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『Fukushima 50』(フクシマフィフティ)

パニック、サスペンス映画のように仕上げられたノンフィクション・ドラマ(2/2ページ)

兵頭頼明兵頭頼明

2020/03/04

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地震発生から大津波の描写はさながらパニック映画。その後、発生する数々の事象はサスペンス映画の手法だ。

原発内電源の喪失、原子炉冷却水の減少、原子炉の圧力上昇と、事態は刻一刻と変化してゆき、現場の職員たちは対応に追われる。若松は彼らの姿を生々しく、そして臨場感たっぷりに描いてゆく。

(C)2020『Fukushima 50』製作委員会

吉田と伊崎がトイレで顔を合わせ、タバコで一服するシーンがある。二人とも不眠不休で働き続け、疲労困憊だ。極度の疲労が原因で、尿は血で真っ赤に染まっている。そこで伊崎は「俺たちは何を間違ってしまったんだ」と問い、吉田は答えに窮してしまう。

それでも吉田は本店からの無謀な指令に声を荒げ、刻々と変わってゆく状況に対応し、苦渋の決断を繰り返す。伊崎をはじめ現場の職員は文字通り体を張って事態収拾に努めてゆく。



いずれの技術者も作業員も責任ある当事者として描かれており、彼らの行動は実に頼もしい。必然的に東電本店は当事者意識がまるでない悪役、事故発生後10数時間を経て漸く現場視察を行う当時の内閣総理大臣は単なる邪魔者として描かれる。

本店と支店、ダメな上司とデキる部下、現場を知らない管理職と叩き上げの現場職員。そのような単純な描き分けを受け入れられるか否かで本作の評価は変わってくるだろう。ただ、あの時、原発内に残り戦い続けた50人を称えることに異議はないはずだ。事故の拡大を防ぐため決死の覚悟で行動した現場作業員には、ただただ感謝しかない。極限の状況下で行動する彼らの姿に、胸が熱くなる。

あの日の記憶を風化させてはならない。


『Fukushima 50』
監督:若松節朗
脚本:前川洋一
出演:佐藤浩市/渡辺謙/吉岡秀隆/緒形直人/火野正平/平田満/萩原聖人/吉岡里帆/斎藤工/富田靖子/佐野史郎/安田成美
配給 :松竹、KADOKAWA
公式HP:https://www.fukushima50.jp/
(C)2020『Fukushima 50』製作委員会

 
 
 
 
 
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この記事を書いた人

映画評論家

1961年、宮崎県出身。早稲田大学政経学部卒業後、ニッポン放送に入社。日本映画ペンクラブ会員。2006年から映画専門誌『日本映画navi』(産経新聞出版)にコラム「兵頭頼明のこだわり指定席」を連載中。

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