物件を見ずに部屋を決めるのはこれを読んでから――賃貸物件広告の「写真」についての大事な話
朝倉 継道
2021/07/28
イメージ/©︎ferrerivideo・123RF
ネット時代になって増加? 物件を見ずに決める人
インターネットでの賃貸物件探しがスタンダードなかたちになるとともに、なんと、実際に部屋を見ないで決めてしまう大胆な入居希望者が増え始めた。
このことは不動産ポータルサイトによる調査結果や現場の証言などから、最近はかなり知られてきた。そのため、いまはさほど騒がれないが、少し前までは業界でも驚きの話題のひとつだった。
もちろん、それ以前にも例はあった。例えば、入社・入学のために地方から東京などへ引っ越す際、勤務先などから紹介された不動産会社に物件を見繕ってもらう、といったケースがそうだ。
あるいは、環境や住み心地が十分に知れ渡っている有名な物件での“空き待ち&退去発生次第契約”も、昔からよくあった事例だ。
さらに、募集はすでに始まっているものの、部屋ではまだ現入居者が生活中。または、建物が建築中。内見可能となるのは少し先だが、よい物件なので押さえてしまう……。
以上が「物件を見ないで決める」、昔からの主な事例だろう。
しかしながら、特段そういった事情もないのに、それでも事前の内見ナシで、不動産ポータルサイト上の情報だけで入居を決めてしまう人も、いまは少なからず存在するらしい。
「なぜなんだ」と、疑問に思う人も多いはずだが、そのカギはやはり写真だろうと、多くのプロはそう思っている。
インターネット以前、賃貸募集広告に物件の写真が載るということは、実際ほとんどなかった。だが、ネット時代になり、この点が大きく変わった。
「百聞は一見に如かず」というが、写真は現在の賃貸広告において、まさにこの重要な“一見”の役目を果たしている。
そのため、「物件の様子を確かめるには写真で十分」と、そんな風に考えている入居希望者もいまは少なくないようだが、実は……賃貸物件の「写真」については、一般の人があまり知らない落とし穴もある。それをこっそり伝えておこう。
その写真、10年以上も前のものでした
この行為は、「不動産の表示に関する公正競争規約」が定める不当表示にほぼ該当する。なので、本来やってはいけないことだ。それでも、以下に述べるような事情もあって、かなりの常識となっているので気を付けたい。
賃貸物件広告の写真には、「現状を撮ったものではない」ものが実は多いのだ。一体なぜだろう? 理由は簡単だ。それは、募集が始まるタイミングにある。
多くの場合、入居者募集は、現在住んでいる入居者が、管理会社などに退去を告げてから間もなく始まる。ところが、その時点では、現入居者はまだその部屋で生活中だ。当然、空室状態での部屋の撮影はしたくてもできない。
そこで、賃貸住宅オーナーや管理会社、仲介会社は、事前にストックしておいた写真を広告に使う。これらは、かつてその部屋が空室だったときに撮影されたものだ。
すると、入居希望者の立場としては、「えっ!」といった感じだが、これは現状、仕方のない流れというほかない。
よって、少なくないケースで、われわれが見る賃貸募集広告の写真は、実は、現入居者が住み始める直前か、さらにそれ以前のものだ。2年前のものかもしれないし、4年前のものかもしれない。
つまり、いま現在部屋の内部がどんな様子なのかについては、この場合、基本として写真では分からない。そのうえで、考えてみてほしい。
例えば、いま述べたパターンが募集のたびに、幾度も繰り返されていたとすればどうなるだろう?
加えて、いよいよ部屋が空いても、もう広告はこしらえたということで、新たな写真の撮影が行われない状態もそのたび続いたとしたらどうなるだろう?
そうなのだ。築5年、10年、さらにそれ以上と、長い時間が過ぎたあとでも、同じ写真―――ひょっとすると新築時のものが延々流用されているなど、実は結構ある。
そのため、写真で見たイメージのままで物件のドアを開けるや、現状との落差に唖然……!というのは、実際、仲介の仕事などをやっていると年に何度も経験する「あるある」だ。
しかも、そんな状態の物件となると、想像してほしいが、オーナーも管理会社・仲介会社も現時点での写真など、もはや撮る気がしなくなる。
いきおい、「今回もキレイな頃の写真を使っちゃえ!」……と、もちろん全てとは言わないが、それも少なからず実態だ。
写真は「切り取られて」いるものであることに注意
写真は、風景を一定の範囲内で切り取ったものだ。画面の外に外れている景色までは、当然見ることができない。
なので、例えば、物件のキッチンを写真に撮るとして、左右の壁のうち、片方に汚れが目立つとする。
すると、撮影するのがオーナー自身だろうが、管理・仲介会社のスタッフだろうが、その部分が画面に入らないようにカメラを構えるのは、やはり人情というものだ。
ベランダの風景など、特にそうなりやすい。例えば、視界の半分が隣の建物に塞がれているような場合でも、カメラの角度を工夫すれば、状況は簡単に隠すことができる。「柵の向こうは墓地」などという場合も、やはり同様だ。
さらには、利用マナーのよくない駐輪場の自転車を整列させたり、ゴミ置き場に放置された分別違反ゴミをほかに移動させたりしての撮影など、普通に行われるが、写真を見て物件を選ぶ側にとっては、これらは重要なマイナス情報の秘匿であるにほかならない。
加えて、当たり前のことだが、写真からは「音」と「におい」は伝わって来ない。
物件前面を走る道路がたとえ騒音の激しい幹線道路であっても、換気扇内部の掃除がサボられているため、部屋の中が異臭で厳しい状態になっていても、それらは写真からはまったく判別不可能だ。
行ってみたら「写真よりキレイだった!」もたまにある
さらにこのケース。意外にある。さきほどの「広告に古い写真が使われている」場合で、たまに面白いことが起きていたりする。
なんと、実際に部屋に行ってみると、写真よりもずっとキレイ!だという、そんなケースだ。なぜだろう。理由はこうだ。
1.前入居者からの退去の告知後、古い写真で広告を作成、募集を開始
2.退去後、部屋をリフォーム
3.部屋はすっかりキレイになったが、再撮影、広告の差し替えが行われていない
そんな順番だ。ちなみに、こうした状態にオーナーが気づくと、広告を作っている管理会社や仲介会社は、「何やってんだ」と、当然叱られることになる。
とはいえ、自ら不動産ポータルサイトを覗き、自身の物件広告を確かめるオーナーというのは、実はとても少ない。
そのため、ひと月、ふた月、それ以上……と、無情にそのまま時間が流れていくというのも、これまた「あるある」な風景だ。
以上、物件を見ずに不動産ポータルサイト上の情報だけで賃貸住宅への入居を決めてしまう人がいまは結構いることを踏まえ、その判断のよりどころとなっているはずの「写真」について、いくつか話をしてみた。
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この記事を書いた人
コミュニティみらい研究所 代表
小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。