フレッシャーズ諸君に告ぐ‼ 新天地で強かに生き延びる方法とは
南村 忠敬
2023/03/28
地球が回っている限り、当たり前のようにやって来るこの季節。桜が咲いたか?散ったか?内定は取れたか?未だにリクルートか?悲喜こもごも、いたるところで“希望と挫折”がコントラストする。しかし、5月の風が肌に心地よく、長袖が気になる頃には、もうフレッシャーズなんて誰ももてはやしてはくれず、柵の背景に自分自身の存在の薄さを痛感する。鏡の中の自画像に向かって問いかける。「貴方は一体誰??」
独立行政法人労働政策研究・研修機構の「調査シリーズ№191若年者の離職状況と離職後のキャリア形成Ⅱ(若年者の能力開発と職場への定着に関する調査)2018.8」のデータから、1984年4月~1998年3月生まれを対象として、正社員として勤務を経験したことがある、高校、短期大学、高等専門学校、専修学校(専門課程)、大学、大学院修士課程を卒業・修了の条件を満たした男女の入社後3年以内に早期離職した人の理由で、男女共に高い割合を占めているのが、「労働条件」「肉体的、精神的健康阻害」「人間関係」を原因とする離職である。当然、これらの原因の存在が心的に大きなストレスを抱えることに繋がり、社会生活の適応も難しくなっていく。アルフレート・アードラー(注1)は、社会生活の中における人の悩みは100%対人関係の悩みだと断言する(社会動物としての人間は対人関係の中で存在する)。
注1
アルフレート・アードラー(独音)(アルフレッド・アドラー英音):1870年2月7日~1937年5月28日 オーストリア出身の精神科医、心理学者、社会理論家。ジークムント・フロイトおよびカール・グスタフ・ユングと並んで現代のパーソナリティ理論や心理療法を確立した1人。参考出典元・ウィキペディア
心理学の分野に一般的な、実験心理学と応用心理学(注2)という分類の方法があるが、生物の意識や行動、特に人間の心と行動のあり方とその仕組みについて、物理学や生理学において用いられるような人為的客観的実験と検証方法を用いる心理学を前者、実験心理学を通じて得られた研究成果を、実用的に応用して現実の社会の中で役立てる目的で行う研究分野を後者と位置付ける。
注2
実験心理学は、人間や動物における様々な心理的現象を、行動観察などの科学的で客観的な実験手法を用いることによって理論的・法則的に解明する心理学のあり方のことを意味する言葉として定義され、具体的には、認知心理学、比較心理学、知覚心理学、生理心理学、発達心理学などの心理学の各分野が含まれる。
一方、応用心理学には臨床心理学、教育心理学、産業心理学、犯罪心理学、スポーツ心理学、災害心理学、動物心理学、家族心理学といった心理学の各分野が含まれる。
組織内で人間関係がギクシャクするフレッシャーズへ
我々人間は、社会動物の定義を引用すれば、集団生活、集団行動、組織行動、社会共同体が前提となる社会生活を営みながら我々は生きている。集団とは、特に目的を同じくしたチームを指すのではなく、社会全体及びその中のコミュニティのことを言う。組織や共同体の意味としては、一人一人が置かれた環境の中での係わりを言う。
人は集団に入るとどのような行動をとるのか。これは心理学の分野で最も研究されてきた行動心理の一つである。一人よりも二人。三人寄れば文殊の知恵など、日本の諺にも例えられるように、何をするにも独りの考えより複数の意見を集約し、よりよい提案として纏めることが大切である、という“当たり前”と言われそうな論理である。
集団でアイデアを出し合うことによって、相互交錯の連鎖反応や発想の誘発を期待する技法として学校教育現場や職場でも採用されて久しい、「ブレインストーミング会議(注3)」方法の検証実験によれば、三人の集団が最も多くのアイデアを生み出すとの報告がなされている。人数が多ければそれだけ分のアイデアが出そうなものだが、実はそうでもないというのだ。「船頭多くして船、山に登る」の諺しかり。
しかし、原因はそれだけではない。ビブ・ラタネ(Bibb Latane 1937~米国の社会心理学者)の有名な拍手実験では、6人の集団に対して力いっぱいの拍手を求めたが、力いっぱい拍手をしたのは3人だけであり、残りの3人は明らかに力を抜いた拍手をしたというのだ。興味深いのは、手抜きした3人が、それぞれ力を抜いたという意識が無いことである。また、マクシミリアン・リンゲルマン(Maximilien Ringelman 1861~1931 ドイツ社会心理学の創始者と呼ばれる)は、綱引きを使って集団における“社会的手抜き”の実験を行った。綱を二人で相互に引き合う場合は、それぞれが93%の力を平均で出しているが、三人では85%に落ち、8人では各人平均が49%に手抜きするというのだ。つまり、人は集団になると無意識のうちに力を抜く=いい加減になるということが実証されている(リンゲルマン効果)。これは、老若男女、文化を超えて見られる現象であり、どちらかと言うと集団主義的国家(アジアに多い)よりも個人主義的国家(欧米)に顕著だという。
注3
ブレインストーミング会議:ブレインストーミング会議とは、集団でアイデアを出し合うことによって、相互交錯の連鎖反応や発想の誘発を期待する会議技法である。議題は予め周知しておく方法と、先入観を与えないよう、その場で資料を配布する方法もある。参考出典元・ウィキペディア
