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プロの深堀・・・不動産価格はどうして決まる?

南村 忠敬南村 忠敬

2022/11/23

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毎年、全国2万1444地点の基準地における7月1日時点の土地価格として各都道府県による調査結果が9月20日に公表された(基準地価)。同様に毎年1月1日を基準日とし、3月下旬に国(国交省)によって公表される地価公示価格とは半年のずれがあり、両者を比較することでその年における地価動向の参考とするなど、土地の相場感覚を養う上で我々不動産事業者にとって有益な資料となっている。
 いずれも算出に携わる専門家は不動産鑑定士で、対象となる基準地が都市計画区域に限られる公示価格であり、同区域外も含まれるのが基準地価である他、評価する鑑定士の対応人数の下限に違いなどはあるが、公的な標準価格の指標としての価値は同様である。

 一方で、不動産事業者(厳密には宅建業者)が用いる価格は「査定価格」と呼ばれ、その算定方法についての法律上の根拠は無い。
※宅建業法第34条の2第2項に、媒介契約締結に際して交付する書面に「当該宅地又は建物を売買すべき価額又はその評価額」の明示と価格根拠の説明義務が規定されているに過ぎない。
 もう十数年も前になるが、宅建業者の価格査定という「業務」に対して報酬を得られるか否かで、ある不動産鑑定士さんと激論したことがあった。
 当然、鑑定士が行う鑑定評価と、宅建業者の価格査定は別物であり、成果として提示する価格(評価)に至るまでに、似通ったプロセス(算出の手法など)を経ることもあるが、そもそも質の異なる「価格」である。従って、鑑定士の資格を持たない者が“鑑定評価”を行うこと自体、言語道断であるが、そのことと、宅建業者が有料で価格査定を行うことの違法性は論点が違うと思うからだ。端的に、「不動産の評価(つまり価格)を有料で行えるのは不動産鑑定士だけ!」と結論づける根拠は、不動産の鑑定評価に関する法律の第2条に規定されている「不動産の鑑定評価」の定義に、『「不動産の鑑定評価」とは、不動産(土地若しくは建物又はこれらに関する所有権以外の権利をいう。以下同じ。)の経済価値を判定し、その結果を価額に表示することをいう。』とあり、言葉遣いは違っても、宅建業者が行っている「価格査定」も不動産の鑑定評価の一つであるから、鑑定士でない者の行う価格査定を、報酬を得て行うことは同法第36条(不動産鑑定士でない者等による鑑定評価の禁止)に抵触する、との一点張りだった。弁護士の見解も同じで、非弁行為(弁護士法72条・73条・74条)と同様、士業の権益は法律で守られていると強調された。
 極めつけは、宅建業法による宅建業者の報酬請求権の取得は、契約の成立によるところ、媒介契約の時点で派生する「価格査定」業務などは建設省告示報酬に包括される、つまり、3%+6万円の中に含まれているから別に請求できないのは当たり前だというのだ。
 あの・・・、そんなこと言われなくてもわかってますよ、それに、宅建業者の報酬の何たるかはこの話の本筋じゃないんですけど。そもそも依頼された仕事=労役に対して対価が発生するのは、契約自由の原則に基づけば当然でしょう?
宅建業法の規定(媒介契約)に該当しない、つまり売却依頼を前提としない査定単独の依頼だってある。鑑定士ほどではないかもしれないが、現地調査から行政調査、関係書類の取得、査定報告書の作成まで相当な時間と作業労力と実費を掛けて仕上げる業者も居るだろう(巷で出回る相場価格の提示というレベルの査定ではなく)。そういう宅建業法規定外の仕事においても、前述した論法で一蹴されなければならないのか?宅建業者は、業法に規定された業務以外はしてはならないのか?それ以外はすべて“ただ働き”せよということか?そうじゃないでしょう。。そんな喧喧囂囂の記憶が蘇ってきた。
で、結果はどうなったかというと、予め依頼者との間でコンサルティング契約を締結し、価格査定業務に対する報酬はNGで、査定に必要な書類や証明書取得に掛かる実費と要した交通費、日当(高額な日当は報酬とされるので注意)などで、相手方が承諾したものに限って請求できるのではないか、ということに落ち着いた。こういう立場だから、不動産屋さんは価格査定を重要視しなくなり、“とりあえず価格”的な無料査定にならざるを得ないのだろうか。「信頼産業も絵に描いた餅だな。。」

【不動産の価格とは?】

不動産の価格は、一言で表すと「地球上のすべての要因が凝縮されて経済学上の貨幣価値に置き換えられた金銭価値」というらしい。
どこどこの中古マンション、1980万円、○○町の新築一戸建て3980万円。学生向け賃貸マンション、家賃5万円共益費込み!っていう、その値段・価格のことだが、その根拠は、「ミクロ経済学・マクロ経済学」の基本的な話に遡る。簡単に言えば資本主義経済における市場(人の集まり)でモノの取引が始まる。マクロではその全体メカニズムを、ミクロでは個々の取引のメカニズムを、つまり資源分配のメカニズムを研究する。モノの価格は、ミクロの学問で研究されており、価格決定のメカニズムは既にはっきり解明されている。ただ、そのモノの種類によって価格形成要因が違うってことだ。
皆さん、ケインズ君を知ってますか?
有名な経済学者で、資本主義経済のメカニズムを研究し、「ケインズ理論」を提唱した人。彼はその中で、「価格は労働力の対価」として表わしている。ミクロで解明されるメカニズムだけでは市場は動かないことを証明して、国策による市場形成を展開した有名なマクロ経済学の理論だ。
モノの値段を決めるとき、先ず資材原価と加工工賃+企業利益で商品価格が決まる。それを「市場」に放り込んで「取引」する。しかし、商品には需要と希少性という大切な性質があって、単に労働対価だけでは価格の説明がつかないモノも出てくる。例えば、宝石とか、金とか、すごく希少性のあるものは当然高い価格がつく。

