となる。前回の地価LOOKレポートではいずれも評価が「横ばい」だったところ、今回分では枝の先がポキリと折れたように「下落」となっている。前述した「商業系地区で、変動率区分が下方に移行した4地区」のうち3つは、これらが占めていることとなる。

主な要因はオフィスだ。3地区ともに、今回の評価においてはオフィス需要の弱含みが地価の下落傾向を招いている旨指摘がされている。なお、同じような見方は、同じく都心の“連続下落組”である、六本木や渋谷などにも見られるところとなっている。

オフィス市場は、今回のコロナ禍によって最もフェーズの変化した不動産マーケットである可能性が高い。すべての企業や労働者に対しての割合をいえば、多分多いとはいえないが、リモートワークを成功させたり、あるいはその継続にメドをつけられたりした企業は、そうした体制を今後も維持、または進展させていくであろう蓋然性を持つ。

なぜならば、そのワケは単純でコロナ禍のもとリモートワークが上手く回った職場や会社というのは、とりもなおさず、そもそもがリモートワーク向きの仕事をしていた職場や会社であるからだ。

こうした存在にあっては、コロナ禍が将来過ぎ去ったあともおそらく後戻りはせず、彼らがオフィスへのコストを削る分だけ、オフィス需要も削られる。当然、それは地価にも影響を与えていくことになるだろう。 

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この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

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