意見の相違や纏まりの薄い組織の中で与えられた責任、その理不尽さ故に口論となったり、分裂してしまったりした結果、友人や職場での関係がギクシャクし、ここには馴染めないと憂鬱になりかけたなら、是非『三人』という数をキーワードにしてコミュニティを意識してはどうだろう。
努力型より要領型が厚遇されやすい理不尽に遭遇したフレッシャーズへ
正直者は損をする、または、バカを見る、とはよく使われるフレーズである。一方で、「目明き千人盲千人(注4)」、と言われるように、客観的且つ楽天的な諺も見逃してはならない。
心理学では、「信頼」と「安心」を次の様に定義する。
「信頼」とは、相手のことがよく分かっていなくても「付き合っていかなければいけない」という心理状態のことである。他方、「安心」とは、相手のことをよく分かっていて「この人なら自分から(何かを)搾取することはない」と考える心理状態のことである。
国立青少年教育振興機構の行った日米中韓の高校生に対する心と体の健康意識調査では、日本人は他人に対する信頼が低く、安心を求める傾向に在ることがわかっている。これは、社会的不確実性に関する結果であり、集団社会主義を形成する国民に顕著に現れることが知られている。すなわち、個人主義の対極に在る心理である。この傾向から日本では「義理人情」型の集団社会が生まれ、今日に至っている。つまり、初対面の相手より、集団に居る「仲間」を重用し、安心感の上で何事も進めていこうというわけだ。貴方も、そして廻りを見渡しても思い当たることは多いのではないか。例えば、社内で使っているコピー機の新規参入業者のプレゼンには耳を貸さず、明らかに高コストの現行取引先からの提案を毎回受け入れるようなことが。理由は、「長年使っているし、担当者も良く知っているので安心だから」ではないか?
貴方の属する集団組織(学校、会社など)で、ろくに仕事も出来ない(一方的な偏見であるかも)、ゴマすり上手な同僚が上席や教師に可愛がられ、地道にコツコツと仕事をこなし、確実に組織の役に立っているはずの人物(それは貴方かも)の評価は常に低く、悶々とした日々を送って来た。と言われる方。先述した「信頼と安心」の心理メカニズムをご理解頂けただろうか。すなわち、この国の人々というのは、安心感を与えた人間に味方するのだということ。そういう視点で自分の周りを客観視してみると、なるほど頷けることばかりではないか。ならば、貴方は(理不尽に怒る方は)どうすべきか。
それは「安心」を周りに与える行動を起こすことしかないのではないか。勿論、いい加減なお調子者になり下がれと言っているのではない。自分を知ってもらう努力をすることである。取引コスト(注5)を自らが負担して(他人は貴方のために取引コストを掛けることは無い。それが日本人である)。自分を知ってもらえれば、周りは貴方に対して安心感を抱くことは実証済みであるから、心配は不要である。「わかってもらえなくてもいいんだ…」などといじけて諦めては何事も進まない。「いっそ自分も理不尽なやつらの仲間に加わろうか」と思ってみても、貴方の性格ではそれも出来まい。
そんな立場に居る人でも、見てくれている人は案外多いものである。「目明き千人」は、一応貴方の見方であることは間違いない。しかし、この千人の過半数は、おそらく貴方と同じ境遇の持ち主であることに注意が必要だ。傷の舐め合いで憂さ晴らしをすることに時間を費やすことは卒業しなければならない。自分を知ってもらう努力とは、「盲千人」に対するアクションだと思いがちであるが、実は「目明き千人」に対しても必要な努力であることを、お忘れなく。
注4
目明き千人盲千人(めあきせんにんめくらせんにん):世の中には、道理のわかる者もいるが、わからない者もいるということ。それは結局半々で、世の中は保たれていることの例え。差別的用語ではない。
注5
取引コストとは経済用語で、企業の経済体系を運営する費用であると定義(オリヴァー・ウイリアムソン:米国の経済学者)。製造コストと違って、経営陣は取引コストと製造コストを測ることで企業戦略を決定する。取引コストとは、取引を成立させる際の計画立案、決定、計画変更、紛争解決および販売後も含まれる費用の総額であり、取引コストは事業運営や同管理において最重要といえる要因の1つである。そこから人間関係の構築に必要な労力、時間、有形無形の費用などを取引コストに含めて汎用的に使用する。
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この記事を書いた人
第一住建株式会社 代表取締役社長/宅地建物取引士(公益財団法人不動産流通推進センター認定宅建マイスター)/公益社団法人不動産保証協会理事
大学卒業後、大手不動産会社勤務。営業として年間売上高230億円のトップセールスを記録。1991年第一住建株式会社を設立し代表取締役に就任。1997年から我が国不動産流通システムの根幹を成す指定流通機構(レインズ)のシステム構築や不動産業の高度情報化に関する事業を担当。また、所属協会の国際交流部門の担当として、全米リアルター協会(NAR)や中華民国不動産商業同業公会全国聯合会をはじめ、各国の不動産関連団体との渉外責任者を歴任。国土交通省不動産総合データベース構築検討委員会委員、神戸市空家等対策計画作成協議会委員、神戸市空家活用中古住宅市場活性化プロジェクトメンバー、神戸市すまいまちづくり公社空家空地専門相談員、宅地建物取引士法定講習認定講師、不動産保証協会法定研修会講師の他、民間企業からの不動産情報関連における講演依頼も多数手がけている。2017年兵庫県知事まちづくり功労表彰、2018年国土交通大臣表彰受賞・2020年秋の黄綬褒章受章。