オーナーのお悩み解決します!…法律は「知ってる者」の味方です
南村 忠敬
2022/12/19
とある日曜日の昼下がり。事務所に貸し駐車場を経営しているオーナーさんがやって来られて、こんな話を聞かされた。
~オーナーさん~
「駐車場賃料を何ヶ月も滞納して、こっちから契約解除を通知しているにも係わらず、一向に車を出さない不届きな賃借人に困っているのよ。
契約書に記載されている電話番号には連絡がとれないし、車は契約時のものとは違う高級車が停まっているし、傷でも付けたら逆に損害賠償だ!とか言われるかもだし、いったい誰にどうやって連絡したらよいのか。。法的にはこっちの言い分が100%認められるとは思うんだが、結局何をするにも余計な費用と時間と労力が掛かる。その金も合わせて請求したところでこういう連中は絶対払わないだろうと思うと、何も手を付けられなくてねえ。もう疲れてしまって。」
~私~
いるいる!こんな不届き者、日本全国見渡したら五万と居るだろう。
これが借家の場合なら、賃料滞納があっても出ていってもらうには中々苦労する。それは、我が国が国民に対して最低限の生活を保障している「基本的人権」ってものに絡んでくる話だから、借地借家法や民法の範疇で、ある程度は我慢も仕方がないが、月極駐車場などは単に車(動産)を保管する場所を提供してるだけだから、使用料払わないんならソッコー放り出すのが当然。
しかし、これが車というデカイ鉄の塊の話になるとそうもいかない。重いし嵩張るし、ホイホイと移動させられるものではないし、レッカー車を使って移動させたとしても何処に置く?またどこかの駐車場に保管?そこらの道端に放っといたらいいんじゃないって?駐禁貼られようがボコボコにされようが、こっちは知ったことかと思うけど、そらまあ、他人事だからそんな無責任なことが言えるので。車のようなデカイ物、そこらに捨てたら不法投棄で捨てたこっちが罰金刑ですよね。
~オーナーさん~
「警察だって、民事不介入とかなんとか言うだけで、駐車場内に在る間は取り合ってくれない。現にこの前、交番に通報して所有者を調べて貰ったけど、電話が繋がらないらしく、それっきり。交番の警察官も【警察に連絡しろ!】って紙に書いてくれたけど、テープで貼ったら駄目って。器物損壊とか言われるらしく、ワイパーに挟んだだけ。こんなの風で飛んだとか、誰かが勝手に取ったとか言われ、知りませんってうそぶかれるだけよね。それに、日本の法律は原則として「自力救済」を認めていない。つまり、自分の権利の主張の為に、それが正しいとしても法律に従ってしか救済されないから、督促手続きとか、強制執行とか、裁判所に申し立てて事を進めていくしか方法がない。これって結構面倒で。」と、いうような内容だった。
この場合、オーナーさんの言う通り、事はそう単純なものではない。一般的にこういう状況に置かれたとき、考えることは、「どうやってこの車を放り出そうか」。つまり、移動させる手段はないかって考えるわけだが、ここがポイント!
この不届き者は、駐車場代も払わないくせに高級車に乗ってるんでしょ?ラッキーですねえ。一石二鳥ですよ。車は消えるし、滞納賃料も回収出来る好い方法がありますよ!!
「強制競売」!!駐車場の明け渡しを求めて裁判して、その上で強制執行する手間を考えれば自動車の競売も変わりはない。どうせやるなら損をせずに目的を達成する。
手続きはこうだ!
1)内容証明郵便で、未払駐車料の請求、契約の解除通知、自動車撤去・駐車場明け渡しの請求をする。
2)内容証明郵便が戻ってきた場合は、再度送り状をつけて普通郵便(特定記録付:通常郵便料金+160円)で発送する。送り状には「○月○日に送付した内容証明郵便が、留置期間経過で送達できませんでした。改めて本日○月○日普通郵便で送付する」といった内容の記載をし、裁判の際の証拠としてコピーを保存しておく。
3)土地明け渡し及び未払駐車料金や遅延損害金、訴訟費用等支払を求める訴訟を起こす。
4)判決を取得する。借主が欠席した場合は、「欠席裁判」として貸主は簡単に勝訴判決を得ることができる。
5)自動車の差押え(自動車競売)を裁判所に申し立てる。
これで損はなし。一件落着!要は中途半端なことを考えて、無駄な時間を費やしたところで意味がないっていうこと。最初からここまでやるつもりで「内容証明」を打つこと!大概の人間なら「駐車場ぐらいのことでここまでやる?」って、びっくりして、「あの~、すみせん。。」って電話掛かってくるか、夜中のうちに車は消えているはずだ。
おっと、そのときは滞納賃料を請求すること忘れたら駄目ですよ。「払ってくれないならそのまま手続き進める!」って言ってやればよい。
またまたとある日曜日。今度は、某投資不動産会社の営業からワンルームマンション投資を勧められ、虎の子の貯金を叩いてオーナー家主の仲間入りを果たしたという会社員さんの相談を受けた。
~会社員さん~
