アフターコロナ時代の不動産マーケットを大胆に予測する
藤戸 康雄
2021/10/25
イメージ/©️ hywards・123RF
心配された「東京オリンピック後」の不動産下落は?
コロナ禍になる前は、「東京オリンピックが終わったら、オリンピック特需やその集客効果としてのインバウンド需要が剝がれて、不動産は下落するのではないか?」と心配する向きもあった。
この根拠は「高騰している建築費が過熱から正常に戻ることで新築マンションや新築ビルの価格が下がる可能性がある」ということ、「インバウンド需要過熱により、東京や大阪の人気観光エリアへの宿泊需要を見越したホテル建設需要が、オリンピックが終われば減ることで、当該エリアの地価高騰に歯止めがかかる」というものだ。
だが、ふたを開けてみると、東京オリンピックは1年延期後になんとか開催はされたものの、コロナ禍による無観客開催となり、海外からの観客もなかったことで、オリンピック前に期待された特需もなかった代わりに、オリンピックが終わったからということではなく、コロナ禍によってインバウンド需要が蒸発する結果となった。
だが、建築費という面では、もともとあった建設業界の人手不足が、コロナ禍によって外国人労働者が呼べなくなったことで、さらに人手不足感が強まり、建築費は高止まりを余儀なくされている。コロナ禍による経済悪化を阻止するため、アベノミクス以降の日銀による大規模金融緩和は継続されている。加えて、全世界的なコロナ対策での金融緩和が歴史上類を見ない規模と地域で行われている結果、全世界的な金余りの余波が、株価の高騰や不動産価格の高騰を招いている面があるのだ。東京オリンピックは無観客開催されたが、皮肉にもオリンピック終了による影響もまた「無」という結果になった。
世界と日本の金融市場はどうなるのか?
コロナが始まった2020年初頭。得体のしれないコロナウイルスによる感染者やそれによる死亡のニュースが連日のように報じられて、全世界が恐怖のどん底にいるような感覚になっていた。当然に世界で株価が連日にわたって暴落していた。
ニューヨークではダウ平均株価が1000ドルレベルで暴落し、日本でも日経平均株価が1000円単位で暴落するなど、市場関係者は毎日肝を冷やしていたものだ。
ところがである。世界の中央銀行が経済の底割れを防ぐために、過去に例をみない規模での金融緩和と金利の引き下げを行った結果、株価は世界で急回復したのだ。それどころか、世界の金融の中心であるニューヨークでは、21年10月に入って、コロナ禍前どころか過去最高値まで更新するほど株価が上昇した。日本でも日経平均株価が21年9月には、バブルと言われた1990年(平成2年)8月以来の実に31年ぶりの高値を付けたのである。
その理由は、コロナ対策による全世界での金融緩和、金利引き下げの影響だが、国債の利回りがゼロにほぼ等しいほど低くなり、市場に出回る過剰な資金が少しでも有利な利回りを求めて株式市場に流れ込んだ結果、株価の高騰を招いたのだ。そして最近では、ワクチン接種率の向上などによってコロナ禍が収束に向かうと見られており、今後の経済回復を見込んだ企業の業績回復を織り込んだ株価の上昇も見られるようになった。
著名な投資家やエコノミストも口をそろえて言っているのだが、このような過剰流動性相場はいつか必ず終わる。問題はそれが“いつか”ということだ。
過剰流動性相場の終わりの始まりと日本経済
各国の中央銀行が市場に過剰な資金を供給してきた理由は、リーマンショックの時なら金融市場の崩壊を防ぐためであり、コロナ禍にある現在は、人々の生活を支えるための財政資金であった。そのおかげでリーマンショックからは比較的短期間で金融市場は回復したし、今回のコロナ禍による生活不安も、飲食店や旅行業界など痛みが激しい業界ではまだまだこれからではあるが、一般的な庶民の生活は守られてきたと思う。
ところが、最近になって原油価格が高騰し、その影響がとても大きくなっている。コロナの影響で原油の運搬に関わるサプライチェーンや運搬に関わる人手の不足などが原因である面や、中東やロシアの思惑も入り乱れているので事情は複雑だが、原油が上がればガソリンや灯油も上がり、燃料を使う工場で作る製品や、ビニールハウスで栽培している野菜の値段も上がっている。
