中古住宅がブームのいま、家を売ると大損する3つの理由
ウチコミ!タイムズ編集部
2016/11/22
いま、リノベ物件が人気を集めている
最近ちょっとしたブームになっているのが、いわゆるリノベーション物件(リノベ物件)。中古ながら、おしゃれでデザイン性の高いリノベ物件は、価格が新築より2〜4割も安いとあって、若年層を中心に人気を集めています(ちなみに、リノベーションはリフォームの一種で、中古住宅に新築時以上の性能を持たせて改修することをいいます)。
こうしたブームを背景に、不動産市場ではいま、中古住宅への関心が高まっています。家の売却を考えている人には有利な環境が整いつつあるように思えますが、本当にそうなのでしょうか。
実は、リノベ物件ブームのいまだからこそ、個人が家を売ると、思わぬ大損をしてしまう可能性があるといえるのです。一体どういうことなのか、順を追ってご説明しましょう。
不動産取引の流れを見てみよう
(図1)一般的な不動産取引の流れ
まず、不動産取引の流れについてご説明しましょう。中古住宅が売買されるケースに沿ってお話ししていきます。
Aさんは大手不動産会社のS不動産に売却の仲介を依頼し、自宅を売りに出しました。その情報は、S不動産によって「レインズ」に登録されます。レインズとは、不動産会社が物件情報を共有するためのネットワーク・システムです。
Aさんの物件情報は、レインズを見たD不動産を通して、Bさんに知らされます。物件を見たBさんが、購入することを決めれば、無事に売買契約が締結されます(図1参照)。
この取引を仲介したS不動産会社にはAさんから、D不動産にはBさんから、それぞれ仲介手数料が支払われます。
このケースのように、不動産会社が売り主または買い主のどちらか一方から仲介手数料を受け取る取引は、不動産業界では「片手取引」または「片手」と呼ばれています。
一方、不動産業界には、「両手取引」(両手)と呼ばれる取引も存在します。両手取引とは、1社の不動産会社が、売り主と買い主の双方の仲介を行なうことで、両方から仲介手数料を受け取る取引です。両手取引で得られる手数料は、片手取引の2倍になりますから、不動産会社のなかには、両手取引を狙う会社があるのです。
売り主はできるだけ高く売りたいと考え、買い主はできるだけ安く買いたいと考えるため、当然、双方の利益は相反します。そのため、近年では両手取引の存在がメディアで報道され、大きな批判を浴びました。
しかし問題はそれだけではありません。両手取引を実現させるために、不動産会社の行なう「囲い込み」と呼ばれる行為が、売り主の利益を大きく損なうものだといえるのです(図2参照)。
(参考記事)
業界内で当たり前に行なわれている「囲い込み」の実態
(図2)「囲い込み」で両手取引に持ち込むのが狙い
囲い込みとは、物件の売却を依頼された不動産会社が、他社からのコンタクトをすべて遮断してしまう行為のことです。先ほどのケースで説明すれば、Aさんの自宅売却を依頼されたS不動産が、他社から問い合わせがあっても「いま商談中です」と言って断ってしまう行為になります。
なぜ囲い込みをするかといえば、囲い込みしている間に、その不動産会社が単独で買い主を見つけることができれば、両手取引を実現できるからです。囲い込みがどんなものなのかは、別の記事(「業界の裏を知る私が教える、不動産一括査定の賢い使い方」 http://sumai-u.com/?p=7510 )にも詳しくまとめてありますので、参考になさってください。
(参考記事)
「業界の裏を知る私が教える、不動産一括査定の賢い使い方」
「『回し物件』として利用された中古物件の末路」
ここまでお話ししただけでも、個人売り主が弱い立場にいることはおわかりいただけたのではないでしょうか。
そこで、個人の売り主が損をしてしまう理由について、さらに詳しくご説明しましょう。
理由(1) そもそも個人の売り主は立場が弱い
(図3)個人売り主は、不動産会社に情報をコントロールされてしまう
リノベ物件ブームに関係なく、実は、不動産取引のなかで最も弱い立場にあるのは個人の売り主です。
そもそも不動産会社は、一般の消費者とは比べものにならないほどの情報とノウハウを持っています。しかも、個人の売り主は、自分が売りに出している物件にどんな問い合わせがあったのかさえ、不動産会社を通じてしか知る術がありません。知らされる情報は、すべて不動産会社にコントロールされてしまっているといっても過言ではないでしょう(図3参照)。
本当は買い手からの問い合わせが多数あったとしても、もしも、すべて不動産会社にシャットアウトされ、「まったく問い合わせが来ないので値下げしましょう」と言われたら、それを信じてしまっても何の不思議もないでしょう。
そのため、いつの間にか不動産流通市場から除外されて、良い買い手がつくチャンスを奪われてしまうことさえあり得ます。
