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ジェネレーティブ(生成系)AIとのパートナーシップ

南村 忠敬南村 忠敬

2023/08/04

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今年も既に折り返しから一ヶ月が経とうとしている。連日連夜の酷暑で疲れた体を癒そうにも、こう暑くては昼間と同様、エアコンのお世話にならずして最低限度の睡眠時間を確保することも出来ない。去年の夏も暑かった…はずなんだが、ヒトの記憶とはお粗末なもので、「去年よりはましだから、今年はなんとかやり過ごせそう」などといった比較データに基づいた耐性のコントロールを、この老体に求めても全く無駄である。暑いのは「今」暑いのであって、この暑さから逃れる方法への思考のみが重要なタスクだ。私の萎縮著しい脳内で、「暑い≒冷やせ」の指令は電気信号としてニューロンに働き掛け、シナプス間隙を光速で駆け巡る。その様は、陽の光も届かない密林の鬱蒼とした樹々の枝から枝へ飛び移るホエザルのそれだ。

2023年上半期の三大ニュース(勿論拙者個人のトピックスである)と言えば、第一にあの忌まわしいCOV-19からの離脱を挙げる。二番目は「ショウヘイ・オータニは宇宙人」で、三つ目に挙げるのが世間を震撼させている「生成系AI」と呼ばれるコンピュータ・プログラムの爆発的なブームである(生成系AI=与えられたタスクに対してAIが自動的に解を作り出す技術のこと)。

今までヒトが試行錯誤して完成させてきた成果を、あらゆる分野でAIが台頭するとあって、これはもう天地創造のセカンドステージに突入するぐらい大きな衝撃を受けた。AI研究者の多くは、1980年代以降、いつかはAIが人間の脳を超える時(シンギュラリティ≒技術的特異点、すなわち人間とAIの臨界点)を迎えると予言しており、一定の分野では既に現実となっている。

そもそも人工知能的な機械の研究は、AIという言葉が生まれた1950年代後半から行われており、機械による“推論と探索”を特定の課題(主に数学的な計算など)について行い、解答を導き出すためのプログラムが開発された。その後、“エキスパートシステム”という専門知識のデータベースを利用したAIに引き継がれ、現在では多種多様なビッグデータと学習機能の実用化、更にはデータの特徴量をAI自らが学習し、習得するディープラーニングの開発によって社会的な汎用性が拡がり、今回テーマの生成系AIの実現に至っている。

不動産流通業務と生成系AIの相性

不動産の流通市場において取り扱う商品の特性は、完成物件を対象としていることである。賃貸、売買の市場では居住用や事業用の種別はあっても、供給者側と需要者側とにおける条件のマッチングが成約の鍵であり、巷の不動産業者、営業マンは日々そのために努力している。最近の不動産広告ポータルサイトには、既にAI技術が導入され、よりユーザビリティに配慮した検索エンジンが搭載されていることはもうお気づきだろう。

単なるワードの検索機能ではなく、設定した諸条件からユーザーの傾向を見出し、興味を引くであろうと推測される物件をAIで検索して表示しているのである。ユーザー側の志向や嗜好を拾い上げるためには、ポータルサイト上でのアクセスログデータに留まらず、個人のインターネット利用履歴やアプリケーションソフトの利用状況などをブラウザやOS上からも抽出し、多様な情報からAIが機械学習を試みて特定ユーザーの特徴を推測し、「物件検索」の場面にも活用しているのだ。あとは、それぞれのポータルサイトで使用するAIプログラムのアルゴリズムなどによる推測と検索の結果に違いが生じることは当然だが、利用目的(物件検索)が同じであるポータルサイト間では、最終的に検索表示される物件の物理的な量によっての違い程度である。であるから、ポータルサイト各社は不動産業者に対して、他社より多くの物件登録を営業の最大目標としているわけだ。

これはもう、営業マンの仕事の半分(物件探しは営業の9割と言われる)ぐらいがポータルサイトAIで賄われていると言っても過言ではない。不動産の流通営業と生成系AIは実に好相性なのである。

更に昨年来取り沙汰されている流行りの生成系AIを駆使すれば、顧客への連絡や物件の紹介、周辺情報、投資目的に応じたシミュレーションなど、凡そ営業マンが考えつく範囲のプレゼンテーションに必要な情報は全て瞬時に資料として作成してしまうとなれば、もうそれはAIが高度な知識と経験を有した営業マンであり、生身の人間の役割は、AIが作成した資料を届けるだけのメッセンジャーぐらいしか残されていない。それとて、システム上で顧客が直接入手することは難しいことではないから、運用方法によってはメッセンジャー機能も奪われるだろう。

最近の不動産流通市場で行われている情報交換(営業活動)の様子は、対面、膝を突き合わせて営業マンの話に耳を傾け、担当者の人となりを推し量り、「この人なら信用できる!」と顧客の心をグッと掴む魅力的な人間営業ではなく、俄か知識とインターネットからの情報を頼りに、不動産関連企業が提供する業務支援ツールのフォーマットに何の疑問も抱かず、規定化された営業プラットホーム上で業務を行っているのがおそらく殆ど。そうであれば、これはもう不動産DXの奴隷であり、アバターがモニター上を動き回っているのと同然ではないか!?