これは、いわゆるインフレの兆候と考えられており、現にアメリカの中央銀行であるFRBもインフレの兆候を認めて、金融緩和の縮小をこの11月にも開始するといわれている。なお、金利を引き上げるのは22年から23年にかけて数回行われる見込みといわれている。
金融緩和の縮小、金利の上昇があれば、過剰流動性相場は終わるといわれている。終わるといっても株価が急落するわけではなく、いわば「終わりの始まり」なのだ。庶民が「コロナ禍で疲弊した状況の中でなぜ株価が上がっているのか?」というような不思議な状況が終わると言ってよい。普通の状況に戻るということだ。
ただし、日本に限って言えば、アメリカのように人口が増えたり、ハイテク産業による生産性の向上に裏付けられた景気上昇があるわけではないため、30年以上停滞した経済情勢は簡単には変わらない。今まさに衆議院選挙運動の最中であるが、「経済を普通に戻すために金融緩和をやめます。金利を引き上げます」という候補者は一人もいない。
日本はアベノミクス以来始まった「超金融緩和」の一点張りで経済の底割れを防いできた。そしてコロナ対策で財政出動を大盤振舞したため、国の借金が膨大に膨らんできている。そのような中で、金利を上げれば国は借金の利払いさえできなくなる恐れがある。
少し前に財務事務次官が「日本が沈没する」と言って物議をかもしたが、まさにそのような状況にある。日本は、金融緩和をやめたり、金利を引き上げたりすることはできない。そのような中で原油価格の高騰に関連する物価が上昇してきている。
また、最近ニュースで取り上げられているのが、畜産物(食肉類)や漁獲物(マグロやサンマその他)が中国の爆買いに買い負けて、数が少ないうえに値段も上がっている。世界の経済界が最も恐れている「不況下のインフレ」であるスタグフレーションの足音が日本には聞こえてきているような気がしてならない。
日本の不動産市場についての大胆な予測
日本の不動産市場に興味のある方とは、投資家であったり、自分の家を買いたいと考えている人であったり、相続税対策でアパートを建てることを検討している人であろう。「今が買い時なのか?」「不動産は今後値上がりするのか?」と思案をしている人たちは確実にいるのだ。
不動産は高額なものが多いから、マイホームであれ投資用物件であれ、現金一括払いではなく、銀行からの借り入れを利用することが大半だ。だから、不動産市場は銀行の融資姿勢や金利に左右される。銀行が低い金利で積極的に貸し出す姿勢であれば、買いたいと思う人たちが積極的に不動産を買うことで、不動産価格が上がっていく。
18年に発覚したスルガ銀行によるシェアハウス等への不正融資事件をきっかけに、金融庁の監督強化等もあり、投資用不動産への融資は厳格化されていたのだが、コロナ禍の中、在宅時間が増えたサラリーマンを中心に、株式投資などに興味を持つ人が増え、同じように不動産投資を検討する人が増えてきている。そのため、「喉元過ぎれば熱さ忘れる」といわれるとおりに、金融機関の不動産融資が強気に転じているようだ。
だが、しかしである。前述したとおり、日本は今まさに「不況下のインフレ」であるスタグフレーションの危機を感じるような事態に直面している。
これは何を意味するかと言えば、「収入が増えないのに、支出が増える」状況にある。つまり「可処分所得が減る」ということだ。マイホームを買いたい人であれば、ローンを組める金額が減る。つまり買える物件の金額も下がるということだ。家を借りる場合も、払える家賃の金額が下がるということだ。
このことは裏返すと、投資用アパートやマンションの賃料に下方修正圧力が働く。企業の場合も全く同じで、売上が増えないのに経費が増える、したがって利益は減る。企業がオフィスビルを借りるための賃料負担能力が下がる。裏を返すとオフィスビルの賃料に下方修正圧力が働く。既に飲食店やファッション系の店舗では、コロナ禍の影響で如実に賃料下方修正圧力が働いている。
