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牧野知弘の「どうなる!? おらが日本」#21 コロナ禍と東京五輪開催に翻弄される『HARUMI FLAG』の行方(2/2ページ)

牧野 知弘牧野 知弘

2021/04/21

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結論は「もう振り回されることはやめてしまおう」

現在、国民の大半が東京五輪の中止または再延期を望んでいるという。でも国はなんとしても開催の方向に舵を切ろうとしており、すでに聖火ランナーを走らせるに至っている。五輪に振り回されているHARUMI FLAGだが、一向に先が見えない視界不良のなか、どうしていけばよいのだろうか。結論は「もう振り回されることはやめてしまおう」というものだ。

まず、五輪が中止となれば話は簡単だ。今すぐリニューアル工事にかかることしかない。従来、2年半をかけて間取りの変更、内装などのやり替えを行うことを予定してきたが、選手村として使われないのだから片付けもなく、多少工期を早めることができるかもしれない。

最速でかかれば23年の夏くらいまでに引き渡せる可能性がある。ただしオリンピックレガシーとしての価値はなくなり、勝どきの駅からめちゃくちゃ遠い海辺のマンションという、あまり冴えない物件となってしまいそうだ。なにせ勝どき駅周辺には徒歩圏内に既にたくさんのタワマン群がそびえる。その中を歩いて海風吹きすさぶマンションに帰る気持ちはあまり盛り上がりそうにない。まだ残り3000戸以上の住戸を売らなければならないデベロッパー側もまことにご苦労様というしかない。

再延期はどうだろう。また1年後開催ということになれば、引き渡しは当初予定の23年3月から25年3月に遠のくことになる。購入を決断したのは19年。婚約から6年というあまりに遠い結婚式を待つ男女のような気分だ。6年も経てば家族構成も変わる。今はかわいい息子がグレたり、娘は口も利かなくなっているかもしれない。学校だって変わっているかもしれない。6年経てば小学校だって卒業だ。

さらに24年にはパリ五輪があるから、28年のロス五輪の後、つまり32年の開催に廻ろうという意見がある。そうなってはもはや絶望としか言いようがない。今から11年後、マンションはすでに19年に竣工済みであるからリニューアル後の34年入居、つまり築15年のマンションを引き渡されてもワクワクなんてするだろうか、という話になる。これはもう、選手村は別に用意したほうがよいことは言うまでもない。

選手村としての利用を諦めてはどうか

さて、五輪関係者は石に噛り付いてでも五輪を開催したいとのことだが、仮に行うとしても、日本にやってくる選手や競技関係者の数は極端に少ないだろう。すでに海外からの五輪観客の受け入れは行わないことになった。選手村を利用する選手も少なく、おまけにPCR検査実施、外出もままならない、そんな選手村に多くの日本人がワクワクするだろうか。

いっそのこと、もう選手村として利用することを諦めたらどうだろうか。今、少なくとも選手村としての利用をやめて、リニューアル工事に入れば、多少の遅れがあっても23年の引き渡しが大きく遅れることはない。デベロッパーは売りにくくはなるだろうが、もはや「無理くり」で行われた五輪の「選手がいたんだがいなかったんだか分からない」選手村の後のマンションに過度の不動産的価値を期待するのはそれこそ「無理筋」というものだ。もともと土地代はめちゃくちゃ安かったのだ。思い切り安売りしてさっさと売りさばけばよい。

それで、やってくる選手たちはどこに滞在するか、といえば簡単だ。コロナ禍で苦しむ都内のホテル・旅館の部屋を選手、競技関係者たちに利用してもらえばよい。菅さん得意のGo To ホテル&旅館だ。

都内の多くの宿泊施設は長引くコロナ禍で稼働率は10%程度と阿鼻叫喚状態だ。そんな彼らを救うことがGo To だったはず。選手村はさっさとマンション仕様にお化粧直しして早く売り払う、選手たちには弱り切ったホテル・旅館に宿泊してもらう。

海外からの観客が来ないことが決まり、日本人観客だって制限されることになるかもしれない。全館PCR検査体制を万全に整えたうえで、一棟丸ごとお泊りいただければ、日本流の「お・も・て・な・し」の真髄を味わっていただけるはずだ。

これだけのこと、リーダーの意思で決められるはずだ。放置しておけば経済的被害はどんどん拡大する。そして人々は疑心暗鬼となって無理や無駄な闘争が始まる。HARUMI FLAGを早く楽にしてあげようではないか。


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この記事を書いた人

株式会社オフィス・牧野、オラガ総研株式会社 代表取締役

1983年東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て1989年三井不動産入社。数多くの不動産買収、開発、証券化業務を手がけたのち、三井不動産ホテルマネジメントに出向し経営企画、新規開発業務に従事する。2006年日本コマーシャル投資法人執行役員に就任しJ-REIT市場に上場。2009年オフィス・牧野設立、2015年オラガ総研設立、代表取締役に就任。著書に『なぜ、町の不動産屋はつぶれないのか』『空き家問題 ――1000万戸の衝撃』『インバウンドの衝撃』『民泊ビジネス』(いずれも祥伝社新書)、『実家の「空き家問題」をズバリ解決する本』(PHP研究所)、『2040年全ビジネスモデル消滅』(文春新書)、『マイホーム価値革命』(NHK出版新書)『街間格差』(中公新書ラクレ)等がある。テレビ、新聞等メディアに多数出演。

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