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現代医学と漢方医学の違いは自然との向き合い方にある

杉 幹雄杉 幹雄

2020/11/03

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イメージ/©︎freerlaw・123RF

日本の医療現場では多くの医師が漢方薬を使うようになり、体裁上は現代医学と漢方医学の融合がなされたかのように見えます。しかしながら、前回のコラム現代医学の病名から漢方薬を選んでも効果はない?でお話ししたように漢方を現代医学の病名投与として使っても、漢方医学の本来の力を発揮させることはできません。

そこで今回は現代医学と漢方医学の違いを考察し、漢方医学の真の姿、可能性についてお話しします。

文明論で考える現代医学と漢方医学

現代医学は西洋文明の哲学の上に作られた医学であり、漢方医学は東洋文明の哲学の上に作られている医学です。そのため病気をとらえる視点も、この2つの文明哲学は相反しています。

現代医学を作った西洋文明は「自然を克服する哲学」を基盤にしています。一方で、漢方医学を作った東洋文明は「自然順応を基本とする哲学」を基盤にしています。

この「自然を克服する」道のりとは、「自然を敵視し制服すること」にあります。一方の「自然順応を基本とする」道のりには、「自然の道理を理解して共生順応していくこと」に重点が置かれます。

当然のことながら、文明哲学を基盤としてできあがっているのが医学です。つまり、このような医学の視点の基盤が病気治療に向き合う姿勢に反映され、この部分が2つの医学を比較するうえで重要な点になります。

言い換えれば、現代医学は「病気を不必要なもので異常と考え取り除くこと」を主眼として構築されています。一方、漢方医学は「病気の必要必然性を理解し、必要性を除くことにより病気を治すこと」を主眼としています。

こうした病気治療への向き合い方の違いに「病気が身体にとって必要必然性があるかどうか」という視点を加えて、現代医学、漢方医学2つの医学を観察すると、2つの医学の将来性が浮かび上がります。

何故ならば病気が身体にとって必然性があって発症しているならば、その病気を不必要で異常なものととらえ敵視し、必然性を認めない現代医学に将来性はないと言っても過言ではないからです。逆に、すべての病気が不必要なものであるものならば、現代医学は今後も発展していくでしょう。

この「病気が身体にとって不必要な現象」であれば、漢方医学では衰退していくでしょう。

しかし、「病気が身体にとって必然性がある現象」であるならば、漢方医学は今後の医療に大きな転換をしていくもたらす役目を担っていくに違いありません。

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現代医療と漢方医療――「病態把握」の違いはどこか?

次に現代医学と漢方医学2つの医学の病態の把握の仕方、診察の違いを比べてみましょう。

現代医学の病態把握では、検温、血圧、血液検査、尿検査、レントゲン、心電図など病気の症状に合わせてさまざまな検査を行い、その結果から「病名を決める」ということを行います。

実は、私は大きな病院での勤務医時代のとき、「病名を決める」という医師の仕事が好きでした。

どんな病気なのかを「決めること」は、その後の治療が変わるわけですから、病名を決めることは現代医学にとって最も重要なファクターです。こうした医療行為は経験が浅くても患者さんと多くの時間を共にして、表情や症状など患者さんの細部までみている主治医の勘がモノをいいます。この部分は上司の医師にも勝るということもあって、私はこの仕事が好きだったのかも知れません。

このように必要な検査を行い、病名が決まったら、次は治療です。後はその治療をしながらの経過観察になります。このプロセスが現代医学の病態把握の一般的な方法です。

一方、漢方医学は、実は現代医学と比較して病態把握の方が難しいと言えます。

具体的には、舌を診て色、苔、舌下静脈の怒張の程度を診察、脈を診て強いか弱いのか、浮いているのかといったことを診ていきます。

舌を診ることは胃腸機能の状態や身体の血や水分が多いのか、少ないのかなどの内臓の状態を把握することにつながります。脈の速さは今の身体が急性期なのか、それとも虚脈が速いのかを考える基準になります。

「虚」とは弱っている、エネルギーが少なくなっているという意味で、脈の速さなどの診察、次に身体を診察します。

次ページ ▶︎ | バランスを基本とした漢方薬の処方 

バランスを基本とした漢方薬の処方

現在、保険適応の漢方薬は150種類以上ありますが、こうした病態把握をしたうえで、的確な漢方薬を選び処方します。とはいえ、この処方が非常に困難です。そこでそれを容易にするためには、漢方処方を大きく分けることが必要になります。

その手引きになるのが、『傷寒論』という漢方書、「陰陽論」と「気水血理論」という考え方です。

『傷寒論』とは漢方医療を解説した医療書の中でも感染症についてまとめたもので薬草構成について書かれています。中でも重要なのは漢方薬を処方する際に崩れた臓器にバランスを元に戻すという視点です。

そこで用いられるのが「陰陽論」と「気水血理論」は、古代中国からある考え方です。

「陰陽論」とは、全宇宙に存在するものは「陰」と「陽」に分けられ、時と場所、状況や関係に応じて変化しながらバランスを取っているとするものです。そして、このバランスが崩れた状態が病気になっている状態と判断します。

「気水血理論」とは、気=生命エネルギー、血=血液、水=体液、リンパ液、水など血液以外の水分のことで、これらの3つのバランスから健康が保たれているとされます。

このように漢方医学では、常に身体の状態のバランスが取れているかを基本にしているため、診察の前に陰陽性と気血水理論を理解し、身体をとらえることが重要になります。

次回は、具体的な漢方薬の処方から垣間見える病気の姿をお話ししていきます。  

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この記事を書いた人

すぎ内科クリニック院長

1959年東京生まれ。85年昭和大学医学部卒業。国立埼玉病院、常盤台病院、荏原ホームケアクリニックなどを経て、2010年に東京・両国に「すぎ内科クリニック」を開業。1975年大塚敬節先生の漢方治療を受け、漢方と出会ったことをきっかけに、80年北里大学東洋医学研究所セミナーに参加。87年温知堂 矢数医院にて漢方外来診療を学ぶ。88年整体師 森一子氏に師事し「ゆがみの診察と治療」、89年「鍼灸師 谷佳子氏に師事し「鍼治療と気の流れの診察方法」を学ぶ。97年から約150種類の漢方薬草を揃え漢方治療、98年からは薬草の効力別体配置図と効力の解析を研究。クリニックでは漢方内科治療と一般内科治療の併用治療を行っている。

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