「この物件は買う前から賃借人(女子大生)が居って、家賃5万円で契約中ということやったんですけど、何やら、去年まで10ヶ月分ぐらいの家賃を滞納しとったらしいんです。でも、念書で旧オーナーと支払いを約束してるから大丈夫。書いた物は強いから、と言われ、その家賃回収分の半分は私にくれると言われ、25万円だけ物件価格に上乗せしてくれということで買ったんです。
登記も決済も済んで、家主変更の挨拶と、家賃口座の変更、それから滞納分の分割払いも含めて話しをしようと、その念書を持ってマンションに出向いたときのことです。
女子大生曰く…、『家主さんの変更は分かりました。けど、去年までの滞納?それは、前の家主さんとアタシの問題で、オタクには関係ない話でしょ!?それに、そんな金、もうとっくに返済済みやし!!それにさ、そんな念書を勝手に売買するみたいなことして、私は認めませんよ!!』ってわめかれたんです。。可愛らしい顔した女の子がですよ。。
で、ってことは、僕が前のオーナーに騙されたんですか??」
~私~
おお!やられましたなあ。家主が代わったっと聞いたとたんに、「借金なんか無い!」って言われましたんやね?ハハハ!そりゃあ、あなた、準備不足っちゅうもんですよ。そもそも前のオーナーも中途半端なことしたら駄目ですけどね!?まあ、だから10ヶ月も家賃滞納されるんですよ。しかし、この賃借人、ちゃーんと物事分かって言ってるんですか?そうだとしたら大したもんですね。その子のわめいた言葉は、実は非常に論理的で、ポイント突いてますねえ。
「家主の変更承諾」=賃借人の承諾は不要。(だからここには噛み着かない)
「滞納は前家主と自分の問題」=当事者と第三者(あなたは第三者)
「返済済み」=債務の不存在(真偽は別でも、前オーナーと争える。つまり時間稼ぎ)
「新オーナーに支払う義務無し」=債権譲渡が有効ではない(ごもっとも。念書持ってるだけでは駄目)
「認めません」=債務者の抗弁の自由(債権譲渡を承諾しない。ま、無意味ですが) ってな感じですね。。
どうしたらよいですか?って?
そうですね~。まずは、あなたと前オーナーの間で債権譲渡の契約をしておくことです。民法では債権を財産権として捉え、原則として自由に譲渡できることを定めているんですよ(466条)。つまり、債権は取引の対象となるってことです。債権譲渡とは、債権の性質を変えないで債権を移転することで、原則として債権の譲渡人と譲受人との間の合意があれば成立します。で、その際、債務者の承諾は不要。ただし、債務者の承諾が要らないっていうのは、譲渡に関してで、あなたがその子に請求権を行使しようとするときは、滞納家賃の請求権を譲り受ける手続きをすると同時に、前オーナーに債権譲渡通知を債務者である賃借人に、内容証明郵便で送付してもらうことが必要。対抗要件ってやつですな。間違ってもあなたが自分で出したらNG!で、内容証明にする意味は、確定日付というものが債権譲渡の要件になっているからです(467条)。
そうすると、おそらくですけど、賃借人は異議を申し立てるでしょう。「債権譲渡は認めない」とか、「滞納分は家主が放棄したはず」、「現金でず~っと前に返した」とか。
上等!まあ、譲渡は認めないとか言うのは無視してよろしい(前オーナーと譲渡禁止特約がある場合だけ。家賃滞納で、そんなのあるわけないでしょうからね)。それよりも債務が無いっていう主張の方がめんどう。こっちは正式な法手続き踏んでの請求だから、ビビることはない。ゆっくり相手の顔見て、噛み含むように言ってやるんです。
「弁済や放棄により賃料請求権の消滅によって利益を受けるのは君だよね?ということは、君がその証明をしなければならないことぐらい知っているよね?自己に有利な法律効果の発生を求める者は、その法条の要件事実について証明責任を負う。これ、証明責任規範説。民事訴訟の通説だよ。」
そう!ちょっと東京弁っぽく言うとこが味噌(冷徹に聞こえるかも)。
ほら、女子大生の悔しそうで困った顔が目に浮かぶ。。
※法律手続きについては、弁護士等専門家にご相談の上、ご対応下さい。
この記事を書いた人
第一住建株式会社 代表取締役社長/宅地建物取引士(公益財団法人不動産流通推進センター認定宅建マイスター)/公益社団法人不動産保証協会理事
大学卒業後、大手不動産会社勤務。営業として年間売上高230億円のトップセールスを記録。1991年第一住建株式会社を設立し代表取締役に就任。1997年から我が国不動産流通システムの根幹を成す指定流通機構(レインズ)のシステム構築や不動産業の高度情報化に関する事業を担当。また、所属協会の国際交流部門の担当として、全米リアルター協会(NAR)や中華民国不動産商業同業公会全国聯合会をはじめ、各国の不動産関連団体との渉外責任者を歴任。国土交通省不動産総合データベース構築検討委員会委員、神戸市空家等対策計画作成協議会委員、神戸市空家活用中古住宅市場活性化プロジェクトメンバー、神戸市すまいまちづくり公社空家空地専門相談員、宅地建物取引士法定講習認定講師、不動産保証協会法定研修会講師の他、民間企業からの不動産情報関連における講演依頼も多数手がけている。2017年兵庫県知事まちづくり功労表彰、2018年国土交通大臣表彰受賞・2020年秋の黄綬褒章受章。