今のところ賃料に下方修正圧力がかからないのは、コロナによる在宅需要に喚起されて旺盛な需要があるネット通販を扱う物流倉庫くらいだ。大型の物流倉庫は借り手の需要が強いのに対して、建てられる場所が少ないために需要に供給が追い付かず、賃料は上昇傾向にある。賃料に下方修正圧力が働いている分野の不動産価格は、下がりはしても上がらないと考えるのが正しい。
今のところ、株式市場と同様に不動産市場も高止まりしており、下がっているという話は聞かない。なぜか? 今や日本の株式市場のメインプレーヤーが外国人投資家であるため、過剰流動性相場である限りは日本の株式市場も下がらないのだ。
だが、前述したとおり世界の金融市場では早晩過剰流動性相場が終わる。メインプレーヤーが日本を去る日もそう遠くはない。不動産市場も同じで、日本の大型オフィスビルや商業施設、大型賃貸マンションに投資していた外国人投資家が日本を去る日もそう遠くはないのではないか。筆者は、日本の不動産市場はアメリカのFRBが金利を引き下げるピークとなる23年を境に転換点を迎えると考えている。
そして、25年には団塊の世代の全員が後期高齢者となる。それ以降は日本の社会は目に見えて多死社会となり、毎年住宅需要及び商業施設需要は減るに違いない。言わずもがなだが労働力人口も減り続けており、オフィス需要も減る。
このような論調で述べると、あたかも23年や25年を境に不動産市場が下がると言ったのに下がらなかったではないかというような反対意見が出る。オリンピックが終われば不動産が下がるといったのに下がらなかったではないかという風にだ。
それらはあまりに近視眼的なものの見方と言わざるを得ない。不動産は上場株式のように売り注文を出せばすぐに売れるようなものではない。売りに出してから1年以上売れない中古マンションなどざらにある。そして売れたときは希望価格から2割下がっていたというようなこともざらにある。
不動産市場の傾向を読むなら、決して近視眼的ではなく、長期的な目線で傾向を読み取ってほしい。特に、何千万円ものローンを組んでマイホームを買う人、相続税対策によかれと思ってアパートを建てる人には、目先の「マンション価格が上がっている」「史上最低金利」などといううたい文句に踊らされてはいけない。価格が高いのはピークだからであり、金利が最低なら今後は上がるのである。
このコラム記事の言わんとするところを深く汲み取っていただければ望外の幸せである。
【この著者のほかの記事をみる】
相続法改正シリーズ #1
実家の不動産相続に大きな影響を与える可能性――「配偶者居住権」
相続法改正シリーズ #2
実家の不動産相続に大きな影響を与える可能性――「遺留分侵害額請求権」
相続法改正シリーズ #3
実家の不動産相続に大きな影響を与える可能性――「おしどり贈与」
この記事を書いた人
プロブレムソルバー株式会社 代表、1級ファイナンシャルプランニング技能士、公認不動産コンサルティングマスター、宅地建物取引士
1961年生まれ、大阪府出身。ラサール高校~慶應義塾大学経済学部卒業。大手コンピュータメーカー、コンサルティング会社を経て、東証2部上場していた大手住宅ローン保証会社「日榮ファイナンス」でバブル崩壊後の不良債権回収ビジネスに6年間従事。不動産競売等を通じて不動産・金融法務に精通。その後、日本の不動産証券化ビジネス黎明期に、外資系大手不動産投資ファンドのアセットマネジメント会社「モルガン・スタンレー・プロパティーズ・ジャパン」にてアセットマネージャーの業務に従事。これらの経験を生かして不動産投資ベンチャーの役員、国内大手不動産賃貸仲介管理会社での法務部長を歴任。不動産投資及び管理に関する法務や紛争解決の最前線で活躍して25年が経過。近年は、社会問題化している「空き家問題」の解決に尽力したい一心で、その主たる原因である「実家の相続問題」に取り組むため、不動産相続専門家としての研鑽を積み、「負動産時代の危ない実家相続」(時事通信出版局)を出版、各方面での反響を呼び、ビジネス誌や週刊誌等に関連記事を多数寄稿。