『ミッドウェイ』/第二次世界大戦のターニングポイントを新たな視点で描いた注目作
兵頭頼明
2020/09/01
Midway (c)2019 Midway Island Productions, LLC All Rights Reserved.
第二次世界大戦でターニングポイントとなった激戦と言えば、日本とアメリカが激突したミッドウェイ海戦であろう。本作はこれまで映画やドラマで何度も映像化されてきたミッドウェイ海戦を、新しい視点から描いた作品である。
1941年12月7日(日本時間12月8日)、ハワイ諸島北西のパール・ハーバー<真珠湾>に停泊していたアメリカ海軍の艦隊が、日本軍の艦上機部隊に急襲された。戦争の早期終結を目指す連合艦隊司令官・山本五十六大将(豊川悦司)の命を受け、南雲忠一中将(國村隼)や山口多聞少将(浅野忠信)らが率いる空母機動部隊が真珠湾攻撃を決行したのであった。
この攻撃によりアメリカ海軍は大打撃を受け、新たな指揮官としてニミッツ大将(ウディ・ハレルソン)を立てる。真珠湾攻撃の反省から、ニミッツは敵の思考を読むことが最重要課題と考え、着任早々、情報将校のレイトン中佐(パトリック・ウイルソン)を呼び、山本の考えを読み、次の動きが分かり次第報告するよう命じる。
一進一退の攻防が続く中、秘かに情報戦に力を注いでゆくアメリカ。その結果、レイトン率いる戦闘情報班は日本の暗号の解読に成功し、日本の次なる目的地がミッドウェイであることを突き止める。
1942年6月4日(日本時間6月5日)、日本の艦上機隊がミッドウェイに向けて出撃し、攻撃を開始。一方、アメリカの空母エンタープライズからも艦上機隊が出撃し、海中では潜水艦が待ち伏せを仕掛ける。日米両軍が総力を結集したミッドウェイ海戦が始まった。
監督は『インデペンデンス・デイ』(96)『GODZILLA ゴジラ』(98)『ホワイトハウス・ダウン』(13)『インデペンデンス・デイ:リサージェンス』(16)等の大作で知られるローランド・エメリッヒ。本作もスペクタクルシーン満載で、パイロット役のエド・スクラインやアーロン・エッカート、空母エンタープライズ指揮官に扮するデニス・クエイドら渋めのスターに見せ場を設けているが、実質的な主人公は情報将校レイトン少佐を演じたパトリック・ウイルソンだ。
Midway (c)2019 Midway Island Productions, LLC All Rights Reserved.
本作は数多の戦争スペクタクル大作とは異なり、情報戦としてのミッドウェイ海戦を描いたユニークな作品である。ミッドウェイ海戦の勝敗は情報収集能力の差で決まったと言われているが、日本の運命を決めた海戦を情報戦の観点から描いた作品は珍しい。日本が悪役というわけではなく、日米双方の立場を比較的公平に描いている。
日本側の主要キャストにも実力派が揃っており、とりわけ豊川悦司の好演が光る。國村隼と浅野忠信には外国映画への出演経験があるが、豊川は初めてだ。初の外国映画出演で、しかも山本五十六を演じるという大役に抜擢されたわけだが、豊川に不安はなかったのではないか。
というのも、かつて豊川は得難い経験をしているからである。彼は1995年7月にテレビドラマ『愛していると言ってくれ』でブレイクする直前、FBI捜査官と日本人ヤクザの逃走を描いた映画『逃走遊戯/NO WAY BACK』(95)に出演しているのだ。
日米合作と謳われたこの作品は、東映ビデオが主体となって製作された実質的な日本映画であるが、アメリカで長期ロケを敢行しており、同社の作品としては<大作>であった。しかも、豊川の相手役としてFBI捜査官を演じた俳優が、後に『グラディエーター』(00)でアカデミー賞主演男優賞に輝くラッセル・クロウなのだ。当時、オーストラリアで名を成していたクロウだが、本国以外ではまだ無名の存在。彼がオーストラリアからハリウッドに拠点を移す前に成立した奇跡のキャスティングであった。豊川にとってクロウとの共演、そして長期の海外ロケは財産となり、本作『ミッドウェイ』の撮影に大いに役立ったに違いない。
渡辺謙や真田広之が海外で活躍し始めたころ、次は豊川悦司だと確信したファンは多かったはずだ。今回ようやく豊川の海外映画進出が実現したことを嬉しく思う。最近、ハリウッドにおけるアジア系俳優の活躍が増えているが、日本人俳優の出番はまだまだ少ないように思う。もちろん、作品の題材次第だが、本作を機に再び日本人俳優への注目が集まり、日本人俳優起用の機運が高まることを願ってやまない。
『ミッドウェイ』
監督・製作:ローランド・エメリッヒ
脚本:ウェス・トゥーク
製作:ハラルド・クローサー
出演:エド・スクライン/パトリック・ウィルソン/ルーク・エヴァンス/アーロン・エッカート/豊川悦司/浅野忠信/國村隼/マンディ・ムーア/デニス・クエイド/ウディ・ハレルソン
配給:キノフィルムズ/木下グループ
2020年9月11日よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
公式HP/http://midway-movie.jp/
公式YouTube:https://www.youtube.com/user/kinofilmsweb
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この記事を書いた人
映画評論家
1961年、宮崎県出身。早稲田大学政経学部卒業後、ニッポン放送に入社。日本映画ペンクラブ会員。2006年から映画専門誌『日本映画navi』(産経新聞出版)にコラム「兵頭頼明のこだわり指定席」を連載中。