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終わりが見えてきたスルガ銀行不正融資事件 ――濡れ手に粟の黒幕と仲介業者はいまだ野放し

大谷 昭二大谷 昭二

2020/10/28

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撮影/編集部

かぼちゃの馬車事件のその後

かぼちゃの馬車事件に端を発して明らかになったスルガ銀行の文書改ざんなどによる不正融資事件は、発覚から2年半が経とうとしている。

この事件で注目を集めたのがスルガ銀行社員による告発文書で、第三者委員会による調査報告にも、繰り返し浮上してくる人物が、このシェアハウス投資の黒幕と言われる佐藤太治氏という人物。佐藤氏は事件発覚前に、かぼちゃの馬車運営会社であるスマートデイズ(スマートライフ)を売り抜けており、その後はかぼちゃの馬車のスキームを活用して民泊ビジネスに乗り出したなどの噂はあったが、現在はその行方が分かっていない。

スマートデイズは、かつて東京都中央区銀座に本社を置いていた不動産会社で、女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」のほか男性向けシェアハウス「ステップクラウド」のサブリース事業などを展開していた。

Wikipediaによると、その沿革は、2012年8月、資本金300万円で設立。13年7月、資本金を950万円に増資。14年5月、資本金を5000万円に増資し、「かぼちゃの馬車」ブランド事業を開始する。15年7月、有料職業紹介事業登録し、資本金を1億円に増資。16年5月には「ステップクラウド」「キャン泊」ブランド事業を、17年3月には「LIRY」ブランド事業を発表。同年8月、株式会社オーシャナイズと資本業務提携契約を締結し、資本準備金含む資本金を21億円に増資、旅館業を開始した。同年10月2日、株式会社スマートライフから名称をスマートデイズに商号変更と、ここまでは順調に推移する。

しかし、18年になると一転、4月9 日、東京地方裁判所に民事再生法の適用を申請、監督命令を受ける。負債総額はおよそ60億3523万円。その後、4月18日、民事再生法の申請が棄却され、保全管理命令を受けたものの、5月15日に破産手続開始決定を受けた。

これにともなって、関連会社の株式会社ステップライフも6月20日に東京地方裁判所から破産手続開始決定を受け会社は消滅した。

 

 

不正融資は7813件 金額は約5500億円

こうした一連の流れの中でもっとも大きな問題になったのが、スルガ銀行の書類改ざんなどによる不正融資だ。この不正融資がなければ、被害がここまで広範囲にはならなかった。一連の不正融資が発覚したスルガ銀行では第三者委員会を立ち上げ調査に着手。19年5月にその調査報告書が発表された。

スルガ銀行の不正融資実態

出典/2019年5月 スルガ銀行調査報告書

それによると1棟アパート・マンション、区分マンションなど、シェアハウス以外の融資案件は3万6260件。そのうち6927件に不正が認められ、シェアハウスの不正886件を加えると、合わせて7813件にも及ぶ不正融資が行われていたことが明らかになっている。

その内容は、自己資金に関する不正が最も多く5183件、続いて売買契約関係が3839件、自己収入に関するものが360件と、複数の不正行為が行われたことが分かる。

「改ざん・偽造等の不正が認められた案件」を債権額ベースでみると、シェアハウス案件で1110億4100万円。シェアハウス以外では4427億2700万円。合わせると5537億6800万円にものぼる。また、「改ざん・偽造等の不正の疑いがある案件」の債権額はシェアハウス案件で83億800万円、シェアハウス以外では781億1600万円になっている。つまり、返済されない可能性のある融資額は合計で864億2400万円にもなる。

この一連の不正融資については、すでに貸倒引当金を積み上げており、残されているのは被害者との代物弁済のスキームを前提にした和解だけになっている。

 

 

書類改ざんに二重契約の水増し

こうした不正融資はどのようにして行われたのか。

現場責任者や融資担当者の証言によると、偽装指示のほとんどは電話で行われ、メールでのやりとりはほぼなく、あっても1行程度のものだったようだ。また、電話でのやりとりも、行内の電話は録音されていたようで、極めて慎重な言い回しで、行われていたという。

販売会社の社員の証言によると、具体的な言い回しは「他の通帳は持っていますか…」「お金を用意できませんかね…」「何とかできませんか…」「連帯保証人(連保)を付けられませんか…」というもので、このようなフレーズがあると、偽装書類・通帳を作成せよなどの指示の意味になっており、スルガの希望する内容の融資申請書類を、特定の人物に発注したようだ。

一方、スルガ銀行においては、自己資金確認資料(通帳等)については、原本確認を行うべきこととなっていたにもかかわらずその手続きを省略。また、インターネットバンキングについては、入出金明細の確認も Web画面を印刷したものが確認書類として出されていた。

こうした不正融資の問題点は、単に融資ができない人の与信を補強するだけでなく、本来受けることのできる金額より多額の融資をしたということもある。そして、水増しした融資から、販社、仲介業が資金を抜いていたことも分かっている。