もちろん、不動産会社が必ずそういったことをするわけではありません。ただ、残念ながら一部の不動産会社の間ではそうしたことが行なわれているということを知っておいていただきたいのです。
こうした事態は、後ほど触れるように不動産会社との契約を選ぶことで回避できますが、不動産会社の手の内を知らなければ、彼らの都合のいいように利用されてしまうことにもなりかねないといえるでしょう。
理由(2) 買い取りに誘導されてしまう
(図4)買い取りに誘導する狙いは、両手取引を2回成立させること
個人が家を売ると大損するふたつ目の理由は、専門業者による買い取りに誘導されてしまうケースがあるからです。
中古住宅の売買取引は、個人売り主から個人買い主へと売却されるケースのほか、買い取りといって不動産会社が購入するケースがあります。実は、昨今のリノベ物件ブームには、買い取り専門業者が、個人売り主から中古住宅を安く購入し、それをリノベーションして利益を乗せて売るというビジネスモデルを確立させたという背景があります。
買い取り業者の買取価格は、相場の6割程度といわれています。もしも囲い込みに遭った上に、買い取りに誘導されてしまったら、個人の売り主にとって、それほど悲惨なことはありません。
不動産仲介業者にとっても、こうしたリノベ物件ビジネスは儲けの大きいビジネスになっています。なぜなら、中古住宅は個人の買い主ではなく、買い取り業者に売ったほうが儲かるからです。
たとえば、S不動産が「囲い込み」したAさんの物件を自社で見つけた買い主に売った場合、Aさんと買い主の双方から仲介手数料を受け取る(両手取引)ことができますが、ビジネスとしてはそれで終わりです。
ところが、Aさんの物件を買い取り業者Z社に売却した場合、S不動産は、Aさんの物件で2度の両手取引を実現できるのです(図4)。
なぜそんなことができるかといえば、Z社にAさんの物件を売却する際、「再販売の仲介はS不動産に依頼する」という約束を交わしているケースが実際にあるからです。
つまり、S不動産は1件の売却案件で、2回の両手取引を行ない、片手取引の約4倍の仲介手数料を手にすることになります。
理由(3) リノベ物件に競争力で負けてしまう
個人売主が大損する3つめの理由は、魅力的なリノベ物件が中古不動産市場に数多く出回ることで、自己の所有する中古住宅の商品価値が相対的に下がってしまう可能性があることです。
もちろん、中古住宅を購入して自分が好きなようにリフォームしたいと考えている人もいますから、そういったニーズを持つ買い主とのマッチングが成立すれば問題ありません。
しかし、買い主がそこまでのこだわりを持っていないのであれば、新築同然でデザイン性に優れたリノベ物件と比較されれば、どうしても競争力で負けてしまうでしょう。
しかも、リノベ物件はもともと相場よりも安く買い取られた中古住宅がほとんどですから、中古住宅を買って自分でリフォームするよりも価格的には割安になっているはずです。
そう考えると、個人の売り主はますます不利な弱い立場に追い込まれてもおかしくないといえるでしょう。
それでも家を売りたい場合は…
それでも家を売りたい、売らなければいけない事情がある人もいるでしょう。そうした人はどうすればいいのでしょうか。
ひとつの方法は、もし可能でれば「売却以外の方法」を考えることです。たとえば、家を売却するのではなく、簡単なリフォームを施したうえで「賃貸に出す」という選択肢もあります。立地や法制面などの条件がクリアできれば、外国人旅行者向け民泊施設として活用する手もあるでしょう。
どうしても売却しなければならないのであれば、信頼できる不動産仲介業者を探すしかありません。
不動産会社に売却の仲介を依頼するには「媒介契約」を交わす必要がありますが、「一般媒介契約」を選択すれば、複数の不動産会社に売却依頼することも可能です。
詳しくは、「売却主が不動産会社に利用されないための知恵(住宅売却のポイント)」( http://sumai-u.com/?p=2874 )、もしくは「業界の裏を知る私が教える、不動産一括査定の賢い使い方」( http://sumai-u.com/?p=7510 )をご覧ください。
(参考記事)
「売却主が不動産会社に利用されないための知恵(住宅売却のポイント)」
「業界の裏を知る私が教える、不動産一括査定の賢い使い方」
いずれにしても、リノベ物件ブームで中古住宅への関心が高まっているいまだからこそ、売り急いでしまうと大損をしてしまう可能性が高いといえるでしょう。
繰り返しになりますが、不動産取引において最も立場が弱く、食いものにされやすいのは個人の売り主です。
不動産業界の慣習や、不動産会社の手の内をできるだけ知った上で、大切な資産を守るために、自ら行動していくことが大切なのではないでしょうか。
この記事を書いた人
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