 

 

不動産は土地に希少性があって、建物は言わば生産品である。従って、同じモノを造ることが出来る建物と、世界に二つと同じモノは無い土地から成る不動産の“価格”は、土地と建物は分けて考えるべきだ。住宅を例にとれば、約3千とも言われる部品・部材から出来ており、その一つ一つの製品生産工程に裏付けられた「労働対価(企業利益を含む)」が存在する。それらを組み立てていく大工さんや左官屋さん、電気屋さんなどの施工業者がこれまた「労働対価」を加算していく。住宅の見積書を見れば、項目別に表示される様々な「対価」に驚くだろう。これを積算と言い、合計されたものが住宅の原価だ。だから不動産屋さんも家1軒の値段は大体インプットされていて、築年数とか傷み具合とか、これまた大体新築価格(再調達価格)-減価(償却損)という算数を使って、「まあ、こんなもんやねえ」となる。
問題は土地。土地は加工生産品ではない(埋立地はちょっと除外)。ダイヤモンドとか鉱物資源に近いかもしれない。
大昔、ある土地を占有する者の下に別の人がやってきて、「この場所を譲ってくれ」と言った。占有者は「この土地は日当たりが良く、米がたくさん出来る。譲るなら米をたくさんもらわないと」と条件を出す。自ずと両者の間で市場経済に基づく対価の試算が行なわれ、千日分の米と交換が成立するとしよう。この土地の対価は「米千日分」。買い手は土地条件の良し悪しと、そこから生産される価値(米の収穫高)を試算し、千日分の米を渡してもなおこの場所を占有する価値を見出すなら「買い」。売り手はその逆。そうして双方の経済的均衡が図られると取引が成立する。これが市場経済の原理。そうすると土地の値段というのは、「労働対価」ではなく、「交換価値」で説明する必要が出てくる。つまり、不動産の価格はこの複合体によって形成されているということである。結論を言うと、現代のような成熟した資本主義経済の下では、個人の場合、年収と家計、賃貸条件と利用価値の汎用性などなど、雑多な要因を総合して価格に対する個々の基準を判断する。
ここでポイント。“市場経済のメカニズムは希少性の前では無意味になることがある。これを「交換価値の特異性」と言う。”つまり、最終的には需給関係、それも1対1の需給関係で決まるのが不動産である。ただ、それを一軒々検証して価格を算出することなど、現代では殆ど不可能。だから、土地には一定の基準が国の政策によって表示されている。それが「路線価」「公示価(基準地価)」と言われる公価であり、これらを利用して個別の土地に値段をつけていくのが価格評価のプロである鑑定士なのだ。鑑定士は毎年、様々なデーターを収集して公価の調整を行なっているから、不動産屋さんは是非とも公価を基本に土地の査定をしてもらいたい。
実務上は、「事例批准」と呼ばれる、この辺の類似案件の取引データー(国土交通大臣指定不動産流通機構データベースREINS)なんかを頼りに決定する不動産屋さんの査定。それも大切なデーターであるが、公価はそれらのデーターも包括しているから、より取引市場で認められる「価格」を出すには、公価を基準に査定することが重要。
 これからの時代は、モノの「価値」を消費者が見極めていく時代。いい加減な価格は市場に受け入れられない時代が来ている。

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この記事を書いた人

第一住建株式会社 代表取締役社長/宅地建物取引士(公益財団法人不動産流通推進センター認定宅建マイスター)/公益社団法人不動産保証協会理事

大学卒業後、大手不動産会社勤務。営業として年間売上高230億円のトップセールスを記録。1991年第一住建株式会社を設立し代表取締役に就任。1997年から我が国不動産流通システムの根幹を成す指定流通機構(レインズ)のシステム構築や不動産業の高度情報化に関する事業を担当。また、所属協会の国際交流部門の担当として、全米リアルター協会(NAR)や中華民国不動産商業同業公会全国聯合会をはじめ、各国の不動産関連団体との渉外責任者を歴任。国土交通省不動産総合データベース構築検討委員会委員、神戸市空家等対策計画作成協議会委員、神戸市空家活用中古住宅市場活性化プロジェクトメンバー、神戸市すまいまちづくり公社空家空地専門相談員、宅地建物取引士法定講習認定講師、不動産保証協会法定研修会講師の他、民間企業からの不動産情報関連における講演依頼も多数手がけている。2017年兵庫県知事まちづくり功労表彰、2018年国土交通大臣表彰受賞・2020年秋の黄綬褒章受章。

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