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愛着のある土地に対して、自分ができることから始めてみる

二地域居住もそのひとつ。個人にできる地方創生とは?

馬場未織馬場未織

2016/08/26

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ご先祖様のいない土地に暮らす

お盆休みが終わり、いつの間にか夏も後半戦に突入しました。

休み中に、お墓参りでご実家に戻られた方も、多いのではないかと思います。

ご先祖様に手を合わせ、親や親族と久しぶりに顔を合わせる。孫を楽しみに待っているおじいちゃん、おばあちゃんもいるでしょうし、もう少し親孝行しないとなあと改めて感じることもあるでしょう。帰りには、行きに持ってきたお土産の何倍もの手土産を持たされて帰ることになったり。

田舎では、先祖のお墓がないと、基本的にはヨソモノです。

「暮らしはじめて30年、40年経っていたとしても、まだ地元の人間と認定されていないですよ」と苦笑する方もよくいます。週末だけ南房総で過ごしているわたしたちなんて、100年経ってもヨソモノでしょう。

先日、ご近所で仲良くしている方のところへ行き、お仏壇に手を合わせました。親族でもなければ地元の人間でもないわたしたちですが、お迎えする気持ちだけ、合流させてもらったという感じです。ススキの茎が足になっているキュウリは馬、ナスは牛。果物や花がたくさんお供えされているお仏壇には、「さあ、食べて食べて」と目の前に戻ってきた方へ美味しいものを差し出すような、親しみ深い気持ちが込められているように思いました。

横のつながり、縦のつながりのある土地を大事にする

また、お盆の時期になると、袖ケ浦ナンバー(*)以外の車を集落のなかで見かけるようになります。夕方などは、顔なじみではない若いお母さんや、小さな子どもたちが、田んぼのあぜ道で犬の散歩をしていたり。まるでわたしたち家族のように、虫かごと虫取り網を持った親子がいたりもします! (地元の子どもたちが虫取りをする姿は見かけませんので。)

実家に帰ってきた子や孫がいる集落は、賑やかとまでは言いませんが、すこしだけ華やいだ雰囲気が漂っています。里山学校などで親子が集っているときの空気とも違います。きっと各家庭で、いつもより豪華な夕食が並ぶんだろうな、話が弾んでいるかもしれないな、なんていう想像が、そう思わせるのかもしれません。

夫もわたしも実家が東京にあるというわたしたち家族は、お盆だからといって帰る田舎がありません。だから、「おばあちゃんのいない、おばあちゃんち」をわたしたちの代からつくろうと、二地域居住という風変わりな暮らし方をしています。

もし帰る田舎があったら、こんな大がかりなことをしなくても、実家に帰るだけでいいのにな、とも思います。

ご先祖様のいない、親族のいない田舎を持つというのは、新しい発見や感動に満ちた異文化交流です。それはときに、ずっとその土地にいる人とは違った観点で地域を見る目を持つことができたり、地元の方や移住した方とわけ隔てなくつきあえる立場を得たりというよさを発揮します。

また、地元の方々からどう見られているかは置いておき、自分たちにとってはかけがえのない「第二の故郷」ができるわけですから、これはとても素敵なことです。きっと、わたしたちの人生は、すでに南房総なしには考えられなくなっていますから。

一方で、自分の出身地であったらならば、また違った深さのある愛着を持てていただろうなと考えます。

いまでも田舎では、家の裏にお墓を持っている家が少なくありません。

うちの畑の奥にもご近所さんのお墓があるのですが、お盆になるとおじいちゃんとおばあちゃんが花をたずさえて歩いているところを見かけます。もうだいぶんご高齢のご夫妻です。この土地で生きて、生き切っていく。想像すると、それはとても穏やかなことのように感じます。自分の家の近くにいる親のもとに、帰るだけですから。

いまを生きる人たちとの横つながりの縁と、ご先祖様から未来へと続く縦つながりのご縁。これがどちらもある環境に暮らす価値を、この土地に暮らしてはじめて実感しました。わたしには、横つながりしかないのですけれどね。

(*)袖ヶ浦ナンバー:千葉県南房総市(私の”田舎の家”があるエリア)は車のナンバーが「袖ヶ浦」になります。

一人ひとりが試みる形の「地方創生」

もし、いま、実家とは違うところに住んでいる方がいたら、ぜひ、実家のある地域についていま一度思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

いや、「実家に戻れ」「墓参りをしろ」ということではありません。

たとえば、都市に出てきて働き、自分や家族の生活を支え、仲間をたくさんつくり、すっかり実家とは縁が切れたと思っていても、そこには、たくさんの思い出やつながりがあるはずです。

「懐かしいなあ! 」
「しかし昔と違って、ずいぶん寂しくなったなあ」
「まったく、さびれたもんだ」

そんな風に感じるとしたら、ほんのわずかでも、その地域でできることがないか、と考えてみてはどうでしょうか。東京在住者の8割は、地方出身者だといいます。その8割の人たちが、実家のある地域の豊かさに向き合ってみたり、実家と都市との関係について真剣に考えてみたり、実際に自分がそのつなぎ役を買って出てみたりしたら、「ずいぶん寂しくなったなあ」と他人事のように思っていたその場所に、再びリアリティのある愛着を持つことになるのではないでしょうか。自分たちの暮らしも、ひとところで完結せず、ぐんと広がりのあるものに変わっていくかもしれません。

同窓会の席などで、「最近、全然帰ってなくて」という通り一遍の話だけではなく、ちょっくら一緒に何かしないか? とけしかけてみるなど、きっかけはいくらでもつくれる気がします。

少なくとも、わたしたちのように本当のヨソモノよりは! 笑。

新しい関係をつくることばかりではなく、これまでにすでにつくっているかけがえのない縁を大事にするなかに、大きな可能性が隠されているように感じます。

一人ひとりが生まれた土地を振り返り、できることをする。

それこそが何よりも素敵なご先祖様への恩返しでしょうし、大きな税金を投入せずともじわじわとローカルを盛り上げていく地方創生なのではないでしょうか。

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この記事を書いた人

NPO法人南房総リパブリック理事長

1973年、東京都生まれ。1996年、日本女子大学卒業、1998年、同大学大学院修了後、千葉学建築計画事務所勤務を経て建築ライターへ。2014年、株式会社ウィードシード設立。 プライベートでは2007年より家族5人とネコ2匹、その他その時に飼う生きものを連れて「平日は東京で暮らし、週末は千葉県南房総市の里山で暮らす」という二地域居住を実践。東京と南房総を通算約250往復以上する暮らしのなかで、里山での子育てや里山環境の保全・活用、都市農村交流などを考えるようになり、2011年に農家や建築家、教育関係者、造園家、ウェブデザイナー、市役所公務員らと共に任意団体「南房総リパブリック」を設立し、2012年に法人化。現在はNPO法人南房総リパブリック理事長を務める。 メンバーと共に、親と子が一緒になって里山で自然体験学習をする「里山学校」、里山環境でヒト・コト・モノをつなげる拠点「三芳つくるハウス」の運営、南房総市の空き家調査などを手掛ける。 著書に『週末は田舎暮らし ~ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記~』(ダイヤモンド社)、『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』(共著・学芸出版社)など。

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