その手口は通帳の改ざんや二重契約だ。

二重売買契約書では、売買代金額を水増しした「銀行提出用」の売買契約書が作られていた事案も相当数存在している。具体的には、販売業者と顧客との間で、スルガ銀行に提出される売買契約書(銀行用)と販売業者と顧客との間の実際の売買契約(実際)という2種類の契約を締結。スルガ銀行には「銀行用」の契約書を提出。一方、顧客と販売業者間の「実際」の契約は、「銀行用」の契約に対する「変更契約」の締結という形にしたり、別途の売買契約の締結という形が取られていた。その際、「実際」の契約と「銀行用」の契約は同日付を若干ずらすなどの細工も行われていた。

こうした不正融資では、スマートデイズとゼノン住販という会社が密接に関係している。

このゼノン住販という会社はその他の販社のまとめ役で、各社から偽装書類作成などの相談を受けていたようだ。スルガ銀行にも問題があって、その時々の支店長の方針で、通帳はコピーでもよくなったり、認められなくなったりと方針が変わった。しかしながら、スルガ銀行とゼノン住販との関係は強固で、この2社間でさまざまなやりとりが行われていた。

 

 

物件価格の水増し 預金の引き出し

こうした一連の不正融資の背後にある大きな問題点は、仲介業者たちが介入することによってその都度、物件の価格が跳ね上がっていくということだ。それに活用されたのが「新中間省略登記」と呼ばれるもの。

新中間省略登記は、地主が仲介の不動産業者に土地を売り、投資家に転売する際、地主から不動産業者に売った際の登記を省略し、地主から投資家に直接移転したようにできる登記のやり方だ。本来は仲介業者も登記すべきだが、これまではこれを省略する商習慣があった。そのため登記簿上は、この不動産業者は出てこないが、こうした途中に入る不動産業者などは「三為業者」と呼ばれ、こうした取引では彼らに手数料が支払われ、その取り分は20~30%と相場より高くなっていた。

さらにこうした仲介者を複数介入させたものもあり、中には「五為業者」と、途中に3者が仲介したことになったものまであり、元値4700万円の土地が、最終的には7980万円で売却された案件も判明している。

しかも、その取引確認書類には、オーナーのサインがあったのだが、このサイン自体が偽造されたものだった。

このケースでは7980万円の融資の実行後に約8400万円が知らない間に引き出されていた。その分は経費と手数料という扱いで、被害者の多くは、金額が空欄になった引き出し伝票に名前と日付だけを書かされており、銀行は販売会社からの指示通りに預金の引き出しを行ったという。しかも、過剰融資を受けたぶんから200万円ほどがスルガ銀の定期預金としてきっちりと組み込まれていた。

もう1つ預金が勝手に引き出されたという事案としては、物件を購入したオーナーは土地代として約9800万円の融資を受けたが、その後、約1億円が無断で引き出されていたというものだ。この土地代プラスアルファのお金がどこに消えたのかは、通帳の出金先が空欄なので分からないという。

2000万円偽造されたオーナーの銀行通帳

左/銀行から取り寄せた本物の銀行通帳のコピー 右/手元の銀行通帳

 

 

 

東京地裁の勧告 債権譲渡と代物弁済

かぼちゃの馬車事件など、一連の事件でダマされたオーナーたちに向けられる目は厳しいものがあるが、こうした実体を知ることで、オーナーを責められない部分があることも理解いただけるのではないか。

これまで借金だけを背負わされたオーナーたちは、スルガ銀行に次のような責任を認めるよう求めてきた。

1)スルガ銀行の行員が関わった借入申込書の預金通帳や収入証明書類の違法改ざん行為
2)スマートデイズ等のサブリース業者が、仕入れた土地価格に大幅な上乗せをし、シエアハウス建築工事費も実際の工事費に大幅な上乗せをして、スルガ銀行はそれを知りつつ融資して、被害者オーナーに高値づかみさせた行為
3)サブリース業者とスルガ銀行の行員、仲介業者が関連共同して、不当な取得諸経費を上乗せした行為
4)破綻必至のサブリース事業による収入保証を信じ込ませて借入させた行為など

これに対してスルガ銀行は、申立対象のシェアハウス関連融資について、不法行為を構成するとの判断を前提とする東京地方裁判所の調停委員会の調停勧告を受け止め、自らの責任を明確に認めている。

かぼちゃの馬車をはじめとしたスルガ銀行の一連の不正融資事件は、2年半ほどの時を経て、収束に向けて動き出した。

しかしながら、解決に向かっているのはスルガ銀行による不正融資についてだけであって、一連の黒幕とされる佐藤太治氏や、一連の取り引きに関係した販社、仲介業者、建設業者などは野放しのままだ。今後、かぼちゃの馬車をはじめとした一連の不正融資によって引き出された金の流れ、関係者、業者などに対して法的責任を問えるかが注目される。





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この記事を書いた人

NPO法人日本住宅性能検査協会理事長、一般社団法人空き家流通促進機構会長 元仲裁ADR法学会理事

1948年広島県生まれ。住宅をめぐるトラブル解決を図るNPO法人日本住宅性能検査協会を2004年に設立。サブリース契約、敷金・保証金など契約問題や被害者団体からの相談を受け、関係官庁や関連企業との交渉、話し合いなどを行っている。

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