多様なシーンで利用される生成系AIとの付き合い方

生成系AIは、2022年11月、対話型AIである“Chat GPT”の一般公開以降、瞬く間に一般ユーザーのレベルに浸透していった。既にChatbotなど、よくある質問、QA問答など対話型アプリの利用は特に世界的なCOV-19による対面対話の制限下で普及したこともあり、ユーザーにはそれほど違和感なく受け入れられた。

生成系AIの特徴は、AI自身が解答を探し求めて学習を繰り返す「ディープラーニング(深層学習)」の機械学習モデルだ。そして、その学習の基になるデータは人間社会における様々な分野の蓄積された情報で、途方もない量が使われる。当然、その情報の正誤やフェイク、善悪や質の良否に至るものも全て対象とされるから、AIが導き出す解答が正しいのか間違いなのか、質問の意図を適確に捉えたものかズレているか、その真偽の判断は利用者である我々が下す必要がある。生身の個人の脳ミソなら、その人の学習経験値が蓄積されて利用されるが、AIプログラムには何百万、何千万人もの利用者が選択した解答データも当然蓄積され、それもまた機械学習のリソースとして使用される。

つまり、生成系AIの特徴は同一の利用者が同一のコンテンツを求めたとしても、時間の経過によってAIが導く解答は常に異なるものとなる(確立された定義に基づく計算などは除く)。人間は得てして固定概念で突き進むこともあるが、考え方も信念も変化することだってあるから、生成系AIの“考え方”の変化はより人間に近いものであると言えるが、異なるのはそのスピードだ。検証したデータが手元にあるわけではないから、どのぐらい人間との差が有るのかはわからない。ただ、それが天文学的なレベルだということは容易に想像する。AI研究分野では、「日進月歩」などという時間的概念は通用しない、「秒進分歩」の世界だろう。生成系AIの出来がどんどん良くなれば、人間は創造的な思考能力が退化し、クリエイティブな活動や仕事をしなくなると言われる(国立情報学研究所佐藤一郎教授)。少子化が進むにつれ、人手不足に悩む産業分野では、AI搭載ロボットが台頭し、課題解決の救世主としてAIへの依存度は益々強まっていく。必要なことは、AI技術の高度化と同じく人間とAIの共生に関する研究であり、強制力を備えたルールと法整備、社会規範の構築であろう。

遺伝子組み換えによって生産された食品と自然食品の違いは、味覚や視覚での判別は不可能となった。消費者庁は、2023年4月から遺伝子組み換え食品の表示に関し、食品表示法の改正法を施行。その内容は、「遺伝子組み換えではない」旨の表示基準の厳格化で、従来「5%」以下で認めていたものを「不検出≒0%」の食品にのみ認めるとした。

翻って、生成系AIによる成果物の利用に制限を掛けることは、今後益々難しくなると思われ、それを顧客に提示する際には、遺伝子組み換え食品表示と同様に基準と提示ルールが必要になって来るのかも知れない。

 

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この記事を書いた人

第一住建株式会社 代表取締役社長/宅地建物取引士(公益財団法人不動産流通推進センター認定宅建マイスター)/公益社団法人不動産保証協会理事

大学卒業後、大手不動産会社勤務。営業として年間売上高230億円のトップセールスを記録。1991年第一住建株式会社を設立し代表取締役に就任。1997年から我が国不動産流通システムの根幹を成す指定流通機構(レインズ)のシステム構築や不動産業の高度情報化に関する事業を担当。また、所属協会の国際交流部門の担当として、全米リアルター協会(NAR)や中華民国不動産商業同業公会全国聯合会をはじめ、各国の不動産関連団体との渉外責任者を歴任。国土交通省不動産総合データベース構築検討委員会委員、神戸市空家等対策計画作成協議会委員、神戸市空家活用中古住宅市場活性化プロジェクトメンバー、神戸市すまいまちづくり公社空家空地専門相談員、宅地建物取引士法定講習認定講師、不動産保証協会法定研修会講師の他、民間企業からの不動産情報関連における講演依頼も多数手がけている。2017年兵庫県知事まちづくり功労表彰、2018年国土交通大臣表彰受賞・2020年秋の黄綬褒章受章。

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