生涯医療費の半分は人生の残り3分の1で消費 入院・手術にかかる治療を減らすコツ
小川 純
2019/09/25
イメージ/©︎123RF
年齢を重ねるほど“生への執着”が高くなる?
定年後に出費が増える項目の1つが医療費です。年齢を重ねれば、どんな人でも身体のあちこちに不調が出てくるのは仕方のないことかもしれません。
実際、2016年の厚生労働省の調べによると、一生涯に使う医療費の総計は男性が2600万円、女性は2800万円になっています。
しかも、その半分は70歳以降に使われているのです。さらに図版のグラフを見るとわかるように、医療費のピークは平均寿命の直前にあって、平均寿命を超えると一気に下がっています。
言い換えれば、寿命が尽きる直前にたくさんの医療費を使っているわけです。
「もうダメなら、できるだけのことをお願いします」
家族が医師にこんなお願いをするという光景は小説やドラマだけではなく、現実で行われていて、そして医療費が増大しているのかもしれません。
実はこうした傾向は日本独特で、欧米では見られません。最近はさまざまところで取り上げられることから減ってきているとはいっても、日本では意識がなく自分では食事ができない患者に対して、胃に直接食べ物を流入させる「胃ろう」という治療が行われます。欧米では意思疎通のできない患者に対して、こうした治療はほとんど行われません。
あるアンケート調査では、入院患者の年齢が若い人ほど延命治療を望まないと答える傾向が強く、年を重ねるごとその数が減少するというのです。しかも、延命治療を望まないと答えていた人でも、年齢を重なると望むと答えを変える人が増える傾向にあるといいます。こうしてことを聞くと、年配になるほど生への執着が高くなるといえるのかもしれません。
入院・手術のときには忘れずに
年を重ねるていくことで、増えていく医療費の負担をどう少なくするかは定年後生活の大きな課題です。
日本は「誰もが」「どこの病院でも」一定の自己負担で均質のとれた医療を誰もが、どこでも受けることができる「国民皆保険制度」です。そのため70歳までは一律3割の自己負担、70歳以上は基本的に2割負担で病院にかかることができます。また、一定の金額を超えた医療費の自己負担分は取り戻すことができます。これが「高額療養費制度」というものです。
具体的には、上位所得者(標準月額53万円以上)や低所得者(住民税非課税者)ではない、60代の人の場合、自己負担限度額は次のように計算されます。
8万100円+(医療費-26万7000円)×1%
医療費が100万円かかった場合では、自己負担額は30万円になります。しかし、高額療養費制度によって自己負担の限度額は8万7430円になるので、21万2570円が高額療養費として払い戻されます。
ただ、高額療養費制度を使うような病気などで手術や入院をする場合は、月をまたがないようにするということです。もちろん、すぐに手術が必要というような場合は論外。しかし、医師から「いつぐらいなら大丈夫ですか」といような手術日程の調整ができるような場合は、このことは是非、覚えておきたいことです。
というのも、高額療養費は月単位で計算されるため、月をまたいでしまうと、払い戻しの金額が減ってしまうことがあります。
100万円の医療費が2カ月にまたがり、最初の月の医療費が60万円(自己負担18万円)、翌月の医療費が40万円(自己負担12万円)とすると、
最初の月の高額療養費の支給=8万3430円で、戻りは9万6570円
2カ月目の高額療養費の支給=8万1430円で、戻りは3万8570円
合計で13万5140円が戻されます。
しかし、同じ治療を1か月間でまとめて行った場合では、21万2570円が高額療養費として払い戻されます。つまり、21万2570円-13万5140円で、その差額は7万7430円にもなるのです。
定年後、限られた年金で生活するにあたっては、少しでも支出を減らしたいものです。医師と相談しながら入院や治療の日程を調整するのも、医療費負担を軽くするコツです。
この記事を書いた人
編集者・ライター
週刊、月刊誌の編集記者、出版社勤務を経てフリーランスに。経済・事件・ビジネス、またファイナンシャルプランナーの知識を生かし、年金や保険など幅広いジャンルで編集ライターとして雑誌などでの執筆活動、出版プロデュースなどを行っている。