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漢方医学の基本「三陰三陽思考」その2――小柴胡湯の処方から読み解く漢方の病気へのアプローチ(1/2ページ)

杉 幹雄杉 幹雄

2020/12/15

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イメージ/©︎Marilyn barbone・123RF

生薬の性格から処方される漢方薬

前回(「病気」とはいったい何か?――漢方医学の基本「三陰三陽思考」 その1は漢方医学の基本となる「陰陽論」と「気血水理論」の考え方の基本要素について説明しました。それを踏まえたうえで、今回は漢方薬がどのように処方されているかを見ていきましょう。

ここでは例として、よく処方される小柴胡湯(しょうさいことう)を例に見ていきます。

小柴胡湯は「柴胡・半夏・生姜・黄芩・人参・大棗・甘草」で処方されています。それぞれの生薬の性格は次のようになります。

柴胡(さいこ・セリ科の植物)/血に属し、肝臓の血熱を取る薬草
半夏(はんげ・サトイモ科の植物)/気を制御し鳩尾(みぞおち)と水平に気のポイントを指し示す薬草
生姜(しょうが・ショウガ科の植物)/水に属し、小腸の水分や栄養吸収を良くする薬草
黄芩(おうごん・シソ科の植物)/水に属し、鳩尾(みぞおち)と水平にある臓器の熱せられた水分を駆逐する薬草
人参(にんじん・セリ科の植物)/血に属し、小腸での血虚(貧血・血の不足)を戻そうとする薬草
大棗(たいそう・クロウモドキ科の植物)/気を制御し、臍(ヘソ)部を中心とする気のポイントを示す薬草
甘草(かんぞう・マメ科の植物)/処方全体の薬草の関連性を強めるといわれている薬草

張明澄先生の「漢方方剤大法口訣」によれば「甘草は太極」と指摘されています。「太極」とは、易学や中国哲学において宇宙の根元という意味で、漢方薬の基本中の基本の薬草といえるでしょう。

「気」剤とされている薬草は、半夏と大棗であることから、最初に推測されることは「小柴胡湯」は鳩尾の右周辺(肝臓当たり)と臍部(へそ)回りの処方だと推測できます。

・半夏(属性/気)鳩尾と水平にある臓器の気の詰まり
・柴胡(属性/血)肝臓の血熱をとる
・黄芩(属性/水)鳩尾と水平にある臓器の水の除去

ということになり肝臓が鬱血し水により、その熱を減弱(とろうと)している姿になります。

また、この処方からは次のことも読み取れます。

・大棗(属性/気)臍部を中心の「気」剤
・人参(属性/血)小腸の血虚是正し、大棗(ナツメの熟した実)に不随
・生姜(属性/水)冷たい水の排出

そして、気剤の薬草である半夏と大棗を結びつけるのが甘草になります。

以上のことから小柴胡湯の処方は、肝臓の鬱血と小腸の虚血を治す漢方薬ということになると推測されます。

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この記事を書いた人

すぎ内科クリニック院長

1959年東京生まれ。85年昭和大学医学部卒業。国立埼玉病院、常盤台病院、荏原ホームケアクリニックなどを経て、2010年に東京・両国に「すぎ内科クリニック」を開業。1975年大塚敬節先生の漢方治療を受け、漢方と出会ったことをきっかけに、80年北里大学東洋医学研究所セミナーに参加。87年温知堂 矢数医院にて漢方外来診療を学ぶ。88年整体師 森一子氏に師事し「ゆがみの診察と治療」、89年「鍼灸師 谷佳子氏に師事し「鍼治療と気の流れの診察方法」を学ぶ。97年から約150種類の漢方薬草を揃え漢方治療、98年からは薬草の効力別体配置図と効力の解析を研究。クリニックでは漢方内科治療と一般内科治療の併用治療を行っている。

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