二地域居住、始めの一歩の踏み出し方
馬場未織
2016/01/07
「できるの?」の意見を大事にする
毎日毎日、仕事、仕事。
今週、日中太陽のもとで過ごした時間は全部でどれくらいだろう?通勤や移動時間以外はずっと室内?こうやって家と仕事場の往復だけで人生が過ぎていくんだろうか……。
人は同じ環境に居続けると、血流が悪くなることがあるものです。仕事自体が嫌いでやめたいというわけじゃない。でも、この煮詰まり感ったら!!
圧倒的に環境を変えたい。ライフスタイルを、変えたい。
と言っている家族が、あなたにいるとします。
そして、「週末だけでも田舎で暮らせたらいいなあ!」と言われたとします。
あなたなら、どうしますか?
自分自身が強いモチベーションを持っている場合も、考えてみてください。
単身であれば、自らが決断した後、現実的にクリアすべき問題を整理して、あるタイミングで飛び込んでいくことになると思います。
では、家族やパートナーがいる場合はどうでしょう。英会話に通うといった規模であれば、手元で予定や予算をやり繰りして実現できる場合が多いと思いますが、暮らし方の根幹に関わる時は、そこに巻き込む人たちが出てきます。
ぴったり息を合わせて「そうだね!」と即答してもらえる、即答できるのであれば幸せです。でも大抵は、心配が先に立って批判的な意見が返ってきたり、返したり。
週末は、田舎で暮らしたい。
その思いを実現させるために必要なはじめの作業は、一緒に暮らす人の合意取りつけです。
二地域居住は、移住とは似て非なるものです。移住は暮らしそのものを全部移すわけですが、二地域居住は仕事や暮らしを今あるところに残しつつの変化ですから、見かけ上の必然性は弱い。ですから、一緒にその気になる、あるいはその気になってもらうために、腹を割った話し合いが必要となってきます。それは、この計画を冷静に見直すきっかけにもなるのです。
最初の一歩から共同作業で
仮にあなたがとても田舎暮らしがしたいとしましょう。得てして、相手が批判的なツッコミを入れてくることは真理を突いています。ですので、いい機会だと思ってきっちり向き合ってみる価値はあります。よく論点になるのは金銭問題と持続可能性です。
(1)お金は?
必要です。暮らす場所を増やせば、生活にかかる費用は増します。二地域居住によって破産するような計画であれば、見直しを強くおすすめします。
ただ、二地域居住の予算捻出は、できないことはありません。
都市で費やす時間が減る分、コストも減ります。光熱費減のほか、休日のリフレッシュのために行っていたショッピング、外食、娯楽施設、ゴルフ、小旅行、ちょっとお茶しに行く、ちょっと豪華な食材を買う、カルチャースクールや子どもの習い事など、積み上げるとけっこうなことになります。なぜなら、都市生活では、アクションを起こすことの大半が消費につながるからです。
田舎暮らしでかかるランニングコストとしては家賃、交通費、光熱費、農機具にまつわる費用(燃料費・メンテナンス費など)、趣味費、たまに地区会費や祭りの花代、その他暮らし方によって都市生活ではかからないお金がかかります。ただ、美味しい野菜が畑で獲れたり、ご近所さんからいただきものがあったりと、エンゲル係数は低くなっても満足感はぐっと上がります。
始める前から厳密な試算をするのはむずかしいですが、今ある暮らしをシェイプアップするなども含め、凹凸のつじつま合わせが工夫次第でできるかどうかつかんでおくのは大事です。
(2)続くの?
続かない人もいます。二地域居住を続けている人には、「週末田舎暮らしがしたい」という基本的な思いのほかに、何かひとつでも、強いモチベーションがあるのではないかと思います。それは、「古民家カフェがやりたい!」などというごっつい夢でなくても構いません。
たとえば、
・生きもの好きな子どもと思いっきり自然のなかで過ごしたい(←これはうち)
・サーフィンを毎週やりたい(←親友)
・食に興味があり、自分で野菜を育てるところからやってみたい(←知人)
・ある土地を訪れて一目惚れした(←知人)
・オフグリッド生活のできる家がほしい(←親友の夫)
・家族は移住、自分は二地域居住で基本田舎ベースにしたい(←知人)
・いつか実家で暮らすための準備として(←知人)
知っている限りでは、そのような明確なイメージのある人たちは、二地域居住が長く続いています。もちろん、一緒に住む人が自分と同じモチベーションである必要はありません。方向性は違っても、生活の変化を楽しみたいと思えることが重要なのです。
仮に続ける丁寧にイメージを共有する手間を惜しみ、相手を引きずるように二地域居住を始めると、相手との諍い(いさかい)を増やすことにもなります。
はじめは丁寧に、その後は大胆に
居住はイベントではありませんから、一点突破で始めるのは危険です。共に暮らす人たちと理想や課題をきちんと共有できるよう、初動は丁寧に進めていくことをおすすめします。
正直言って、始めの頃は、環境の変化による感動も大きいですが苦労も多いものです。四季を通じて通ってみる×2年くらい続けてみたところで、ようやくこの暮らしの本当の価値がわかってきます。また、その経験をベースにした新たなモチベーションが生まれてくることもあります。わたしは二地域居住を始める前は畑仕事などには興味がほぼありませんでしたが、この暮らしを続けるなかでずぶずぶハマり、今では生きがいのひとつにまで昇格しました。
計画や想定は大事です。でも、想定は所詮、想定。喜びも苦労も想定外のことばかりですから、あとは具体的にアクションを起こしながら考えてみるのはどうでしょうか。
この記事を書いた人
NPO法人南房総リパブリック理事長
1973年、東京都生まれ。1996年、日本女子大学卒業、1998年、同大学大学院修了後、千葉学建築計画事務所勤務を経て建築ライターへ。2014年、株式会社ウィードシード設立。 プライベートでは2007年より家族5人とネコ2匹、その他その時に飼う生きものを連れて「平日は東京で暮らし、週末は千葉県南房総市の里山で暮らす」という二地域居住を実践。東京と南房総を通算約250往復以上する暮らしのなかで、里山での子育てや里山環境の保全・活用、都市農村交流などを考えるようになり、2011年に農家や建築家、教育関係者、造園家、ウェブデザイナー、市役所公務員らと共に任意団体「南房総リパブリック」を設立し、2012年に法人化。現在はNPO法人南房総リパブリック理事長を務める。 メンバーと共に、親と子が一緒になって里山で自然体験学習をする「里山学校」、里山環境でヒト・コト・モノをつなげる拠点「三芳つくるハウス」の運営、南房総市の空き家調査などを手掛ける。 著書に『週末は田舎暮らし ~ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記~』(ダイヤモンド社)、『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』(共著・学芸出版社)など。