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小説に学ぶ相続争い『女系家族』②――財産を次の代に引き継ぐ、相続を考えるタイミング(2/4ページ)

谷口 亨谷口 亨

2021/08/20

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実は不平を言い出した長女が一番得をしていた?


イメージ/©wisitporn・123RF 

小説の中で藤代さんが主張するように、店の経営権や骨董品は評価額が一定ではないため、完全に平等に分けるのは難しいものです。そのため評価基準が定まっている不動産を相続する藤代さんの相続税を考えると〈総領娘の姉が一番損な相続をするのは、納得がいきまへん〉と不満を口にするのも理解できます。

しかし、それぞれの相続財産の内容をよく見ると嘉蔵さんは、3人それぞれの立場に合わせて分配したようにも考えられます。

長女の藤代さんが相続した不動産は、土地とそれに付随する貸家50軒です。昭和30年代の相続税評価や相続税の軽減措置は定かではありませんが、現代に置き換えると、こうした借地、借家は節税効果につながる評価減制度があります。

加えて、藤代さんは離婚をして、実家に戻っています。これから先、再婚する可能性もありますが、1回目の結婚では姑との関係から3年で離婚したことを考えると、再婚してもうまくいくかは分かりません。将来、一人で生きていくことも考えられます。

とはいえ、老舗のお嬢さま、しかも総領娘としてわがまま放題に育てられた藤代さんが外に出て働くことは厳しいでしょう。

そこで生活に困らないようにするには、賃貸収入のある不動産がもっとも適した相続財産と言えるでしょう。それに加えて、次女の千寿さんのところから、利益が出ている限りその一部を受け取れるわけですから。

次女の千寿さんは、藤代さんが他家に嫁いだことで、養子を迎えたわけですから、店の営業権を相続するのは当然のことでしょう。その財産を増やせるかは婿養子の良吉さん次第です。

とはいえ、利益の6分の2は藤代さん、雛子さんに渡さなければならないのですから、なかなか厳しい内容です。

三女の雛子さんは、まだ独身で自由に暮らしています。嘉蔵さんとしては上の2人の姉に対しては(藤代さんは離婚してしまいましたが)、しっかりと婚礼道具を整えました。しかし、雛子さんにはそれをしていない。そこで骨董品と株という換金のしやすい財産を相続させたのではないか思います。とはいえ、相続財産はおおよそ3分の1ずつになっているわけですから、ある意味、上の2人に比べ婚礼道具分が少ないといえるでしょう。

現代の相続では特別受益(婚姻や生計の資本等として生前贈与や遺贈を受けているときの利益)にあたると判断されると、遺留分算定の基礎財産となるため、雛子さんはその分を多くもらってもおかしくはありません。亡くなったときからさかのぼって「3年以内」の贈与は相続財産に加算されるので、藤代さんは3年で離婚とあり、千寿さんの結婚は3年以内なので、厳密にいうのであれば、この分を差し引かれることになります。

つまり、現代の相続で考えると、藤代さんの相続分が一番多くなっていることになるのです。しかも、不動産はその後の値上がりも期待できます。このように相続の際は単にそのときの評価額だけでなく、その内容をじっくりと考える必要があります。

このことを藤代さんが気付けば、矢島家で相続争いは起きなかったかもしれません。

しかし、こうした思いや事情は、嘉蔵さんの遺言状に書かれてはいません。あくまでも3人の相続はおおよそ3分の1ずつにした内容です。そして、すでに嘉蔵さんは亡くなっているわけですから、その意図を聞くことも叶いません。

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この記事を書いた人

弁護士

一橋大学法学部卒。1985年に弁護士資格取得。現在は新麹町法律事務所のパートナー弁護士として、家族問題、認知症、相続問題など幅広い分野を担当。2015年12月からNPO終活支援センター千葉の理事として活動を始めるとともに「家族信託」についての案件を多数手がけている。

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