サブリース契約の解除トラブルについて
森田雅也
2022/08/26
イメージ/©︎wirojsid・123RF
今回は、サブリース契約の解除トラブルについてご説明します。
不動産投資の現場では、賃貸人が投資マンションなどを一括でサブリース会社(大抵、不動産会社や管理会社などが多いです)に貸し付け、サブリース会社がこれを転貸し利益を得るという事業が広く行われています。
そして、この賃貸人とサブリース会社の契約をマスターリース契約といい、サブリース会社とエンドユーザーの契約をサブリース契約といいます。
なお、ややこしいですが、マスターリース契約とサブリース契約の2つをまとめてサブリース契約と呼ぶ場合もあり、一般的にサブリース契約というとこの2つの契約をまとめて指すことが多いです。
本稿では、賃貸人とサブリース会社の賃貸借契約を「マスターリース契約」、サブリース会社とエンドユーザーとの契約を「サブリース契約」と区別して記載します。
サブリース契約の解除トラブルの多くは、一般的にマスターリース契約に起因するトラブルが多いです。
今回はそのようなトラブルについて解説していきます。
サブリース会社にマスターリース契約が解除される可能性
サブリース会社が当初の見込みに反して収益が上がらない等の事情で、サブリース会社がサブリースから撤退することがあります。
特に、マスターリース契約書において、サブリース会社から解除することができる旨の規定がある場合は、契約期間中であってもマスターリース契約が解除されるリスクがあります。
他にも、サブリース会社が契約期間終了間際に、賃貸人に対して更新拒絶をしたりすることでマスターリース契約を終了させることもあります。
これらのサブリース会社からの中途解除や更新拒絶には、以下で詳述する賃貸人からマスターリース契約を解除・更新拒絶を行う場合と違い正当事由は必要とされません。
サブリース会社といえどもマスターリース契約の賃借人にすぎないので、サブリース会社からの解除・更新拒絶は借り手の権利として強く保護されているのです。
賃貸人がマスターリース契約を解除・更新拒絶したい場合
賃貸人がサブリース会社の管理業務に不満を感じたり、不具合を感じることを理由に、物件を自主管理または他の業者に変更したい場合、賃貸人からサブリース会社に対し、マスターリース契約の解除や更新拒絶の申し出を行いマスターリース契約を終了させる必要があります。
サブリース会社がマスターリース契約の解除・更新拒絶に納得をしてくれる場合は、マスターリース契約を問題なく終了することができます。
しかし、サブリース会社がマスターリース契約の解除・更新拒絶に納得をしてくれない場合、マスターリース契約を終了させるのは容易ではありません。
マスターリース契約にも借地借家法が適用されますので、賃貸人がマスターリース契約を解除・更新拒絶したい場合には、解除・更新拒絶についての正当事由が必要となるからです。
この正当事由は、賃貸人やサブリース会社が建物を必要とする事情や、マスターリース契約に至る経緯、マスターリース契約終了に伴う転借人の居住への影響などの様々な事情を踏まえ、個々の事案ごとに判断されます。
サブリース会社がマスターリース契約の解除・更新拒絶に同意をしてくれない場合、正当事由が認められなければ、賃貸人からマスターリース契約を終了させることはできません。
サブリース会社の同意がない限り、賃貸人からのマスターリース契約を終了させることは非常に難しい仕組みとなっているのです。
マスターリース契約を合意解除・更新拒絶した場合どうなる
マスターリース契約が合意解除された場合であっても、原則サブリース契約は存続し、エンドユーザーは物件を引き続き使用できます(民法613条3項本文)。
マスターリース契約を締結した時点で、賃貸人はサブリース契約が結ばれること、すなわち、転貸借が行われることを承諾しており、それと矛盾する賃貸人の行動から、エンドユーザーを保護する必要があるからです。
更新拒絶の場合も異なりません。
賃貸人は、そもそもサブリース会社のノウハウを利用して安定的な賃料収入を得る目的でマスターリース契約を締結しており、当初からサブリースを予定しています。
一方、エンドユーザーは、これらの事情のもと、転貸借が承諾される前提でサブリース契約を締結し、物件を使用するに至っています。
このエンドユーザーの信頼に鑑み、サブリース会社が更新拒絶してもなお、エンドユーザーは物件を引き続き使用できるとされています(最高裁判所平成14年3月26日判決)。
したがって、マスターリース契約が合意解約・更新拒絶により終了しても、エンドユーザーは引き続き物件に住み続けることになります。
よって、マスターリース契約終了後は、今度は所有者がエンドユーザーとの関係で賃貸人となって、建物や入居者の管理を行う必要性があります。
さらに、賃貸トラブルを避けるためにも賃貸人とエンドユーザーとの間の賃貸借契約も改めて結んでおく必要があります。
自分でこのような管理等を行うのであれば、そのまま管理業務を引き継げば問題ありませんが、管理会社に管理を委託する場合はその選定や管理委託契約を締結する必要があります。
解除トラブルを避けるためにチェックするポイント
このように、マスターリース契約は一度締結すると賃貸人から解除を行うことは非常に難しいといえます。
マスターリース契約の締結に当たっては、入居者に係る煩雑な業務等をサブリース会社に任せて安定した賃貸経営が行える可能性があるというメリットだけでなく、上記のようなリスクもあるということを十分理解しておく必要があります。
サブリース会社には、マスターリース契約の締結にあたり、相手方の知識、経験、財産の状況、賃貸住宅経営の目的やリスク管理判断能力に応じ、重要事項について書面を交付して説明を行う必要があり、契約締結時には遅滞なく、契約書面を交付することが義務付けられています(賃貸住宅管理業法第30条、31条)。
サブリース会社からの説明をよく聞いたうえ、不明な点があればそのままにしておくことなく、しっかりと事前に確認しておくようにしましょう。
心配な点があれば事前に弁護士や専門家に相談してみることもよいでしょう。
また、既に締結しているマスターリース契約の解除を考えている場合も、解除手続きが難航したり、解除にあたって膨大な違約金を請求されたりした場合は、迷わず弁護士や専門家に相談しましょう。
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この記事を書いた人
弁護士
弁護士法人Authense法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属)。 上智大学法科大学院卒業後、中央総合法律事務所を経て、弁護士法人法律事務所オーセンスに入所。入所後は不動産法務部門の立ち上げに尽力し、不動産オーナーの弁護士として、主に様々な不動産問題を取り扱い、年間解決実績1,500件超と業界トップクラスの実績を残す。不動産業界の顧問も多く抱えている。一方、近年では不動産と関係が強い相続部門を立ち上げ、年1,000件を超える相続問題を取り扱い、多数のトラブル事案を解決。 不動産×相続という多面的法律視点で、相続・遺言セミナー、執筆活動なども多数行っている。 [著書]「自分でできる家賃滞納対策 自主管理型一般家主の賃貸経営バイブル」(中央経済社)。 [担当]契約書作成 森田雅也は個人間直接売買において契約書の作成を行います。